イギリスの首都ロンドンの中心、シティ・オブ・ロンドン(金融街)が、王室(クラウン)に対して1211年から800年以上、ある土地の地代を払い続けているという事実が海外掲示板で話題になった。しかも支払われるのは現金ではなく、ビルフック(草刈り用の鉤型ナイフ)と斧。さらに肝心の土地の場所は、歴史の中で誰も覚えていない。海外読者から「これぞ英国」「同じ道具を使い回してるに決まってる」と笑いと感心のコメントが集まった。
※注:シティ・オブ・ロンドンとは、ロンドン中心部の約2.9平方kmの自治区で、金融街として知られる。一般的な「ロンドン市」とは別の独立した行政区画。
今日の知ってた?
🗡 シティ・オブ・ロンドンは1211年(鎌倉時代初期)から英国王室に地代を納め続けている。対象はシュロップシャー州の「ザ・ムーアズ」という土地。
支払いは毎年、鋭いナイフ1本と鈍いナイフ1本(ビルフックと斧)。1235年からは「ザ・フォージ」という別の土地の地代として、馬蹄6個と馬蹄釘61本も追加された。
しかも、最初の土地の正確な場所はとっくに分からなくなっている。
背景:シティ・オブ・ロンドンの古い儀式とは
シティ・オブ・ロンドンは、ロンドン中心部にある独立した自治体で、世界の金融センターの一つ。ローマ時代から続く長い歴史を持ち、独自の市長(ロード・メイヤー)と独自の警察組織まで持つ「都市国家」のような存在だ。
そんなシティが王室に納める「地代」は、毎年秋(たいてい10月)にストランド通りの王立裁判所で行われる「クィット・レントの儀式(Ceremony of Quit Rents)」という公式儀式で支払われる。シティの法務責任者(コンプトローラー・アンド・シティ・ソリシター)が、国王側の役職「キングズ・リメンブランサー(財務記録官)」に対して、ナイフ・斧・馬蹄・馬蹄釘を儀式的に手渡す。
クィット・レント(quit rent)とは、中世イングランドの封建制で、領主に負っていた労役などの務めを「免じてもらう(quit)」代わりに納めた地代のこと。畑仕事の手伝いのような務めを、決まった額や決まった品の支払いに置き換える仕組みで、時代が下るにつれて普通の土地税に近いものになっていった。シティの儀式は、この古い仕組みがそのまま残ったものだ。
受け取る側のキングズ・リメンブランサーは、12世紀にヘンリー2世が財務府(エクスチェッカー)に置いた役職で、国王に納められるべき税や地代を記録し、取り立てを「忘れさせない」のが仕事だった。いまは高等法院王座部の首席マスターという裁判官が兼ねていて、途切れずに続くイングランド最古の司法職とされる。儀式の日のリメンブランサーは、かつらの上に黒い三角帽という財務府裁判所の裁判官の装いで、白黒の市松模様の布を掛けた机に着く。この布が「エクスチェッカー(財務府)」という名の由来で、中世にはマス目の上に駒を置いて、納められた地代と未納の分を数えていた。
ところが、現在保管されている馬蹄6個と馬蹄釘61本は550年以上前のものを使い回している。財務記録官のオフィスに保管され、儀式の前に「シティに貸し出され、また儀式で返される」というループが何百年も続いている。
もう少し詳しく
土地の場所は失われている。 1211年に契約された最古の土地「ザ・ムーアズ」(シュロップシャー州ブリッジノース近郊)の正確な位置は、もはや誰も特定できない。記録上は存在するが、地図上では失われた幻の土地だ。それでも地代の支払いだけは続いている。英歴史サイトのヒストリック・UKによれば、記録に残る最初の借り手はニコラス・ド・モーズという人物で、約180エーカー(およそ73ヘクタール)の土地を「鈍いナイフ1本と鋭いナイフ1本」で借りていた。1211年はマグナ・カルタ(1215年)の4年前にあたる。借り手の権利は、その後の数百年のうちにシティへ移った。2016年の米アトラス・オブスキュラの記事によると、1980年には当時のロード・メイヤー(ピーター・ガズデン)がこの辺りの土地を一つ選び、「これが問題のムーアズだ」と宣言したこともあったという。
ナイフには「試験」がある。儀式では、ハシバミの枝に鈍いビルフックで印を付け、鋭い斧で真っ二つに割ってみせる。これは中世の割符(タリー・スティック)の作法で、納めた分だけ棒に刻み目を入れ、最後に縦に割って双方が半分ずつ持てば、それが領収書になった。ビルフックはわざと鈍くなければならず、古い指示には「柔らかいチーズに当てても曲がるほど」とあったという。試しが終わるとリメンブランサーが「よい奉仕である(Good service)」と宣言し、馬蹄と釘を数え終えると「数はよろしい(Good number)」と答える。
もう1つの土地は変な所にある。 1235年から始まった2つ目の地代対象は「ザ・フォージ」(鍛冶場の意)と呼ばれる土地で、ロンドンのストランド近く、聖クレメント・デーンズ教会の南にあるトゥィーザーズ・アレイという場所。要するにロンドン市内である。シティ・オブ・ロンドンが、ロンドン市内の土地のためにロンドン王室に地代を払うという構図になっている(ただし、こちらも正確な場所はもう分からないとする資料が多い)。最初の借り手はウォルター・ル・ブランという鍛冶屋で、1235年ごろ、テンプル騎士団の馬上槍試合の場の近くで店を開いていたと考えられている。納める馬蹄は1361年のものとも言われる大きな軍馬用で、試合や戦場で馬に蹴らせ、相手の馬を傷つけるためのものだったという。
実は3つ目の地代もある。 1327年、シティはエドワード3世から特許状を受けて、テムズ川南岸のサザークを年11ポンドで手に入れた。この11ポンドも、国王へのクィット・レントとして納められている。また、ムーアズとフォージの地代は一つの儀式でまとめて納められ、同じ場で、新しく選ばれたシティのシェリフ(州長官)をリメンブランサーに引き合わせる手続きも行われる。
関連する古い英国法。 1541年から1845年まで、イングランドでは60歳未満の男性全員に弓矢を備えておくことが法律で義務付けられていた。違反すると6シリング8ペンスの罰金。1845年に大部分廃止されたが、根拠となった「不法遊戯法1541」が完全に廃止されたのは1960年。イングランドの法律は、こういう「使われていないが消されてもいない」規定で満ちている。
王室側の「貢ぎ物」も変わりつつある。チャンネル諸島のジャージー島では、国王が島を訪れると、島の領主(セニョール)たちが死んだマガモ2羽を献上するのが800年来のしきたりだった。2001年にエリザベス2世が訪れたときも、銀の盆に載せたマガモ2羽が差し出されている。ところが2024年7月、チャールズ3世の即位後初めての訪問では、初めてマガモの代わりに島で産まれたカモの卵を贈ることになった。地元紙の事前の報道によれば、5人の領主が「糧(かて)の象徴」として卵を差し出し、国王は卵を入れた器に触れて受け取る段取りだった。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
じゃあ誰かの仕事は、毎年ビルフック(鉤型ナイフ)を調達して王室に届けることなのか。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
絶対に同じやつを使い回してるって、ww
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
2026年に直前で「お前が今年のビルフック調達担当だぞ」って言われた人のパニックを想像してみろ。どこで売ってるのかすら分からん。
4. 海外の名無しさん
じゃあ国王陛下は今、815本の斧とビルフックを抱えて何を企んでるんだ?
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
毎年同じ斧とビルフックを使い回してるんだろ。封建制時代に黒土地の地代に胡椒の実1粒を払うとか、教区の境界を木の枝で叩いて回るとか、英国法のヘンテコ慣習の一つだ。
6. 海外の名無しさん(>>4への返信)
ゾンビ襲来か、宮廷内クーデターに備えてるんだろ。宮殿版『ホーム・アローン』。
7. 海外の名無しさん
こういう儀式って、いつ「実用」から「伝統」に切り替わるのか毎回気になる。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
土地の場所を忘れた瞬間に切り替わったんだろ、たぶん。
9. 海外の名無しさん(>>7への返信)
1211年から2026年の間のどこか、というのが私の見立て。
10. 海外の名無しさん
これは実は2区画分の地代。ウィキによると、最古の1211年契約は2本のナイフ(鋭いの1本+鈍いの1本)。1235年からの2つ目の契約はストランド近くの「ザ・フォージ」で、馬蹄6個と馬蹄釘61本。これらは550年以上前のもので、王室に納めた後また翌年用にシティに貸し出される無限ループ。要は完全に儀式。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
鈍いナイフって何に使うんだ?
12. 海外の名無しさん(>>10への返信)
ちょっと待て、「リメンブランサー(財務記録官)」って実在の役職なのか?
13. 海外の名無しさん
私の友人は、シティのギルドのジャーニーマン(職人)になったから、ロンドン橋で羊の群れを合法的に追い立てる権利を持っている。実際にやったことはないけど、絶対やるって言ってる。シティはこういう古臭い特権で溢れてる。もう誰の役にも立たないけど、背後にある組織が古くて金持ちだから絶滅しない。要は派手な服を着てディナーを食べる口実だ。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
別の珍しい英国法:1541年から1845年まで、英国では60歳未満の全男性が長弓を所持して定期的に練習することが義務だった。違反は罰金か投獄。本当に完全廃止されたのは1960年。コモンローはマジでヘンテコ。
※注:1541年の法律が定めた罰は6シリング8ペンスの罰金。6日間の禁錮は、それより前の1409年の法律の規定。
15. 海外の名無しさん(>>13への返信)
一番面白いのは、儀式での序列。シティのギルド員になると、スーパーやコンビニで働いてる人でも、銀行家や弁護士や教師より格上扱いになる。古いギルドほど偉いから、まず雑貨商が筆頭、次に香辛料商人、次に革職人、金細工師……。一番下は人事コンサルタント。儀式の最後尾に立たされる。
16. 海外の名無しさん
ハドソン湾会社が破綻するまで、英国王はカナダの土地(旧ルパート・ランド、現代カナダの約3分の2)の地代として、毎年ビーバーの毛皮2枚とエルクの毛皮2枚を受け取る権利を持っていた。最後に取りに行ったのは1970年。
※注:ハドソン湾会社の1670年の特許状が定めていたのは、国王がその土地に入ったときにヘラジカ2頭と黒ビーバー2頭を納めるという取り決めで、毎年ではない。実際に行われたのは1927年(のちのエドワード8世)、1939年、1959年、1970年で、1970年にはエリザベス2世に生きたビーバー2頭が贈られた。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
1970年は女王エリザベス2世の時代だから「英国王」じゃなくて「英国君主」じゃない?
18. 海外の名無しさん
これぞ英国文化の極み。
19. 海外の名無しさん
私も家を買った時の登記書類に、毎年コペンハーゲン大学にライ麦1ブッシェル支払う義務がある。実際は誰も取りに来ない、ありがたい。来られても、ライ麦をどこで調達すればいいのか分からん。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
コペンハーゲンの大学が「あ、そういえば取りに行くか」って急に思い出したらどうするんだ。
21. 海外の名無しさん
近代化条項を入れておくべきだった。今頃は「ミルウォーキー製のコードレス・インパクトドライバー1本+マルチツール1個」になってたかも。
22. 海外の名無しさん
王室はビルフックの山に泳いでるのに、こっちは1本も持ってない。富める者はますます富む、ってやつだ。
23. 海外の名無しさん
英国はこういうの大好きだよね。誰も使わなくなった非効率な法律を消さない。
24. 海外の名無しさん
今度はカモを生卵に変えてくれと国王が頼んだらしい。さらに「ジャージー牛7頭」を要求。これは伝統に沿った要求らしい。
※注:カモの卵への切り替えは、2024年7月のチャールズ3世のジャージー島訪問のときの話。国王が求めたという報道や、ジャージー牛7頭を受け取ったという報道は確認できなかった。
25. 海外の名無しさん
英国の制度の多くは、要するに「待って、なんで俺たち今もこれやってるんだ?」「分からん、面白いから」っていう会話の積み重ねでできてる。
26. 海外の名無しさん(>>25への返信)
これが本当の「伝統」だな。実用性ゼロで笑える。
27. 海外の名無しさん
シティ・オブ・ロンドンと、ただの「ロンドン市」を混同しないように。別物。
28. 海外の名無しさん
当時は金属が高価だったから、儀式とはいえ高価な貢物だったはず。よく長剣を「現代でいうスポーツカー」と例えるけど、それぐらいの価値があった。
29. 海外の名無しさん
誰か、毎年こっそり斧とビルフックを盗み返す係の世襲役職があるんじゃないか? 815年分の精巧な強奪計画。世代を超えて貴族たちが「猟犬の振りを3日間続けてから盗み出した曾祖父の伝説」を語り継ぐ。新しいビルフックを園芸店で買う恥を避けるために。
30. 海外の名無しさん
ビルフックのインフレ率って、どのくらいなんだろう?
まとめ
シティ・オブ・ロンドンが王室に1211年から払い続ける「ビルフック(鉤型ナイフ)と斧」の地代。土地の正確な場所はとっくに失われ、納める道具は550年使い回し、それでも儀式は止まらない。「とっくに実用性を失ったのに誰も止めない」という、英国制度の真骨頂を象徴する豆知識だった。
海外コメ欄では、家を買って大学にライ麦の地代義務を負ってる人や、ロンドン橋で羊を追い立てる権利を持つ友人の話、ハドソン湾会社のビーバー毛皮儀式まで、世界中の似た「変な伝統」が次々登場。「なぜまだやってるか? 分からん、面白いから」という英国精神が、コメ欄全体に漂う愉快な記事だった。
参考資料
- ヒストリック・UK「クィット・レントの儀式」(英語)
- アトラス・オブスキュラ「ロンドンは1211年に借りた土地の地代を今も女王に払っている」(2016年・英語)
- ベイリウィック・エクスプレス「国王に会うため1万1000マイルを旅する領主」(2024年・英語)
- ウィキペディア英語版「キングズ・リメンブランサー」(英語)
元ソース: TIL シティ・オブ・ロンドンは1211年から王室にシュロップシャーの土地の地代を払い続けている。土地の正確な場所は歴史の中で失われた。年間の支払いはビルフック(鉤型ナイフ)と斧

コメント