紀元前4世紀のアテナイで、ある高級遊女が「神々を冒涜した」として裁判にかけられ、無罪になりました。後の時代の記録によると、決め手は弁論ではなく、法廷で彼女の衣をはだけさせたことだったとか。二千年以上語り継がれてきたこの逸話、じつは裁判に近い時代の記録には出てきません。海外の掲示板では、ジョークと本気の史料談義が入り乱れていました。
今日の知ってた?
⚖️ 紀元前4世紀のアテナイで、裕福な高級遊女フリュネが不敬罪で訴えられ、弁論家ヒュペレイデスの弁護で無罪になった
🏛️ 後世の記録では、弁護人が陪審の前で彼女の胸をあらわにし、「これほどの美しさを授かった者が神々を冒涜するはずがない」と訴えたとされる。ただしこの場面を伝えるのは裁判から数十年〜数百年後の著述家で、史実としては疑問視されている
背景:フリュネと「ヘタイラ」
フリュネは本名をムネサレテといい、ギリシャ中部ボイオティア地方の町テスピアイの出身とされます。のちにアテナイへ出て、富裕層や芸術家と交わるヘタイラとして名を上げました。
※注:ヘタイラは古代ギリシャの高級遊女。単に体を売る娼婦とは区別され、音楽や会話の教養を身につけ、有力な男性たちの宴席で同席の相手を務めた。家にこもるのが当然だった当時の妻たちと違い、自分の財産を持って自立した女性も多かった。
彼女が問われた不敬罪(アセベイア)は、ソクラテスが死刑を言い渡されたのと同じ罪です。伝わるところでは、「新しい神を持ち込んだ」「男女の集まりを無許可で開いた」といった内容で、訴えたのはエウティアスという男でした。弁護を引き受けたヒュペレイデスは、のちに「アッティカ十大弁論家」に数えられる当代きっての弁論家です。
もう少し詳しく
「脱がせた」話はいつ誰が書いたのか。裁判の時期ははっきりしませんが、紀元前350〜340年ごろとする見方があります。これに近い時代の喜劇作家ポセイディッポスは、紀元前290年ごろの作品で「フリュネは陪審員一人ひとりに涙ながらに懇願して、辛くも助かった」と書いており、胸をあらわにした話には触れていません。衣をはだけさせる場面が登場するのはそれより後の記録で、現存する形では、2世紀末ごろのアテナイオスの『食卓の賢人たち』や、プルタルコスの名で伝わる『十大弁論家列伝』などに見られます。語り手によって「フリュネ自身が脱いだ」「ヒュペレイデスが衣を引き裂いた」と細部も食い違っており、現代の研究では実際にはなかった可能性が高いと考えられています。
彫刻のモデル、城壁の申し出。アテナイオスは、フリュネが彫刻家プラクシテレスの『クニドスのアフロディテ』や、画家アペレスの女神像のモデルになったとも書いています。アレクサンドロス大王が紀元前335年にテーベを破壊したあと、「アレクサンドロスが破壊し、遊女フリュネが再建した」と刻むなら城壁を建て直す費用を出すと申し出た、という話も伝わっています。どちらも後世の記録によるもので、裏付けははっきりしません。
19世紀の絵画で「定番の場面」に。1861年にはフランスの画家ジャン=レオン・ジェロームが『アレオパゴスの前のフリュネ』を描き、衣を剥がれて腕で顔を覆うフリュネと、身を乗り出す老人たちの姿が広く知られるようになりました。題名の「アレオパゴス」はアテナイの別の法廷で、伝承の舞台とされる民衆法廷とは一致しません。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
「その体が完璧なら、無罪にするしかない」
※注:1995年のO.J.シンプソン裁判で弁護側が言った「手袋が合わないなら、無罪にするしかない(If it doesn’t fit, you must acquit)」のもじり。英語では韻を踏んでいる。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
この場面を描いた絵があるよ。『アレオパゴスの前のフリュネ』。弁護人が彼女の衣を引きはがして、陪審の老人たちがいっせいに身を乗り出してるやつ。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
「裁判長、弁護側は依頼人の見事な胸を、弁護側証拠の第1号および第2号として提出いたします」
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
絵を見るとまさにそれを言ってる顔なんだよな。陪審席のじいさんたちも目を見開いて、頬杖ついて、ひげを撫でて、完全に説得されちゃってる。
5. 海外の名無しさん(>>2への返信)
後ろの席で「見えねえぞ!」ってキレてる傍聴人が絶対いたと思う。頭の上で手を振り回して「くそっ、どうせ完璧なんだろ」とか言ってそう。
6. 海外の名無しさん
「陪審員の皆さん、これが神々を怒らせるとお思いですか?」で弁論が終わってるのが強すぎる。準備書面とか要らないじゃん。
※ 脱がせて無罪になった場面は、裁判から数十年〜数百年後の著述家が伝える話で、史実としては疑問視されている(下の11・12も参照)。
7. 海外の名無しさん
でも俺が法廷で同じことやったら、みんな怒り出して廷吏に手錠かけられるんだよな。この差はなんなんだ。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
大事なルールを二つ忘れてる。その一、魅力的であること。その二、魅力的でなくならないこと。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
その三、見せる相手を選ぶこと。古代アテナイの陪審員と現代の裁判官じゃ、たぶん反応がだいぶ違う。
10. 海外の名無しさん
どう考えても作り話なんだけど、なぜか信じたくなる。こういう話ほど二千年残るんだよな。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
結末は伝説だけど、裁判そのものは断片的に記録が残ってる。政治家や思想家が絡まない刑事裁判としては、古代ギリシャで一番よく記録されてるくらいじゃないかな。脱がせたくだりは、プルタルコスあたりが盛ったんだと思ってる。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
プルタルコスが作ったわけじゃなくて、もっと前の記録を引き写しただけだよ。裁判は紀元前350年ごろで、プルタルコスはその400年以上後の人。今は失われたヘルミッポスやイドメネウスの著作が、ローマ時代の歴史家に引用されてて、たぶんそのへんで最初に書かれた。一番古い資料のポセイディッポスは喜劇作家なのに脱いだ話を書いてない。あったら喜劇作家が書かないわけがない。
13. 海外の名無しさん
「異議あり! 弁護人は陪審員を依頼人の虜にしようとしています!」「異議を却下します。……いや、ちょっと待って、もう一回見せてもらえます?」
14. 海外の名無しさん
記憶違いじゃなければ、古代ギリシャ人は見た目と人柄は結びついてると強く信じてたはず。見た目が美しい人は性格も善いと思われてたんだよ。
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
そこはどうだろう。海外掲示板の歴史質問コーナーに、まさにこの裁判を扱ったいいスレがあってさ。仮にこういう弁護をしたとしても、「美人=善人」という理屈ではなく、法廷に「神の意志」を持ち込もうとしたんじゃないか、って説明されてたよ。
16. 海外の名無しさん(>>14への返信)
外見は内面を映すって考え方はローマを経て東ローマ帝国まで残って、「皇帝は顔に欠けがあってはならない」とまで言われた。だから政争に負けた側は鼻を削がれて修道院に送られたんだ。7世紀末のユスティニアノス2世なんて鼻を削がれて追放されたのに、のちに帝位に返り咲いてる。
17. 海外の名無しさん
ギリシャの神々って、自分より美しい人間がいるとむしろ怒るタイプじゃなかったっけ? 神話で何人ひどい目に遭ってるんだよ。
18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
それは神の側の見方でね。人間の側からすると、美しさは神からの贈り物だから、美しいってことは文字どおり神に祝福されてる証拠になるんだよ。
19. 海外の名無しさん
「こんな発言をしたら、どこかの神様がお怒りになりそう」とは思うけど、ギリシャの神々はいつも冷静で落ち着いた対応をするから大丈夫だよね。特に美しい人間の女性が絡んだときは(棒読み)
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
アテナイで不敬罪に問われるってのは、「誰かが政治的な恨みを晴らしたがってて、その矛先があなたに向いた」の言い換えみたいなもんだよ。フリュネは弁護人とも告発した側とも恋仲だったと伝えられてるし、この裁判は本人の行いより、周りの男たちの政争が本題だった可能性が高い。
21. 海外の名無しさん
「美人は得をする」の極みだな。二千三百年以上前から、人類はまったく変わってないってことがよく分かる。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
ギリシャ哲学には、今はあまり語られない「美は神が作ったもの、だから美しいものは神聖だ」という面がある。しかもこの考え方は、美人を無罪にするより、見た目の悪い人を罪人扱いするほうによく使われたって話もある。中世の美術でも「美は徳を飾る」が定番のテーマだったし、背が高い人や見た目のいい人ほど頼もしく見えるっていうのは今でも同じだよね。
23. 海外の名無しさん
オーストラリアの推理小説『ミス・フィッシャー』シリーズの主人公もフリュネって名前だけど、この人から取ったのかな。あの主人公なら法廷で脱ぐくらい平気でやりそう。
24. 海外の名無しさん(>>23への返信)
1巻で本人が説明してるよ。本当は「プシュケ」になるはずだったのに、父親が前の晩クラブで飲みすぎて、洗礼式で名前を聞かれたときに古典の知識を引っかき回して、うっかり遊女フリュネの名を出しちゃったって。本人はあとで調べて、法廷の話やテーベの城壁の話を知り、なかなか気骨のある女性だったと納得するんだ。
25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
作者のケリー・グリーンウッドもインタビューでそこに触れてた。父親が名前を間違えたってのはシリーズのお約束のネタなんだけど、本人が美人に育ったから、結果的に父親の選択が正しかったことになってるのがいい。
まとめ
フリュネが不敬罪で訴えられ、ヒュペレイデスの弁護で無罪になったことは古くから伝わっています。一方で、法廷で衣をはだけさせたという有名な場面は後世の著述家が伝える話で、当時に近い喜劇作家は「涙ながらに懇願した」としか書いていません。コメント欄はダジャレ混じりのジョークで大盛り上がりしつつ、史料の年代を突き合わせる人、美しさと神聖さを結びつけたギリシャの価値観を解説する人も現れ、「作り話でも信じたくなる」逸話が二千年以上残ってきた理由がよく見えるスレッドでした。

コメント
>※注:ヘタイラは古代ギリシャの高級遊女。単に体を売る娼婦とは区別され、音楽や会話の教養を身につけ、有力な男性たちの宴席で同席の相手を務めた。
洋の東西を問わず、こういう「頭もいい高級遊女」は需要があったんだな。