火星には、フォボスとダイモスという2つの小さな衛星があります。大きいほうのフォボスは、火星のすぐそばを回りながら、100年におよそ2メートルのペースで火星へ近づき続けています。行き着く先は、火星への墜落か、粉々に砕けて火星を取り巻く環になるか。人の一生ではまず気づけない速さですが、宇宙の時間で見れば、いずれ消えることがほぼ決まっている衛星です。
今日の知ってた?
🌑 火星の衛星フォボスは、火星の潮汐力に引かれて、100年におよそ1.8〜2メートルずつ火星に近づいている。
💥 NASAによれば、約3,000万〜5,000万年後には火星に衝突するか、潮汐力で砕けて環になると考えられている。
⏱️ フォボスは火星の地表から約6,000kmという低いところを、7時間39分で一周する。火星が1回自転する(約24時間37分)あいだに、約3周している計算だ。
背景:火星の2つの小さな衛星
火星の2つの衛星は、1877年にアメリカ海軍天文台の天文学者アサフ・ホールが見つけました。名前はギリシャ神話の軍神アレス(ローマ神話のマルスにあたり、火星の英語名 Mars の由来)に付き従う2人の息子からとられていて、フォボスは「恐怖」、ダイモスは「畏怖」を意味します。
衛星といっても、地球の月(直径約3,474km)のような丸い天体ではありません。フォボスは差し渡し27×22×18kmほど、ダイモスは15×12×11kmほどの、いびつな岩の塊です。フォボスの密度は1立方センチあたり約1.86gと岩石にしては軽く、中にすき間の多い天体だと考えられています。表面には直径約9kmのスティックニー・クレーターがあり、本体の大きさからすると不釣り合いなほど大きな凹みになっています。クレーターの名前は、数学者で、ホールの妻だったアンジェリン・スティックニー・ホールの旧姓からとられました。息子のアンジェロ・ホールが書いた伝記によれば、衛星探しをやめかけた夫に、観測を続けるよう励ましたのも彼女だったそうです。
フォボスのいちばんの特徴は、その低さです。地表から約6,000kmという高さは、東京からハワイまでの距離とほぼ同じ。そのため7時間39分で火星を一周してしまい、火星の自転を追い越していきます。火星の地表から見上げると、フォボスは西から昇って東へ沈み、それを火星の1日のあいだに2回繰り返します。一方、外側を約30時間で一周するダイモスは、ふつうの天体と同じように東から昇ります。
もう少し詳しく
火星の自転を追い越すから、落ちていく。フォボスの重力は、火星の地面をほんのわずかに引き伸ばし、ふくらみを作ります。潮汐力と呼ばれる働きです。火星の自転はフォボスの公転より遅いので、このふくらみはフォボスの真下から少し後ろへ取り残されます。後ろに残ったふくらみがフォボスを後ろ向きに引っぱり、ブレーキのように勢いを奪う。勢いを失ったフォボスは、少しずつ低い軌道へ下がっていきます。これが、フォボスが火星に近づき続けている理由です。
境目になるのは、衛星の一周がちょうど惑星の自転1回と同じ時間になる高さ(同期軌道)です。地球でいえば、気象衛星ひまわりのような静止衛星が回っている高さにあたります。これより内側の衛星は引き下ろされ、外側の衛星は逆に前へ押し出されて遠ざかっていきます。ダイモスは火星の同期軌道のわずかに外側にいるため、ごくゆっくり火星から離れつつあります。地球の月が年々遠ざかっているのも、この「外側」にいるからです。
落ちるのか、砕けて環になるのか。惑星に近づきすぎた天体は、惑星に近い側と遠い側で受ける引力の差が大きくなり、自分の重力では形を保てなくなります。この限界の距離をロッシュ限界といいます。NASAの研究者は2015年、フォボスの内部はかろうじてまとまっている瓦礫の山で、そのまわりを厚さ100mほどの粉状の砂の層が覆っているのかもしれない、という見方を示しました。そうだとすれば、フォボスは火星の地表に届く前に引き裂かれる可能性が高くなります。同じ年にカリフォルニア大学バークレー校の研究チームが発表した予測では、砕けたフォボスは火星を取り巻く環になり、その破片は100万〜1億年ほどかけて、少しずつ火星の赤道付近に降り注ぐとされました。ただし、フォボスの中身がどれくらい頑丈なのかはまだ分かっておらず、NASAも「衝突するか、環になるか」の両方の可能性を挙げています。何年後に最期を迎えるかの見積もりにも、研究によって幅があります。
表面の溝は”肉割れ”なのか。フォボスの表面には、長いもので20kmほど、幅100〜200m、深さ30m未満の溝が、何本も平行に走っています。かつてはスティックニー・クレーターができたときの衝撃によるひび割れだと考えられていましたが、溝の向きがクレーターを中心とした放射状になっていないことが分かってきました。NASAのチームは2015年、これを火星の潮汐力に引き伸ばされてできた、いわば「肉割れ(ストレッチマーク)」だとする説を発表し、「フォボスはすでに壊れ始めていて、溝はその最初の兆候だ」と述べています。一方で2018年には、ブラウン大学の研究者らが、スティックニーの衝突で飛び散った岩が転がってできた跡だとする説をシミュレーションで検証しており、溝の正体はまだ決着していません。
日本の探査機が、消える前の衛星へ。このフォボスを目指しているのが、JAXAの火星衛星探査計画「MMX」です。探査機はH3ロケット10号機に搭載され、2026年10月20日に種子島宇宙センターから打ち上げられる予定です(2026年9月時点)。2027年に火星圏に到着したあと、フォボスに着陸して表面の砂を10g以上採取し、2031年に地球へ持ち帰る計画で、実現すれば火星圏からの試料回収としては世界初になります。フォボスの生まれについては、小惑星が火星の重力に捕まったとする「捕獲説」と、火星に大きな天体がぶつかって飛び散った破片が集まったとする「巨大衝突説」が対立していて、持ち帰った砂の分析でこの論争に決着をつけることが目標の一つです。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
素朴な疑問なんだけど、火星でいちばん大きな衛星であるフォボスは、どうしてもう一つの衛星をさっさと食べてしまわないの?
※注:アメリカのアニメ『フューチュラマ』で、地球のドラマ『フレンズ』を観ていた宇宙人の支配者が「いちばん大きなフレンドであるロスは、なぜ残りの5人を食べてしまわないのか」と真顔でつぶやく場面のもじりです。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
夜中にこれを読んで思わず声を出して笑ったら、隣で寝ていた妻にはたかれた。この件の責任はきみに取ってもらう。
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
真面目に調べてみた。火星のまわりには、衛星の一周と火星の自転がちょうど同じ時間になる高さがあって、フォボスはその内側、ダイモスは外側にいる。内側のものは少しずつ火星へ落ちていき、外側のものは少しずつ離れていく。つまりこの2つは、お互いがどうこうする以前に、火星の潮汐力で反対方向へ引き離され続けてる。食べようにも、そもそも出会えないんだよ。
4. 海外の名無しさん
タイトルは「落ちるか環になるか」だけど、たぶん落ちはしないと思う。ロッシュ限界まで来たところで砕けて、破片が火星を取り巻く環になって、そのあと長い時間をかけて火星に降っていく。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
その可能性が高いけど、100%とは言い切れないよ。フォボスの中身がどれくらい頑丈なのか、正確に何でできているのかは、まだよく分かっていないから。
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
それはそうなんだけど、ロッシュ限界の内側に入っても砕けずに持ちこたえるには、よほど小さいか、よほど密度が高いか、よほど速く通り抜けるかのどれかが要る。瓦礫の山かもしれないと言われている天体に、そこまでの頑丈さを期待するのは無理がある気がする。
7. 海外の名無しさん(>>4への返信)
環を背負った火星か、見てみたいな。次に人類が住む星として売り出すなら、窓からの眺めだけで十分勝負できる。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
残念ながら、環ができるのは早くても数千万年先の話。今のペースだと、どう転んでも今生きてる人間は誰も見られない。衛星がひとつ崩れて環に変わっていくところを、消えてなくなるまでどれくらい眺めていられるのか、特等席で見てみたかったけど。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
だからこそ早めに動いておかないと。今の部屋の契約が切れそうなら、次の物件は余裕をもって探しておくものだ。地球の契約期間だって永遠じゃない。
10. 海外の名無しさん(>>8への返信)
数千万年後なら、見上げているのは”人類”ですらないかもね。ルーシーから今の私たちまでが約300万年。その10倍以上の時間があれば、火星の環を眺めているのは、今の私たちとは似ても似つかない誰かだと思う。
※注:ルーシーは、1974年にエチオピアで見つかった約320万年前の猿人(アファール猿人)の化石につけられた愛称です。
11. 海外の名無しさん
ちょっと混乱してる。地球の月は少しずつ遠ざかってるって聞いたのに、フォボスは逆に近づいてるの?同じ衛星なのに、何が違うんだろう。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
違いは高さ。フォボスは火星の自転より速く回っていて、火星との潮汐のやりとりがブレーキとして働く。ブレーキがかかると軌道が下がり、下がるとさらに速く回るようになる。地球の月やダイモスはもっと高いところを回っていて、衛星が一周するあいだに惑星のほうが1回以上自転する。この場合は潮汐が衛星を前へ押し出す向きに働いて、軌道が上がり、ますますゆっくり回るようになる。ちょうど自転と同じ周期で回る高さだけが、どちらにも引っぱられない境目なんだ。
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
海王星の衛星トリトンも、じわじわ落ちていってる仲間らしい。あっちは海王星の自転と逆向きに回っているせいで、潮汐がずっとブレーキとして働いている。NASAも、トリトンはフォボスと同じ運命をたどるかもしれないと書いてた。
14. 海外の名無しさん
なるほどね。フォボスが火星に引き寄せられているのは、どう考えてもUACの基地に開いた地獄の門のせいだ。
※注:1993年に発売されたPCゲーム『DOOM』の設定です。フォボスにある企業UACの基地で行われていた転送実験が地獄とつながり、悪魔があふれ出すという物語で、プレイヤーは海兵隊員としてフォボスの基地から戦いを始めます。
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
あのゲームだと、ダイモスのほうは基地ごと消えて、最後は地獄の上空に浮かんでいるのが見つかるんだよな。火星の衛星って、ゲームの世界ではとことんろくな目に遭わない。
16. 海外の名無しさん
衛星っていうとつい地球の月みたいな丸くて大きいものを想像しがちだけど、地球の月が直径3,500km近くあるのに対して、フォボスは直径22kmくらい、ダイモスは12kmくらいしかない。重力もごく弱くて、ダイモスなら理屈の上では人間がジャンプで宇宙へ飛び出せる、なんて話もあるくらいだ。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
調べてみたら、ダイモスの脱出速度は秒速5.6mくらい。垂直跳びの踏み切りの速さは、かなり跳べる人でも秒速3〜4mだから、さすがにジャンプで宇宙へ、は届かない。ただ、跳んだら最後、地面に戻ってくるまでずいぶん待たされるのは確かだと思う。
18. 海外の名無しさん
怖いもの見たさで聞きたいんだけど、6600万年前に恐竜を絶滅させた隕石と同じくらいの速さでフォボスを火星に落としたら、どれくらいのクレーターができるんだろう。大気で燃え尽きないとして。
19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
たぶん、大したことは起きない。直径200km級のクレーターがひとつ増えて、それでおしまい。フォボスは砂と砂利の寄せ集めを薄い殻でくるんだようなものらしいから、火星の外にまで影響が出ることはないと思う。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
直径200kmって、恐竜を絶滅させたチクシュルーブ・クレーター(直径約180km)並みなんだけど、それを「大したことない」で片づけるのか…と思ったら、火星にはもともと直径2,000kmを超えるヘラス盆地がある。火星の基準だと、たしかにかすり傷かもしれない。
21. 海外の名無しさん
火星から見ると、フォボスは西から昇って東へ沈むらしい。しかもそれを1日に2回。おまけに軌道が低すぎて、北極や南極に近い地域からは地平線の上にすら出てこないとか。空を逆向きに走る月なんて、毎晩見ていても慣れる気がしない。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
火星の探査車パーシビアランスが2022年に撮った、フォボスが太陽の前を横切る動画があるよ。形がジャガイモそっくりで、日食は40秒ちょっとで終わる。あれは映えるだけじゃなくて、横切るたびにフォボスの軌道のわずかな変化を測れるから、火星の内部がどれくらい硬いかを調べる手がかりにもなっているそうだ。
23. 海外の名無しさん
昔、フォボスは中が空洞の人工物で、宇宙人の基地じゃないかって話がなかったっけ。今回の「火星に落ちてきている」って話も、なんだか関係がありそうに聞こえてくる。
※ この説は1959年、ソ連の天文学者イオシフ・シクロフスキーが「フォボスの軌道の縮み方が速すぎる。中が空洞で極端に軽いのではないか」と考えたことに始まります。のちに、もとにした観測データに誤りがあり、実際の縮み方は潮汐力で説明できる程度だと分かりました。フォボスを人工物とする主張は、現在では根拠のない俗説・疑似科学として扱われています。
24. 海外の名無しさん
スウィフトの『ガリヴァー旅行記』には、空飛ぶ島ラピュタの天文学者が火星の衛星を2つ見つけた、という一節があるんだよね。書かれたのは1726年で、実際に2つ見つかったのは1877年。150年も前に「2つ」を言い当ててる。
※注:ラピュタは『ガリヴァー旅行記』第3篇に登場する空飛ぶ島で、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』の名前の由来でもあります。この縁で、ダイモスには「スウィフト」と、同じく火星の2つの衛星を小説に書いたフランスの作家にちなむ「ヴォルテール」という名前のクレーターがあります。
25. 海外の名無しさん
日本のJAXAが、フォボスの砂を持ち帰る探査機をもうすぐ打ち上げるんだよね。小惑星の次は火星の衛星か。数千万年後には消えてしまう衛星から、今のうちに記念品を分けてもらうんだと思うと、ちょっとロマンがある。
まとめ
火星の衛星フォボスは、火星の自転を追い越すほど低い軌道を回っているせいで潮汐のブレーキを受け、100年におよそ2メートルずつ火星へ下がり続けています。数千万年後には、火星に落ちるか、砕けて環になると見られています。コメント欄は『フューチュラマ』のパロディから始まり、同期軌道の解説、落ちるのか砕けるのかの予想、ダイモスでのジャンプ談義、ゲームの地獄の門、そして150年先を言い当てた『ガリヴァー旅行記』まで話が広がりました。表面の溝は、すでに壊れ始めている印なのかもしれません。消えてしまう前のその姿を、日本の探査機がこれから確かめに行きます。
元ソース: 火星の大きいほうの衛星フォボスは、火星に近すぎるため潮汐力で内側へ引き寄せられている。100年でおよそ6フィート(約1.8m)ずつ近づき、いずれ火星に衝突するか、砕けて環になる

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