深海の海底でパイプラインや油田設備を修理する「飽和潜水士」。彼らが吸っているのは普通の空気ではなく、酸素とヘリウムを混ぜた特殊なガスだ。しかもヘリウムのせいで声が高く変わりすぎて、地上との会話には専用の「音声変換機」まで必要になるという。海外掲示板で大きな話題を呼んだ、深海で働く人たちの知られざる世界を覗いてみよう。
今日の知ってた?
📏 飽和潜水士は、酸素とヘリウムの混合ガス「ヘリオックス」を呼吸して深海で作業する。水深約150m(500フィート)を超えるとヘリウムの影響で体に震えが出るため、麻酔作用のある窒素をあえて少量混ぜて抑える。さらにヘリウムで声が変わりすぎるため、地上との交信には音声変換機が必要になる。
背景:飽和潜水とは
飽和潜水は、海底の石油・ガス設備の建設や修理など、水深100mを超える環境で長時間作業するための特殊な潜水方式だ。潜水士たちは船上に設置された加圧チャンバー(圧力を調整した居住カプセル)の中で何日も寝泊まりし、チャンバー内は海底の作業現場と同じ圧力に保たれる。この圧力は「保管深度」と呼ばれ、体の組織を圧力に完全に馴染ませた(飽和させた)状態を維持することで、潜るたびに長い減圧を繰り返す必要がなくなる。減圧するのは全日程を終えた最後の一度だけ。ただしその減圧には数日単位の時間がかかり、その間は何があっても地上の生活には戻れない。
では、なぜ普通の空気ではダメなのか。空気の約8割を占める窒素は、深い水圧の下では「窒素酔い」と呼ばれる酩酊状態を引き起こす。お酒に酔ったように判断力が鈍るため、深海では命取りだ。そこで窒素の代わりにヘリウムを混ぜた「ヘリオックス」の出番となる。ヘリウムは軽く、高い圧力の下でも息を吸い込みやすい。2025年に米科学誌ノーチラスが現役の潜水士に取材した記事は、もっと重いガスを吸えば「濃いスープをストローで吸うようなもの」になると書いている。
この方式の始まりは1950年代の米国にさかのぼる。人の体を長く高い圧力にさらし、血液や組織をガスで飽和させるという考えは1942年にアルバート・R・ベンケが示し、1957年には米海軍のジョージ・F・ボンドが海軍潜水艦医学研究所で「ジェネシス計画」を始めて、人が長時間の高圧に耐えられることを確かめた。いったん飽和すれば、減圧にかかる時間は深さと吸うガスで決まり、それ以上長く潜っても増えない。これが飽和潜水の原理である。ノーチラスの記事によれば、この技術は石油産業を大きく後押しし、メキシコ湾の海上石油施設は1972年までに数百基から3000基近くまで増えた。
もう少し詳しく
ところが、ヘリウムにも落とし穴がある。水深約150mを超えると、今度は「高圧神経症候群」と呼ばれる症状が現れ、手足の震えなどが出てくる。これを抑えるために使われるのが、皮肉にも一度追い出したはずの窒素だ。窒素の持つ麻酔作用が震えを和らげるため、混合ガスに少量だけ戻される。症状の重さは潜る速さにも左右され、ゆっくり加圧するほど軽くなる。つまり深海の潜水士は、深度や加圧の速さに気を配りながら、体の限界とギリギリの駆け引きをしているわけだ。
そしてもう一つの名物が「ヘリウム声」。パーティーグッズのヘリウム缶を吸ったときのあの甲高い声が、勤務中ずっと続くと思えばいい。あまりに声が変わるため、地上スタッフとの交信では声を聞き取りやすくする「ボイスデスクランブラー(音声変換機)」という専用機器が使われる。ただし万能ではない。ノーチラスの取材に応じた潜水学校の主任教官は「やっているのは甲高い声に低音を足すことくらいで、ドナルドダックがオスカー(セサミストリートの低い声のキャラクター)になるだけ」と話している。コメント欄には現役の潜水士も登場し、リアルな体験談で盛り上がった。
海底へは潜水鐘で「通勤」する。ノーチラスの記事によれば、潜水士はチャンバーとつながる卵形の鋼鉄の潜水鐘(ダイビングベル)に乗り込み、チャンバーと同じ圧力のまま海底へ降ろされる。中はトイレの個室ほどの広さで、降りるのに1時間かかることもある。レモンズはこれを「現場へのタクシー」と呼んでいる。ふつうは3人1組で6時間交代、4組が入れ替わって24時間作業を続ける。2人が海に出て、残る1人は鐘の中でホースをさばく役だ。ホースは呼吸用のガスと電気、通信の線をまとめたもので、冷たい海から体を守るために、温水を潜水服に送る管も通っている。レモンズは「10回のうち9回は、視界がほぼゼロ」と話している。
帰るには、深さに応じた日数がかかる。ノーチラスの記事によれば、減圧の目安は「深さ100フィート(約30m)ごとに1日、それに1日を足す」。1000フィート(約300m)で働いたチームなら、地上の空気を吸えるまで11日かかる。チャンバーの中で暮らすのは長ければ1か月ほどで、誕生日も結婚式も葬式も、逃すのはこの仕事では当たり前のことだ。そのぶん稼ぎは大きく、年18万〜20万ドルを持ち帰るのがふつうだという。世界の飽和潜水士は、関係者の見立てで7000〜1万2000人ほどしかいない。
日本の記録は450m。日本では海上自衛隊の潜水艦救難艦が飽和潜水の設備を持つ。2017年の乗りものニュースの記事によれば、潜水艦救難艦「ちはや」の水中作業員の最深記録は450m(46気圧)。そのときは、わずか1時間の作業のために、艦内の加減圧室で20日間暮らさなければならなかったという。世界では、フランスの潜水会社コメックスのチームが1988年に地中海の水深534mで配管の接続作業をした記録があり、1992年には同社の潜水士が実験用の加圧室で、水深701mに相当する圧力に2時間とどまっている。
「死」から生還した潜水士。コメント欄で名前の挙がるクリス・レモンズは、2012年、スコットランドのアバディーン沖およそ185キロの北海で、水深約90mの海底に取り残された英国の飽和潜水士だ。船の位置を保つ装置が故障して船が流され、ガスを送るホースが海底の設備に引っかかってちぎれた。船が位置を立て直して潜水鐘を寄せるまでの30分ほど、彼は息をするためのガスを断たれていたが、仲間の手当てで息を吹き返した。その一部始終は、およそ40分の映像に残っている。そして3週間後には、同じ仲間と海底に戻って、やりかけの仕事を終えている。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
飽和潜水士って、世界で一番怖い仕事の一つだと思う。気になる人は「クリス・レモンズ」に何が起きたか調べてみてほしい。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
北海の海底で命綱が切れて取り残されたのに、奇跡的に生還した人だよね。「ラスト・ブレス」っていうドキュメンタリー映画にもなってる。あれは心臓に悪い。
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
前に読んだ話だと、飽和潜水の作業中に奥さんが流産した人がいて、どんなに帰りたくても減圧に時間がかかりすぎて何週間も帰れなかったらしい。当時の記事には「宇宙ステーションの宇宙飛行士のほうが先に家に帰れる」って書いてあった。
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
宇宙との違いは圧力差なんだよな。宇宙はどこまで行っても気圧差はたかだか1気圧分。海はその何十倍もの圧力が容赦なくかかってくる。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
アニメのフューチュラマで「この船は何気圧まで耐えられるんだ?」「宇宙船だぞ。0から1の間ってとこだな」ってやり取りがあるんだけど、あれ実はめちゃくちゃ正確なジョークだったんだな。
6. 海外の名無しさん
現役の潜水士だけど、正直あの音声変換機は絶対必要ってわけでもない。しばらくすると慣れて普通に聞き取れるようになるよ。全員が自分の「アニメ版」みたいな声になるだけ。だいたい、チャンバーの中の潜水士同士が機械を通して喋ってるとでも思う?
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
チャンバーの中で全員がヘリウム声のままクスクス笑いが止まらなくなって、自主的に「私語禁止」のルールができてるところを想像してしまった。
8. 海外の名無しさん
ヘリウム声って言語によって聞き取りやすさが全然違うらしいね。英語はまだマシな部類だけど、オランダ語とドイツ語はヘリオックスの中だとほとんど解読不能になるって聞いた。
9. 海外の名無しさん
さっき出てた「ラスト・ブレス」、海底で溺れかけた潜水士の救出劇っていう極限の緊張感の映画なんだけど、現実のあの現場は全員ヘリウム声だったんだよな…と考えると、ちょっとだけ感じ方が変わってくる。
10. 海外の名無しさん
順番を整理すると、まず水深30mあたりから窒素酔いが始まるから、窒素をヘリウムに置き換える。そして150mを超えると今度はヘリウム環境で高圧神経症候群の震えが出てくるから、あえて窒素を少しだけ戻す。深く潜るっていうのは、ガスのやりくりとの戦いなんだよ。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
元記事も読んだけど、船上のチャンバーは海底の作業現場と同じ圧力に保たれてて「保管深度」って呼ぶらしい。窒素の麻酔作用を逆手に取って震えを抑えるって、完全に「毒をもって毒を制す」の世界だよな。
12. 海外の名無しさん
この仕事をやってる人たちは、きっと過酷な挑戦そのものが好きなんだと思う。ただ、AIやロボットに置き換わっていく仕事は数あれど、これほど「置き換わってくれて全然構わない」と思える仕事もそうそうない。
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
実際、遠隔操作の無人潜水機がすでにかなりの仕事を引き受けてる。ただ、機械が入り込めない場所や工具コストの問題があって、「人間を水に入れる」必要は完全にはなくならないんだよね。
14. 海外の名無しさん
ロボット化が進まない理由を挙げると、深海用ロボットには可動域、耐圧、耐腐食、工具の持ち替え…と要求が山ほどある。しかもアメリカに潜水溶接士は数千人しかいないから、車みたいに開発費を大量生産で回収できない。市場が小さすぎるんだ。
15. 海外の名無しさん
水深10mちょっと(33フィート)潜っただけで、もう地上の2倍の圧力なんだよな。つまり宇宙空間と地上の圧力差は、たった水深10m分しかないってこと。海の深さがどれだけ異常か分かる。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
ついでの豆知識だけど、その「水深10mで1気圧分」っていうのは「ストローで水を吸い上げられる限界が約10m」という話と同じ理屈。完璧な真空で吸っても、外の大気圧がそれ以上水を押し上げてくれないんだ。
17. 海外の名無しさん
ちなみに飛行機の機内も1気圧じゃなくて、0.75〜0.8気圧くらいに保たれてる。山の上にいるのと同じくらいの環境ね。圧力の話って、知れば知るほど身近なところに転がってて面白い。
18. 海外の名無しさん
知り合いにダイビングのインストラクターがいるんだけど、普通のレジャー用タンクは酸素と窒素の「ナイトロックス」、深く潜るときはそこにヘリウムを足した「トライミックス」を使うって言ってた。ヘリオックスはその親戚みたいなものらしい。
19. 海外の名無しさん
逆に、その高い圧力が一瞬で抜けるとどうなるかを知りたい人は「ビフォード・ドルフィン事故」を調べると分かる。ただし忠告しておくけど、画像検索だけは絶対にしないほうがいい。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
「検索するな」と言われて検索しないでいられる人類はいないんだよ…。後悔はしてるけど、せめてもの救いは、本人たちは何が起きたか認識する間もなかっただろうってことだな。
21. 海外の名無しさん
ヘリウム入りのガスを吸ってるんだから、浮上するときは風船みたいにスイーッと上がれてお得じゃん。むしろ効率的だろ、これ。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
その理屈だと潜水士の心配事は減圧症じゃなくて「そのまま空に飛んでいかないかどうか」になるんだよなあ。物理の教科書が泣いてるぞ。
23. 海外の名無しさん
「汚水処理場のタンクを防護服なしで掃除する仕事」と「飽和潜水士」のどっちかを選べと言われたら、自分は迷わず前者を選ぶ。深海は人間がいていい場所じゃない。給料がいくら高くても無理だ。
まとめ
深海というだけで過酷なのに、窒素酔い、震え、ヘリウム声と、人体のあらゆる限界と付き合いながらの作業。コメント欄では「宇宙飛行士のほうが先に家に帰れる」という事実への驚きや、過去の事故への言及が相次いだ一方で、現役潜水士の「声は慣れる。みんなアニメ声になるだけ」というゆるい証言が場を和ませていました。高給で知られる仕事ですが、「それでも自分は無理」が大半の本音のようです。
参考資料
- ノーチラス「人体の限界に挑む潜水士たち」(2025年・英語)
- 乗りものニュース「沈没潜水艦、乗員どう救出? 着底しても数日は生存 海自の備え「潜水艦救難艦」とは」(2017年・日本語)
- Wikipedia「飽和潜水」(英語)
元ソース: 今日知った話:飽和潜水士は酸素とヘリウムの混合ガス「ヘリオックス」を呼吸している。水深150mを超えるとヘリウムで震えが出るため窒素を追加し、声が変わりすぎるため音声変換機が必要になる


コメント
ヘリウムは音速が早いから常圧でもヘリウム声になる。