「上司も中間管理職もお役所仕事もない」1996年から“ボス不在”をうたうSteamの運営元Valve、社員の机には車輪が付いていた

「上司も中間管理職もお役所仕事もない」1996年から“ボス不在”をうたうSteamの運営元Valve、社員の机には車輪が付いていた 文化・社会

「上司も中間管理職もお役所仕事もない」。PCゲームの配信ストア「Steam」を運営する米国のゲーム会社Valveは、1996年の創業以来、上司のいない会社をうたってきました。社員の机には車輪が付いていて、加わりたい企画が見つかれば机ごと引っ越します。海外掲示板では「だから『Half-Life 3』が出ないのか」というおなじみのツッコミと、元社員を名乗る人の辛口の口コミが並びました。

※注:Valve(バルブ)は、米ワシントン州ベルビューに本社を置くゲーム会社です。1998年のFPS(一人称視点のシューティングゲーム)『Half-Life(ハーフライフ)』で名を上げ、いまはPCゲームの配信ストア「Steam(スチーム)」の運営元として知られています。

今日の知ってた?

🏢 ゲーム会社Valveは、2012年ごろの自社サイトで「1996年からボスなしでやってきた」とうたっていた。添えられていたのは「超優秀で才能ある同僚と、自由で革新的な環境で働くところを想像してほしい。上司も中間管理職もお役所仕事もない。意欲あふれる仲間が集まって、すごいものを作るだけ」という言葉。

📘 同じ2012年に公開した新入社員向けのハンドブックには、「当社には管理職がおらず、誰も誰かの部下ではない」「創業者で社長の人物はいるが、彼もあなたの上司ではない」と書かれている。

🪑 社員の机には車輪が付いていて、加わりたい企画があれば机ごと移動する。ハンドブックはこれを「社員は足(か机の車輪)で企画に投票する」と表現している。

💰 給料は、社員どうしが年に一度、互いの貢献度に順位をつける「スタックランキング」をもとに調整される。

背景:Valveとはどんな会社か

Valveは1996年、マイクロソフトを辞めたゲイブ・ニューウェルとマイク・ハリントンが、米ワシントン州カークランドで設立した会社です。ハンドブックの年表によると、設立の書類に署名したのは、ニューウェルの結婚式と同じ日でした。1998年に出した最初のゲーム『Half-Life』が大ヒットし、その後も『Half-Life 2』や『Portal』などを送り出しています。

※『Half-Life』は、研究所の事故をきっかけに押し寄せる異星の生物と戦うFPSです。『Portal』(2007年)は、壁や床に開けた2つの穴を行き来しながら仕掛けを解いていくパズルゲームです。

いまのValveを支えているのは、2003年に始めたPCゲームの配信サービス「Steam」です。もとは自社ゲームの更新を届ける仕組みでしたが、やがて他社のゲームも扱うようになり、世界最大級のPCゲームストアに育ちました。2022年には、Steamのゲームを持ち歩いて遊べる携帯型ゲーム機「Steam Deck」も発売しています。

一方で、看板シリーズの『Half-Life』は、2007年の『Half-Life 2: Episode Two』のあと長く新作が途絶えました。2020年にVR専用の『Half-Life: Alyx』が出たものの、ファンが待ち続ける『Half-Life 3』は、いまも正式には発表されていません。「Valveは3まで数えられない」は、海外のゲーム好きの間で定番のネタです。

そのValveが、創業以来の特徴として掲げてきたのが「上司がいない」ことです。2012年に新入社員向けのハンドブックがネットで公開されると、その中身が大きな話題になりました。いまの採用ページでも、自社を「階層も肩書きもないフラットな会社」と紹介しています。

もう少し詳しく

机の引っ越しは4ステップ。ハンドブックは、机の車輪を「自分がどこに移れば、もっと価値を出せるかを常に考えよう、という象徴」だと説明したうえで、「でも本物の車輪なので、実際に机を動かせる」と続けます。移動の手順を描いた図まで載っていて、中身は「コンセントを抜く→机を動かす→コンセントを挿し直す→仕事に戻る」。ほかの会社には、勤務時間の一部を自分で決めた企画に使わせるところもあるが、Valveではその割合が100%だ、とも書かれています。

社長の頼みも断っていい。ハンドブックには、ニューウェルがひとりで大事なことを決めた逸話も出てきます。ゲーム開発の教育で知られる米国のDigiPen工科大学の学生チームが作ったゲームを見て、打ち合わせの途中でチームをまるごと採用した、という話で、これが『Portal』につながりました。ただし、それはValveのふだんのやり方ではない、とハンドブックは念を押します。ニューウェルの判断や頼みごとも、ほかの社員と同じように疑ってかかる対象で、「お気に入りのナイフのデザインを『Counter-Strike』に入れてくれと彼に言われても、断ればいい」。巻末の用語集では、ニューウェルを「この会社であなたの上司ではない人たちの中でも、いちばん上司ではない人」と紹介し、「管理職」の項には「うちには一人もいない種類の人。見かけたら誰かに知らせること。たぶん、この建物に前にいた誰かの幽霊だから」とあります。

※『Counter-Strike』は、テロリスト側と対テロ部隊側に分かれて戦う、Valveの対戦型FPSです。

評価と給料は同僚が決める。上司がいない代わりに、社員は年に一度、2つのやり方で互いを評価します。ひとつは、成長に役立つ意見を伝え合う「ピアレビュー」。もうひとつが、誰が会社にいちばん価値をもたらしているかを同僚どうしで順位づけする「スタックランキング」で、こちらの結果が給料に反映されます。ハンドブックは、社員1人あたりの利益はグーグルやアマゾン、マイクロソフトより高く、だから報酬も業界の水準よりかなり高い、と説明しています。「ミスをしたせいでクビになった人は、これまで一人もいない」そうです。

「構造は自然にできる」とハンドブック自身も認める。決まった役職がなくても、企画のチームの中には、必要に応じて一時的な役割分担ができます。企画ごとに「リード」と呼ばれるまとめ役が自然に現れることもありますが、その役目は従来の管理職とは違い、企画の全体像を頭に入れておいて、みんなが判断を確かめに行ける相談先なのだ、とハンドブックは書いています。「Valveが苦手なこと」という節まであり、新人が自分の居場所を見つける手助け、人を育てること、社内の情報共有、数か月より先を見通すことなどを挙げています。

元社員は「高校によく似ていた」。実態には異論もあります。2013年にValveを解雇されたハードウェア技術者のジェリ・エルズワースは、同じ年のポッドキャストのインタビューで、小さなチームの中では確かにみんな対等で一緒に物事を決めるが、会社には「目に見えない、強い力を持った管理の層」があった、と語りました。その雰囲気は「高校によく似ていた」そうで、「権力を手にした人気者がいて、問題児がいて、その間にその他大勢がいる」と表現しています。あくまで一人の元社員から見た職場の姿ですが、上司のいない会社にも上下関係は生まれうる、という指摘です。

海外の反応

1. 海外の名無しさん
どう見てもボスのゲイブ・ニューウェルと、ほかの経営陣を数に入れなければ、たしかに上司はいないね。

2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
それに、Steamっていう、ほっといてもお金を刷り続ける機械があるからね。他社のゲームが売れるたびに手数料が入ってくるんだから、会社にプレッシャーなんてかかりようがない。

3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
気の利いたことを言う前に、中身をよく読もうよ。評価の仕組みも、給料を調整する仕組みもちゃんとある。上から命令する人がいないってだけだ。ハンドブックなんて、ゲイブに「お気に入りのナイフのデザインを『Counter-Strike』に入れてくれ」と頼まれても断っていい、って書いてあるんだから。

4. 海外の名無しさん
読み始めたとき、「ボス戦なしで、こんなに長くゲームを作ってこられるわけないだろ」と思った。

5. 海外の名無しさん
なるほど、だから『Half-Life 3』がいつまでたっても出ないのか……。上司がいないと、締め切りもないもんな。

6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
実際、そういうことらしい。何度か企画は立ち上がったけど、人が集まらなくて動き出せなかったって話だ。例外が『Half-Life: Alyx』で、あのチームが解散せずに次の『Half-Life』を作ってる可能性だってある。面白いのは、上司のいない仕組みが、いろんな意味で人気投票として働いてるところ。人を引きつけられる古株が何人かいて、その人が手を挙げると企画に人が集まるんだよ。

7. 海外の名無しさん(>>5への返信)
もう出せないと思うよ。どれだけ名作でも、コメント欄は「何年待たせてこれ?」で埋まる。期待が膨らみすぎて、出した時点で負けが決まってる。

8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
「Valveタイム」って言葉まであるくらいだからな。Valveの「もうすぐ」は、普通の会社の「そのうち」だと思っておいたほうがいい。

※ Valveタイム:Valveが発表した時期より、実際の発売や公開が大きく遅れがちなことをからかう言い回し。

9. 海外の名無しさん
仕事でオランダの「フラットな」会社とやりとりしてるけど、ときどき本当につらい。誰も決めないんだよ。問題が起きると、みんなでボールを回し合うだけ。働きやすい職場ではあるんだけどね。自分の会社はずっと上下関係がはっきりしてて、上司も中間管理職もおおむねまともだから、正直こっちのほうがいい。

10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
結局はこれに尽きる。「良い上司 > 上司なし > 悪い上司」。上司がいないのは、ひどい上司がいるよりはマシ、というだけなんだよな。

11. 海外の名無しさん
何年か前にValveへの応募を考えたけど、企業の口コミサイトのレビューを読んでやめた。どれも似たようなことが書いてあって、とくに元社員を名乗る人の書き込みがすごかった。評価制度は「データのふりをした人気投票」。誰が自分を評価するのか分からないから、自分の仕事を思い出してもらう機会もない。だからみんな、価値は低くても目立つ仕事を選んだり、全社に向けて成果を宣伝したりするようになる、って。

※ 企業の口コミサイト:社員や元社員が匿名で職場の評価を書き込むサイト。ここで紹介されているのは米国の大手サイト「Glassdoor」に投稿された匿名のレビューで、投稿者が本当に元社員かどうかは確かめられません。

12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
そのレビュー、続きがさらに強烈なんだよ。上司がいないから、言うことを聞けばいい評価を約束してくれる「後ろ盾」を探すのが合理的になる。その後ろ盾(騎士)は、もっと上の後ろ盾(男爵)の言うことを聞いて自分の評価を確保し、男爵は取締役に忠誠を誓う。階層型の組織をあれだけ批判してきたゲイブの会社で、自然と階層ができあがってるのは皮肉だ、って。最後は「もっといい報酬と、表立って認められた上下関係と、自分の仕事を評価してくれる場所を求めて辞めた」で締めてた。

13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
そこで引用されてた「構造がないことは、権力を覆い隠す手段になる」って一文は、本当にそのとおりだと思う。肩書きのある権力なら文句も言えるけど、無いことになってる権力には抗議のしようがない。

※ この一文は、米国の政治学者ジョー・フリーマンが1972年に発表した論考『構造なき専制(The Tyranny of Structurelessness)』から。女性解放運動の中で、リーダーを置かない集まりにも、目に見えない権力は生まれると論じたものです。

14. 海外の名無しさん
「フラット」な会社で働いたことがあるけど、一日の仕事にある程度の枠組みが欲しい人には地獄だよ。物差しがないから、評価が何もかも主観になる。給料がありとあらゆることで左右されて、ときには、いちばん関わりの薄い人の強い意見で決まったりもする。紙の上ではすごく良さそうなんだけどね。結局、誰かが舵を取らないと。

15. 海外の名無しさん
Valveの社員にとってはいい環境なんだろうけど、あえて意地悪な見方をすると、だからValveはもうほとんどゲームを出さないんだと思う。完成まで行くのは、稼ぎ頭のSteamと、最近だとSteam Deckみたいなハードくらいで。

16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
完成させてないってのは言いすぎ。みんなが欲しいもの(つまり『Half-Life 3』)が出てないだけだよ。この8年くらいでも、VRの『Half-Life』にSteam Deck、Steamの大型アップデートが何回も出てるし、『Deadlock』もずっと更新され続けてる。

17. 海外の名無しさん(>>15への返信)
そもそもValveは、ゲーム会社というよりSteamの会社なんだと思う。ゲームを売ったり配信したりはしてても、自分たちで一から考えたゲームは意外と少ない。『Counter-Strike』は『Half-Life』の改造版(MOD)から始まったし、『Portal』は学生の作品を見つけてきたものだし、『Dota 2』の元は『ウォークラフトIII』のMODだ。

※ MOD:既存のゲームを、ファンが改造して作った追加作品のこと。『ウォークラフトIII』は、米ブリザード・エンターテイメントの戦略ゲームです。

18. 海外の名無しさん
最後にまともな一人用のゲームを出したのっていつだっけ? 『Portal 2』? VRが無くても遊べる本格的な新作で言うと、もう15年くらい出てない気がする。

19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
本数が少ないのは確かだけど、出すものはちゃんと当ててるよ。『Half-Life: Alyx』は、VRで遊べる本格的な一人用ゲームの最高峰として今でも名前が挙がるし、『Deadlock』なんて正式に発売する前から、Steamでかなりの人に遊ばれてる。

20. 海外の名無しさん
こういう会社って、何も役に立つことをしなくなった人を、どうやってクビにするんだろう。ずっと不思議なんだよな。

21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
ハンドブックには「ミスをしたせいでクビになった人は一人もいない」とあるけど、ミスと何もしないのは別の話だし、評価は毎年ちゃんとつく。2013年には、ハードウェアの企画にいた人たちがまとめて解雇された、って元社員本人が話してたしね。

22. 海外の名無しさん
『ザ・シンプソンズ』で、ホーマーが転職した先のやたら気さくな社長を思い出した。「ボスなんて呼ばないでくれ。人より偉く見えるのは嫌いなんだ。僕は君たちと同じさ。まあ、出社は遅いし、給料はずっと多いし、休暇も長いけど、ボスって言葉は好きじゃない」ってやつ。

23. 海外の名無しさん
上司がいなくても会社が回る秘訣が分かったよ。まず、ゲーム版のApp Storeを発明して、うっかりお金を刷れるようになればいいんだ。

24. 海外の名無しさん
賭けてもいいけど、経理部だけは絶対そんなふうに回ってない。机に車輪が付いてても、経費精算の締め切りは動かせないはず。

まとめ

Valveは1996年から上司のいない会社をうたい、ハンドブックには社長ですら「あなたの上司ではない」と書いています。コメント欄では「だから『Half-Life 3』が出ない」というおなじみのツッコミのほか、Steamという稼ぎ頭があるからできる、上司がいなくても見えない上下関係は生まれる、という声が目立ちました。上司がいるかどうかより、誰と働くかのほうが大事なのかもしれません。

元ソース: ゲーム会社Valveは1996年から「上司のいない会社」だと知った。「超優秀で才能ある同僚と、自由で革新的な環境で働くところを想像してほしい。上司も中間管理職もお役所仕事もなく、意欲あふれる仲間が集まってすごいものを作るだけ」とうたっている

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