2005年5月、フランスのテストパイロットが、ヘリコプターをエベレストの山頂に降ろしました。標高8,848メートル。その機種が運用を認められていた上限(約7,000メートル)より、1,800メートル以上も高い場所です。元の投稿は「特別に改造したヘリ」と書いていますが、使われたのは市販の量産機から座席などを外して軽くした機体でした。
今日の知ってた?
🚁 2005年5月14日午前7時8分(現地時間)、ユーロコプター社(現エアバス・ヘリコプターズ)のテストパイロットディディエ・デルサルが、単発の小型ヘリAS350 B3「エキュレイユ」で、エベレストの山頂(8,848メートル)に降りた。
⏱️ スキッド(着陸用のそり)を山頂の雪に押し当てて3分50秒とどまり、翌15日にも同じ飛行を繰り返した。ヘリコプターの着陸と離陸の最高高度として、国際航空連盟(FAI)の公認記録になっている。
🔧 元スレのタイトルは「特別に改造したヘリ」だが、メーカーの発表では量産機。乗客用の座席など要らないものを外して、約120キロ軽くした機体だった。
背景:運用の上限より1,800メートル高い頂へ
エキュレイユはフランス語で「リス」の意味で、ユーロコプター社の単発の小型ヘリコプターです(英語ではAスター、スクワーレルとも呼ばれます)。B3はその中で当時もっとも強力な型でした。ヘリコプター専門誌バーティカルの2017年の記事によると、B3の運用が認められていた最高高度は2万3,000フィート、およそ7,000メートルでした。エベレストの山頂は、それより1,800メートル以上高いことになります。デルサルは後年、この挑戦の狙いを「ふだんヘリを使っているお客さんに、どれだけの余裕があるのかを見せたかった」と語っています。
デルサルは1957年、南フランスのエクス=アン=プロヴァンス生まれ。英語版ウィキペディアによれば、1979年にフランス空軍の戦闘機パイロットになり、2年後にヘリコプターに移って、およそ10年間、捜索救難の任務に就きました。テストパイロット学校の教官を経て、ユーロコプターでは小型単発ヘリの主任テストパイロットに。山頂に降りたときは48歳でした。
バーティカル誌によると、デルサルは2000年代の初めにB3の担当になったとき、これならエベレストに降りられるかもしれないと考えました。会社は最初、この案に乗り気ではありませんでした。流れが変わったのは2004年、エンジン(チュルボメカ社のアリエル2)の新しい制御ソフトが予想を上回る性能を出したときです。南仏での試験を重ね、2005年4月14日には、高度3,000メートルまで2分21秒、6,000メートルまで5分6秒、9,000メートルまで9分26秒で上がる上昇時間の世界記録を作り、同じ日に高度1万211メートルまで上がっています。9,000メートルまでの記録は、それまで旧型のAS350 B1が持っていた13分52秒を4分以上縮めるものでした。
では、元の投稿の「特別に改造した」は本当なのでしょうか。ユーロコプターが2005年5月に出した発表は、機体を「量産機(シリアル機)」と呼び、「量産機で成し遂げた記録」であることを売りにしていました。バーティカル誌も「装備を外して軽くした量産機」と書き、デルサルが機体だけでなく自分の体重までダイエットで落としたことを紹介しています。英語版ウィキペディアの説明では、外したのは乗客用の座席など要らないもので、標準より約120キロ軽くなり、そのぶん燃料で飛べる時間が1時間ほど延びました。特別な回転翼やエンジンに付け替えたという話は、どの資料にも出てきません。強いて言えば、挑戦のきっかけになったのがエンジンの新しい制御ソフトだった、という点くらいです。
もう少し詳しく
砂嵐、日本人トレッカーの救助、そして「謎のヘリ」。バーティカル誌によると、機体はフランスから貨物機でインドのニューデリーへ運ばれ、そこで組み立て直されました。作業をしていた格納庫は、砂嵐でもう少しで壊れるところだったといいます。当時のAP通信の現地記者の報告では、ネパール政府は機体と乗員を審査したうえで、1か月の期限でこの挑戦を許可していました。拠点にしたのは、エベレストを目指す登山者やトレッカーの玄関口になっている山あいのルクラ空港(テンジン・ヒラリー空港、標高2,866メートル)です。準備の合間には、体調を崩した日本人トレッカー2人を救助するために、寄り道もしています。ユーロコプターの発表も、試験期間中にネパール当局の依頼で救助飛行を何回か行ったと書いています。この間、山の上の登山者たちは、正体の分からないヘリを目撃していました。登山情報サイトのエクスプローラーズウェブによると、5月5日の朝、チベット側の標高7,700メートル付近にいた登山隊が、ヘリが山頂に2度降りようとするのを見ています。サイトはこのヘリを「謎のヘリ」と呼んで正体を探り、やがてAP通信の記者が、フランスのチームが着陸の最高高度に挑んでいると突き止めます。5月12日、デルサルは標高7,925メートルのサウスコル(山頂の手前にある鞍部)に着陸し、それまでインド空軍が持っていた7,670メートルの着陸・離陸の記録(ラマの派生型のヘリによるもの)を塗り替えました。
山頂での3分50秒。バーティカル誌のインタビューでデルサルは、「自分は運がよく、登山者たちは運が悪かった」と振り返っています。2日続いたひどい悪天候で、登山者はみな下山していました。雷雨が過ぎ、山頂が晴れた5月14日の朝、デルサルはルクラを飛び立ちます。山頂の風は65ノット(時速約120キロ)、気温はマイナス35度。吐く息の湿気で風防が凍りつくのを防ぐため、窓は開けたままでした。1972年にヘリ「ラマ」で高度1万2,442メートルの世界記録を作った、同じフランスのジャン・ブーレも悩まされた問題です。デルサルは頭をはっきりさせておくために酸素マスクを着けていました。機体も自分の体重もあれほど削ったのに、強風の中では、機体が思っていたより軽すぎると感じたそうです。本人いわく「難しかったのはスキッドを着けるところ」。山頂にスキッドを突き立て、山に押しつけていないと、その場にとどまれませんでした。国際航空連盟が公認の条件にしていたのは、スキッドを2分以上接地させること。デルサルはその倍近い3分50秒とどまってから、ルクラへ戻りました。
「記録が無い」。2日目の再挑戦と、ネパールとの行き違い。ところが、戻って飛行の記録を取り出してみると、何も残っていませんでした。デルサルは、天気の回復で登山者たちが山頂を目指してくる前に、翌朝もう一度飛ぶと決めます。5月15日、同じ飛行を繰り返し、今度は記録装置もきちんと動きました。英語版ウィキペディアは、1回目の成功がまぐれではないと示す意味もあったとしています。のちに、1回目の記録が消えたように見えたのはソフトの不具合だったと分かり、データも取り出せました。一方でネパール側は当初、正式な許可を得ていなかったうえ、そもそもエベレストに着陸してもいないと主張しました。ユーロコプターはこの「誤解」を遺憾としながらも、デルサルの主張を曲げませんでした。記録はのちに国際航空連盟に公認されています。
その後のエベレストと、日本で起きた「ヘリで下りても登山か」の議論。2017年のバーティカル誌の記事によると、近年のエベレストでは、AS350 B3とその後継のH125(旧名AS350 B3e)が数多くの救助に使われていて、ネパールでこうした仕事をするヘリは、すでに後継のH125がほとんどを占めているそうです。ただ、デルサル自身はこの挑戦から「限界もある」という結論も得ていて、「危険すぎることもある。無理かもしれないと受け入れなければならない」と語っています。日本では2013年、80歳でエベレストに登った冒険家の三浦雄一郎さんが、下山の途中でヘリコプターを使いました。J-CASTニュースによると、三浦さんは5月23日に山頂に立ったあと、標高6,500メートルのキャンプ2で夜を明かし、歩いて下りる予定でした。しかし疲れがたまっていたことと、気温が上がって氷の塊が崩れやすくなったアイスフォール(氷河の崩落地帯)を通るのが危険だったことから、26日にヘリで標高5,300メートルのベースキャンプまで下りました。ネットでは「自力で下山して初めて登山完了」「登頂には成功している」と意見が割れ、アルピニストの野口健さんは、三浦さんはもともと歩いて下りるつもりだったとして「登山と言えると思います」と述べました。「ヘリで行けるなら、なぜ歩くのか」という問いは、元スレのコメント欄でも持ち上がっていました。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
パイロットとして言わせてもらうと、これは完全に正気の沙汰じゃない。変わる条件が多すぎる。成功率はせいぜい3回に1回ってところだったんじゃないかな。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
しかも2回やってるんだよ。1日目に成功したのに記録が残ってなかったみたいで、2日目にもう一度。で、2回目のあとになって、1日目の記録もちゃんと残ってたと分かったっていうオチ付き。
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
2日続けて成功してるなら、確率の話はあまり意味がないと思う。8,800メートルを超えると、回転翼が生む揚力はがくっと落ちる。1日目に条件をうまく読んで、2日目も同じことを確実にやってのけたんだよ。風向きがひとつ変われば無理だっただろうし、山の天気はそういうのが本当に気まぐれ。それでもイカれてるけどな。
4. 海外の名無しさん
「特別に改造」って言っても、実際は見た目程度の改造で、軽くして飛べる時間を延ばしただけらしいよ。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
待って、見た目だけの改造だったの?それとも軽くしたの?どっち? 見た目だけいじって軽くなるって、ちょっと想像がつかないんだけど。
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
ウィキペディアにはこうある。「デルサルはほぼ標準仕様のユーロコプターを使い、乗客用の座席など要らないものを外しただけだった。それで標準より120キロ軽くなり、燃料で飛べる時間が1時間延びた」
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
それを「特別改造」とは呼ばないよな。てっきり専用の回転翼に付け替えて、エンジンもいじったんだと思ってた。
8. 海外の名無しさん
どうせ一瞬だけちょんと触れて、すぐ逃げ帰ったんだろ。あんな場所でのんびり止まってたら、風で吹き飛ばされるって。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
国際航空連盟に認めてもらうには、スキッドを2分以上着けておく必要があった。彼は3分50秒とどまってる。一瞬どころか、決まりの倍近いよ。
10. 海外の名無しさん
普通のヘリで山頂に降りられるなら、なんでみんな歩いて登ってるの? 大金と何週間もかけて、命がけで。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
目的は「エベレストに登ること」で、てっぺんまで飛んでいくことじゃないからだよ。ふつうはね。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
え、山頂で自撮りしてSNSで自慢するのが目的なんじゃなかったの?
13. 海外の名無しさん(>>10への返信)
「車のほうが楽なのに、なんでマラソンなんか走るの?」って言ってるのと同じだぞ、それ。
14. 海外の名無しさん(>>11への返信)
カーク「楽しいからやってるんだ。山に登る、いちばん大事な理由は言うまでもないがね」
スポック「その理由とは?」
カーク「そこに山があるからさ」
――『スター・トレックV 新たなる未知へ』より
15. 海外の名無しさん
正直、いまどき歩いて登ってる人の大半より、こっちのほうがよっぽどすごいし難しいと思う。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
空気が薄すぎて人間はまともに息もできない場所で、金属の塊を浮かせてるんだからな。どうやったのか本当に分からない。
17. 海外の名無しさん
山頂で故障したらと思うとゾッとする。「……しゃーない、歩いて帰るか」。サバイバル用の装備に回せる重さなんて、ほとんど残ってなかっただろうし。
18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
スキッドをもぎ取ってスキー板にすればいい。あとは重力が何とかしてくれる。
19. 海外の名無しさん(>>17への返信)
パイロットは酸素マスクを着けて、窓を開けたまま飛んだらしい。吐く息で風防が凍っちゃうから。マイナス35度で窓全開とか、想像しただけで顔が痛い。
20. 海外の名無しさん
これができるなら、死にかけてる人や、山に残されたままの遺体を運び下ろせるんじゃないの?
21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
遺体を回収するために、新しい遺体とヘリの残骸を増やすリスクを取るのか? 山頂まで上がって数分とどまるだけでも、とんでもない準備と運が要ったんだよ。しかも山の天気がいちばん穏やかな時期を狙ってね。遺体を下ろすためだけに冒す危険じゃない。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
そもそも遺体のところにたどり着くまでに、何時間も雪を掘らなきゃいけないこともある。運び出すのはその先の話だ。
23. 海外の名無しさん(>>20への返信)
パイロット本人も、救助には限界があって、危険すぎるときは無理だと受け入れるしかないって言ってたらしい。ただ、準備中には体調を崩した日本人のトレッカー2人を助けに飛んでるし、今のエベレストの救助では同じ系統のヘリが大活躍してるそうだよ。
24. 海外の名無しさん
俺ならカメラを2台持っていく。一生に一度の大勝負を、カメラ1台のご機嫌に任せるなんて怖すぎる。
25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
プロ用のカメラは、こういう事故を防ぐために、だいたいメモリーカードを2枚挿せるようになってる。でもこれだけ無茶な挑戦なら「2つあって1つ、1つならゼロ」と思っておいたほうがいい。もっとも、このときは映像というより飛行の記録が消えたように見えただけで、原因はソフトの不具合だったらしいけどね。
まとめ
2005年5月14日、テストパイロットのディディエ・デルサルは、AS350 B3でエベレストの山頂に3分50秒とどまり、翌日にもう一度同じ飛行をしてみせました。機体は「特別に改造したヘリ」ではなく、座席などを外して約120キロ軽くした量産機。強風と薄い空気の中、スキッドを山に押しつけて耐えた着陸は、国際航空連盟の公認記録になっています。
コメント欄は、「それを特別改造とは呼ばない」というツッコミと、「ヘリで行けるなら、なぜ歩いて登るのか」という議論で盛り上がりました。山頂で故障したらどうするのか、救助や遺体の回収に使えないのかといった話も出て、「できた」ことと「いつでもできる」ことの間の大きな差に、改めて気づかされる流れになっていました。

コメント
空気が薄いと浮力が出ないんです。