「家族がいれば敵国へ亡命しない」冷戦期の偵察機SR-71の乗員は既婚者に限られていた、という話は本当なのか…?

「家族がいれば敵国へ亡命しない」冷戦期の偵察機SR-71の乗員は既婚者に限られていた、という話は本当なのか…? 歴史

「マッハ3で飛ぶアメリカの偵察機SR-71ブラックバードの乗員は、結婚していることが条件だった。家族がいれば敵国に亡命しないだろうから」——そんな話が海外の掲示板で話題になった。調べてみると、「既婚」という条件がはっきり記録に残っているのは、SR-71の原型にあたるCIAの偵察機A-12のパイロット選考だった。しかも「亡命を防ぐため」という理由は、公式の記録には見当たらない。

※注:CIA(中央情報局)はアメリカの対外情報機関。A-12はCIAが極秘に運用した偵察機で、空軍がその設計をもとに2人乗りに発展させたのがSR-71にあたる。

今日の知ってた?

💍 SR-71ブラックバードの原型にあたるCIAの偵察機A-12では、パイロットの選考条件に「既婚であること」が含まれていた。CIAの公式史によると、条件は「飛行時間2,000時間以上(うち1,000時間は最新鋭の高性能戦闘機)」「既婚で、情緒が安定し、意欲が高いこと」「25〜40歳」「身長約183cm未満、体重約79kg未満」。ただし「亡命を防ぐため」という理由は、この公式史には書かれていない。

背景:SR-71ブラックバードとは

速さと高さで逃げ切る偵察機。SR-71は、アメリカ空軍が1960年代後半から運用した戦略偵察機。桁外れの速さと高さで迎撃をかわしながら敵地の奥深くまで飛び、写真やレーダーで情報を集めるのが仕事だった。スミソニアン航空宇宙博物館によると、設計上の巡航速度はマッハ3.2、飛行高度は約2万5,900m(8万5,000フィート)。旅客機が飛ぶ高さの2倍を超える。

乗るのは2人。前席には操縦を担うパイロット、後席には偵察システム士官(RSO)が座る。RSOは航法(現在位置や進路の計算)と、カメラやレーダーといった偵察機材の操作を受け持つ。原型のA-12は1人乗りだったが、その経験から空軍は「SR-71を安全に飛ばすには2人必要」と判断した。

機体そのものが熱との戦い。音速の3倍以上で飛ぶと、機体の表面は約316℃まで熱くなる。そのため外板にはチタン合金が使われた。1976年には、水平飛行の高度(2万5,929m)と、時速3,529.6km(約マッハ3.3)の絶対速度で世界記録を打ち立てている。スミソニアンに展示されている機体は、1990年3月6日の最後の飛行でロサンゼルスからワシントンまでを1時間4分20秒で飛び、そのまま博物館に引き渡された。

沖縄にもいた。SR-71はカリフォルニアのほか、イギリスと沖縄の嘉手納基地(沖縄は1972年の本土復帰までアメリカの施政権下)を拠点に、1968年3月から1989年11月までに3,500回以上出撃した。沖縄では機体の姿がハブに似ていることから、機体も乗員も「ハブ」と呼ばれた。32機が造られ、12機が事故で失われたが、敵に撃ち落とされた機体は1機もない。1989年にいったん退役し、90年代半ばに一部が現役に戻ったあと、1999年までにすべての運用を終えた。

もう少し詳しく

条件を決めたのは空軍とCIA。CIAの公式史『Archangel』によると、A-12のパイロットの条件は、空軍が機体設計者のケリー・ジョンソンとCIAの助言を受けてまとめた。飛行経験や年齢に加えて身長・体重まで決められていたのは、A-12の操縦席がそれほど窮屈だったから。「既婚」はそうした条件のひとつとして、「情緒が安定し、意欲が高いこと」と並べて書かれている。

選考は上官にも秘密だった。空軍の人事記録を身体と心理の両面からふるいにかけて16人の候補が選ばれ、CIAがさらに保安と健康の審査を重ねた。候補者の上官ですら、部下が何に関わっているのか知らされなかったという。高度な機体を使う極秘の計画だと打ち明けられて誘われたものの、1961年11月の時点で引き受けたのは5人だけ。2度目の選考で6人が加わり、最終的に11人が選ばれた。彼らは書類上いったん空軍を離れ、CIAに雇われる形で飛んだ。

「亡命防止」は、記録に残る理由ではない。公式史は「既婚」を条件に挙げているが、その理由までは説明していない。後年の解説記事などでは、「既婚者のほうが成熟していて落ち着いている」とみなされたという説明と、「家族を残して敵国に寝返る者はいない」という亡命防止の説明が、並べて語られることが多い。結果としてA-12もSR-71も1機もソ連の手に渡っていないが、それが結婚の条件のおかげかどうかは確かめようがない。

SR-71の選考で「家族」はどう扱われたか。SR-71の乗員選考について、元SR-71パイロットのリチャード・グレアムは著書で、正式な面接は、この機体の乗員には長期の派遣任務がつきものだと応募者に伝える場でもあったと書いている。そして結婚している応募者なら、家族とはほとんど会えなくなることを本人がきちんと理解しているか、それをどう受け止めているかを確かめた。精神科医との1時間の面接では家庭生活などについても尋ねられ、安定した乗員になれるかどうかが見極められた。少なくともグレアムの回想の中では、SR-71の乗員について「既婚が絶対条件だった」とは語られていない。

A-12が実戦で飛んだのも沖縄から。A-12の実戦任務は、1967年5月31日から1968年5月6日まで、嘉手納基地を拠点に行われた。この間の出撃は29回で、大半は北ベトナム上空の偵察だった。A-12は1968年に退役し、生き残ったパイロットたちは空軍に戻っている。選ばれた11人のうち2人は、1967年と1968年のA-12の事故で命を落とした。

海外の反応

1. 海外の名無しさん
亡命うんぬんだけじゃなくて、「余計な無茶をしなくなる」って狙いもあったんじゃないかな。家で待ってる人がいるパイロットのほうが、ギリギリの操縦は控えそうだし。

2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
帰ったら奥さんに怒鳴られるのが怖いからな。冷戦期の国家機密を陰で守ってたのは、全米の奥さんたちだったわけだ。

3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
与圧服を着て、高度2万5,000mを超える空をマッハ3以上で飛んでる時点で、何から何までリスクだろ。無茶をするもしないもない。乗り込んだ瞬間から、もう無茶の真っただ中だよ。

4. 海外の名無しさん(>>1への返信)
トム・ウルフの『ザ・ライト・スタッフ』に、アメリカ初の有人宇宙飛行計画(マーキュリー計画)に関わった初期のテストパイロットたちと、その奥さんたちの暮らしが詳しく書かれてる。あれを読む限り、家に奥さんがいるからって無茶をやめた男はひとりもいないね。

5. 海外の名無しさん(>>1への返信)
亡命防止とか無茶の抑止とかより、当時の心理学の考え方が大きかったんだと思う。幸せな結婚をしている人は心が安定していてバランスが取れている、とみなされてたんだよ。それに1950年代のアメリカだと、いい歳して独身を貫く男は、ちょっと怪しい目で見られてたしね。

6. 海外の名無しさん(>>1への返信)
オランダの警察は1960年代から90年代半ばまで、高速道路のパトロールにポルシェを使ってた(最初は356、のちに911タルガ)。言い伝えだと、運転を任されたのは結婚して子どもがいる警官だけ。無茶な運転はしないだろう、ってことでね。

※ オランダの警察がポルシェをパトカーにしていたことは知られているが、「妻子持ちの警官だけが運転できた」という話は、書き込み主の言う通り言い伝えの域を出ず、裏付けは確認できなかった。

7. 海外の名無しさん
60年代後半のアメリカ軍が思いついたことの中では、これなんかまだ全然まともな部類だと思う。もっと突拍子もない計画なんて、いくらでもあった。

8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
どうせ当時のお偉いさんたちは、LSDを使うことまでは思いつかなかったんだろ。……と書こうとして思い出した。CIAは本当にやってたんだった。

※ MKウルトラ計画:1950〜60年代にCIAが進めた研究計画で、LSDなどの薬物を使った実験を含んでいた。1975年に議会などの調査で明るみに出た。

9. 海外の名無しさん
英語の見出しにある defection(亡命)を、一瞬 defecation(排便)と空目した。家族がいるとマッハ3でのお通じがどう変わるんだ、と真剣に考え込んでしまったよ。

10. 海外の名無しさん
1976年にソ連の最新鋭戦闘機MiG-25で函館空港に降り立って、そのまま亡命したベレンコ中尉。あの人も結婚はしてたんだよね。ただ当時は、奥さんから離婚を切り出されてる真っ最中だったらしい。

※ ベレンコ中尉亡命事件:1976年9月6日、ソ連防空軍のヴィクトル・ベレンコ中尉が、西側が詳しく知りたがっていた新鋭戦闘機MiG-25で北海道の函館空港に着陸し、アメリカへの亡命を求めた事件。英語版ウィキペディアによると、当時ベレンコは妻から、離婚して息子と実家へ帰るつもりだと告げられていた。

11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
元妻への捨て台詞としては史上最強じゃないか。「お前と一緒にいるのが嫌すぎるから、国の最新鋭機を盗んで宿敵の国まで飛んで、二度と戻らないことにした」だぞ。

12. 海外の名無しさん(>>10への返信)
残された奥さんと息子はどうなったんだろう。「家族がいれば亡命しない」って理屈が効くとしたら、それは残された家族がひどい目にあうからなわけで、そう考えるとあんまり笑えない。

13. 海外の名無しさん
うちの嫁を知ってたら、空軍もこの方針は考え直すと思うよ。家庭があるからこそ、どこか遠くへ飛んでいきたくなる男だっているんだ。

14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
管制「えー、ジムですが、SR-71で離陸したきり、奥さんがグッチのバッグを返品するまでは着陸しないと言っております」

15. 海外の名無しさん(>>13への返信)
逆のパターンもあるぞ。うちのおじさんは海軍で、下っ端の水兵から艦の副長にまで出世した。本人いわく、全部別れた奥さんのおかげだって。家に帰りたくなさすぎて、仕事に全部つぎ込んだらしい。

16. 海外の名無しさん
結婚してれば亡命しにくいって考えたの? よりによって軍隊で? 長い任務で家を空けてる間に奥さんが浮気してる、ってのが定番のブラックジョークになってる世界なのに。

17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
それで思い出すのが、英語で「Burst of Joy」と呼ばれてる有名な写真。北ベトナムで5年以上捕虜になっていた空軍のロバート・スターム中佐が帰国して、15歳の娘が両手を広げて駆け寄る一枚なんだけど、彼は解放されたまさにその日に、奥さんから「結婚生活はもう終わり」と告げられてた。夫婦はほどなく離婚して、本人はこの写真を家に飾る気になれなかったそうだ。

※ 1973年3月、カリフォルニア州のトラヴィス空軍基地でAP通信のカメラマンが撮影し、1974年にピュリッツァー賞を受けた写真。経緯は英語版ウィキペディアの記述による。

18. 海外の名無しさん(>>16への返信)
結局、夫婦仲がうまくいってる前提でしか成り立たない理屈なんだよね。家族は歯止めにもなるけど、家庭が壊れかけてる人にとっては、むしろ「失うものがない」理由になる。さっきのベレンコ中尉がまさにそれ。

19. 海外の名無しさん
「心理的な歯止め」って、要するに「いいご家族ですねえ。何かあったら大変ですよね」ってことだろ。言い方がきれいなだけで、中身は人質とたいして変わらない。

20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
逆に、奥さんのほうがソ連のスパイだったらどうするんだ。夫が亡命した瞬間に奥さんもふっと姿を消して、向こうで合流しておしまい、じゃないか。

21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
こんにちは。わたし、夫の妻のスヴェトラーナです。夫の飛行機のこと、何も知りません。ぜんぜん興味ありません。写真も撮っていません。

22. 海外の名無しさん
米軍が同性愛者を締め出していた表向きの理由のひとつも、長いこと「脅迫のネタにされるおそれがあるから」だった。でも、同性愛者だとバレていちばん困る相手は、ほかでもない軍そのものだったんだよな。その理屈が「聞かない・言わない」っていう妙な方針につながって、2011年にようやく撤廃された。

※「聞かない・言わない(Don’t Ask, Don’t Tell)」:1994〜2011年の米軍の方針。軍は隊員に性的指向を尋ねない代わりに、同性愛者であることを公にした隊員を除隊の対象にしていた。

23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
脅迫が心配なら、隠す必要のない職場にすれば済む話なのにね。弱みって、隠さなきゃいけないから弱みになるわけで。

24. 海外の名無しさん
結婚していることや、母国に家族がいることを「ちゃんと帰ってくる証拠」として見る考え方は、今もあちこちの国のビザ審査で普通に使われてるよ。アメリカの観光ビザでも、母国に家族や仕事といったつながりがあるかどうかが、審査の大事なポイントになってる。

25. 海外の名無しさん
SR-71の話でいちばん好きなのは、元パイロットのブライアン・シュルが書いてる無線の逸話。訓練飛行の最中、ロサンゼルスの管制にセスナが対地速度を尋ねて90ノット、双発機が125ノット、海軍のF/A-18が得意げに尋ねて620ノット。そこで後席の相棒ウォルターが「ロサンゼルス管制、こちらアスペン20。対地速度を」と聞いたら、管制が「1,842ノットです」。ウォルターがすかさず「こっちの計器だと、1,900近く出てるけどね」と返して、それきり周波数が静まり返ったっていう。

※ 1ノットは時速約1.85kmで、1,842ノットは時速約3,400kmにあたる。この話はシュルが著書『Sled Driver』などで語っている本人の回想で、管制側の記録などで裏付けられたものではない。

まとめ

「既婚」の条件がはっきり記録に残っているのは、SR-71の原型A-12のパイロット選考で、CIAの公式史に「既婚で、情緒が安定していること」とある。ただし「亡命防止のため」という理由は書かれていない。コメント欄では「奥さんが怖くて無茶できない」という冗談から、離婚を切り出されていたベレンコ中尉、帰国の日に妻から別れを告げられた捕虜の写真まで、「家族は本当に歯止めになるのか」をめぐって話が広がった。

元ソース: SR-71ブラックバードの乗員選考で、アメリカ空軍は候補者に結婚していることを求めていたと知った。家族がいることが亡命を防ぐ心理的な歯止めになると考えられていたという

コメント