夏のパリでは、7月にも8月にも、近所のどこかでバゲットが買えました。偶然ではありません。パン屋の半分は7月、残りの半分は8月に休むよう、行政が割り振っていたからです。この仕組みは2014年末に廃止されるまで続きました。海外の掲示板では「フランス革命直後の1790年から続いた規則」として話題になりましたが、たどってみると、この年号には怪しいところがあります。
※注:フランスでは、夏に数週間まとめて休む「ヴァカンス」が定着していて、個人経営の店が数週間続けて閉まることも珍しくありません。また、バゲットは翌日には固くなってしまうため、その日に食べる分を毎日パン屋で買うのが一般的です。
今日の知ってた?
🥖 パリのパン屋は長いあいだ、夏休みの時期を自分で選べなかった。行政が店を2つのグループに分け、片方は7月、もう片方は8月に休む。翌年は入れ替え。夏のあいだ、どの界隈からもパンが消えないようにするための仕組みだった。
📜 法律上の根拠は1957年の法律。有給休暇でパン屋が店を閉めるときは、住民への食料供給を確保するため、市町村長(パリでは県知事)が休業の時期を決められると定めていた。
✂️ この権限は2014年12月の法改正で廃止され、2015年がパン屋が好きな時期に休める最初の夏になった。
🔎 「1790年から」「革命直後にできた」という説明はフランスや英語圏の報道で繰り返されてきたが、裏付けとなる1790年の文書は確認できなかった(詳しくは後述)。
背景:パン屋の「7月組・8月組」とは
パンは長いあいだ、フランスの人々の主食でした。パンが手に入らなくなれば、それはそのまま社会不安につながります。フランス革命のさなかの1789年10月21日には、パリのパン屋ドニ・フランソワが「パンを隠している」と疑われて群衆に殺される事件が起きました。憲法制定国民議会はその日のうちに、暴動を武力で鎮められるようにする戒厳令を可決しています。
時代は下って20世紀。フランスでは1936年に年2週間の有給休暇が法律で定められ、1956年には3週間に延びました。その翌年、1957年にできたのが、パン屋の休業についての法律です。パン屋が有給休暇の制度に合わせて店を閉める必要があるとき、市町村長が労使の団体の意見を聞いたうえで休業の時期を決められる、という内容です。目的は条文にはっきり「住民への食料供給を確保するため」と書かれていました。
パリでは、この役目を県知事(国が任命する地方の長官)が担っていました。当時の報道によると、市内のパン屋を通りごとに洗い出し、パン屋の業界団体と調整しながら2つのグループに分けていたといいます。毎年夏になると、7月に開けている店と8月に開けている店の一覧が出され、グループは1年ごとに入れ替わります。許可なく店を閉めたパン屋には、1日あたり11〜33ユーロの罰金が科されました。
もう少し詳しく
「1790年から」は本当?この制度は、フランスや英語圏のメディアで「1790年の県知事令に始まる」と紹介されてきました。ただ、フランスで県知事(プレフェ)という役職ができたのは1800年のことで、1790年には県知事令を出せる人がいません。働く人全般に有給休暇を保障する法律ができたのも、1936年になってからです。今回確認できた範囲で、夏のパン屋の休業を割り振る根拠として条文までたどれるのは、1957年の法律です。革命期のパン騒動がこの制度の「前史」として語られるのは自然なことですが、1790年から同じ規則が続いていたと言える資料は見つかりませんでした。
パリだけの決まりではなかった。1957年の法律はフランス全国の市町村が対象で、各地の市長が必要に応じて休業の時期を決めていました。2008〜2009年には国会議員が「今の暮らし方から見て時代遅れで、パン職人に無用な負担を強いている」として見直しを求め、政府は「いまや業界自身が、開ける店と閉める店のリスト作りに深く関わっている」と答えています。
2015年、初めての自由な夏。市町村長のこの権限は、2014年12月20日の「企業活動の簡素化に関する法律」第11条で廃止されました。当時は一部のメディアが、経済相だったエマニュエル・マクロン氏(のちの大統領)の規制緩和によるものと伝えましたが、フランス政府は国会答弁で、廃止の根拠をこの2014年の法律と説明しています。2015年の8月には、「例年なら閉まっているのは半分だが、今年は約3分の2のパン屋が休んでいる」という、パリのパン屋を食べ歩いているブロガーの見立ても報じられました。
廃止のあと。2019年には、ブルゴーニュ地方(ソーヌ=エ=ロワール県)選出の国会議員が「パン屋同士で休みの時期がまとまらず、一斉に閉まってパンが買えなくなる町がある」として、規制の復活を求めました。政府は、この権限はもともと、パンが食生活の中心で、その不足が治安の乱れにつながりかねなかった時代のものだと説明したうえで、「消費習慣が変わり、近所で食料を買える店も増えた今、規制はもはや正当化できない」と回答。復活はしませんでした。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
でも今はいつでも好きなときに店を閉められるようになって、町中のパン屋が一斉に休んじゃったこともあるんだよね。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
閉めるなら、せめて前もって知らせてほしいよね。いきなり全部閉まられたら、こっちの朝ごはん計画がパンクする。パンだけに。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
逆に、本来なら休むはずの月にあえて店を開けてくれるパン屋には、給料もパン生地みたいにふっくら膨らませてあげてほしい。
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
いいご褒美だね。どっちにしても、パン屋がゴロゴロしてる暇はない。寝かせておいていいのは生地だけだ。
5. 海外の名無しさん
フランス人として断言するけど、夏のパン不足は本当に深刻。行きつけのパン屋がヴァカンスに入る前は買いだめが必須。だって「自分の」パン屋にかなう店なんてないし、2本向こうの通りの店に行く気はさらさらない。じゃあ街の反対側にあるもう1軒のおいしい店は…と思うと、そっちも残念ながらヴァカンス中。
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
ちょっと待って、バゲットって翌日には石みたいに固くなるよね? 買いだめなんてどうやるの? 冷凍じゃなくて、毎日焼きたてを買うのがフランス流なんじゃないの?
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
食べる分ずつ切って冷凍庫へ。電子レンジの160Wで2分温めれば、焼きたての8割くらいには戻るよ。とはいえ、言うとおりパン屋の焼きたてにかなうものはない。自分で焼くなら話は別だけどね。
8. 海外の名無しさん
今はスーパーでもけっこうまともなパンが買えるから、行きつけが休んでも昔ほどは困らないよ。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
「まあ食べられるパン」ってやつだね。お腹はふくれるけど、朝から感動することはない。
10. 海外の名無しさん(>>8への返信)
スーパーのはしょせん工場のパンだよ。反論はいくらでもどうぞ。ちゃんとしたパン屋のパンより、あっちがいいってフランス人は一人もいないから。買うのは、ほかに手がないときだけ。
11. 海外の名無しさん
フランスには、7月にヴァカンスを取る人を「ジュイエティスト」、8月に取る人を「アウシアン」と呼ぶ言葉まである。夏休みを「7月派か8月派か」で語る国だから、パン屋を7月組と8月組に分けるのも自然な発想だったんだろうね。
12. 海外の名無しさん
前回パリでパンが足りなくなったときは、政府ごとひっくり返ったからね。役所がパン屋の夏休みに口を出したくなる気持ちもわかる。
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
記憶が正しければ、ケーキは足りてたはず。ケーキを食べればよかったのに。
※ 「パンがなければお菓子を食べればいい」はマリー・アントワネットの言葉として広く知られているが、本人が言ったという裏付けは確認されていない。似た言葉はルソーの自伝『告白』に「ある高貴な女性」の言葉として出てくるが、その部分が書かれたのは、彼女がまだオーストリアで暮らしていた少女時代とされる。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
そのへんでやめておいたほうがいい。あの時代のパリで調子に乗ると、首が飛ぶぞ。
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
平気平気、僕はラヴォアジエの大ファンだからね。ほら、このまばたきを見ればわかるだろ?
※ ラヴォアジエは近代化学の基礎を築いたフランスの化学者。徴税請負人を務めていたことから、革命期の1794年にギロチンで処刑された。「首を落とされたあと、意識がある限りまばたきを続けると約束していた」という話が広く出回っているが、同時代の記録や主要な伝記に裏付けはなく、俗説とされる。
16. 海外の名無しさん
1か月まるまる店を閉めて休めるなんて、パン屋さんたち、ずいぶん懐がふっくら焼き上がってるんだな。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
休むのは好きにしてくれていいけど、その分バゲットの値段まで膨らませるのだけはやめてね。
18. 海外の名無しさん
フランス語でパンは「pain」、英語で読むと「痛み」。パン屋の夏休みの割り振りなんて、役所にとっても店にとっても、文字どおりのペインだったろうね。
19. 海外の名無しさん
このスレ、さっきからパンのダジャレしか飛んでこないな。しかも焼き直すたびに出来が落ちてる。
20. 海外の名無しさん
うちの町では今でもこれをやってて、夏になると、どのパン屋がいつ開いてるかの一覧を役所が出してくれるよ。
21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
市長が休みを決める権限は2014年でなくなったはずだから、パン屋同士で話し合った当番表を役所が載せてるんじゃないかな。2019年には「パン屋が一斉に休んで町からパンが消える」って国会で取り上げた議員もいたし、自主的にでも調整してる町は助かってると思う。
22. 海外の名無しさん
法律を変えるのって本当に手間がかかるから、役に立たなくなった決まりは惰性で残りがちなんだよ。変えるより、取り締まるのをやめるほうがずっと楽だから。
23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
でもパリのは2014年まで現役だったらしいよ。無断で休むと1日11〜33ユーロの罰金で、実際に罰金を払わされた店も毎年あったって記事を読んだ。形だけの規則じゃなかったみたい。
24. 海外の名無しさん
スレタイは「1790年から」って言ってるけど、調べたら法律になったのは1957年みたい。有給休暇が3週間に延びた翌年だって。そもそも1790年のパン屋に有給休暇なんてないしね。
25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
でも「パンが切れたら暴動になる」って記憶は、フランスの役所にずっと染みついてたんだと思う。1957年の法律の文面も「住民への食料供給を確保するため」だったらしいし。
まとめ
パリのパン屋を「7月組」と「8月組」に分け、夏のあいだ街からパンが消えないようにしていた仕組みは、1957年の法律を根拠に2014年まで続きました。「革命直後の1790年から」という説明には裏付けが見つかりませんが、パンの不足は治安の乱れにつながりうるという考え方は、20世紀まで制度の理由として生きていました。コメント欄ではパンのダジャレ合戦が続く一方、「行きつけの店が休むと本当に困る」というフランス人の切実な声も寄せられていました。

コメント