ニュージーランド南島の山あいの草地に、膝ほどの高さのコンクリートの壁が1本だけ立っている。1964年、地球物理学者のフランク・エヴィソンが、南島を縦断する大断層をまたぐように作らせた「測定器」だ。断層が少しずつずれているのなら、壁はいずれ曲がるか割れる。ところが60年以上たった今も、壁はまっすぐなまま。海外の掲示板では、それが良い知らせなのか悪い知らせなのかをめぐって話が弾んでいた。
※注:元スレッドのタイトルは「64年間、1ミリも動いていない」としているが、壁が作られたのは1964年で、2026年の時点では約62年になる。また、出典の書き方は「まっすぐなまま」「動いた形跡はない」というもので、ミリ単位の測定値が公表されているわけではない。この記事では出典の表現に合わせている。
今日の知ってた?
📏 ニュージーランド南島のルイス峠に近いマルイア谷に、アルパイン断層をまたいで立つコンクリートの壁がある。1964年に地球物理学者フランク・エヴィソン(1922〜2005年)が作らせたもので、長さは24メートル(25メートルとする資料もある)。地上に出ているのは約50センチで、残りの1.4メートルは地面の下に埋まっている。
目的は、この断層が少しずつずれ続けているのか、それとも固く噛み合っていて大地震のときに一気に動くのかを確かめること。60年以上たっても壁はまっすぐなままで、動いた形跡はない。このことは、断層が数百年に一度の大地震で、数メートルまとめて動くタイプであることを示すものと受け止められている。
背景:アルパイン断層とは
アルパイン断層は、南島をほぼ縦断する長さ約600キロの断層で、太平洋プレートとオーストラリアプレートの境界にあたる。2つのプレートは主に横方向へすれ違っていて、そこに押し合う力も加わるため、断層に沿ってサザンアルプスの山並みが押し上げられてきた。
断層のずれは、数千年単位でならすと水平方向に年およそ27ミリ。世界的に見ても動きの速い断層とされる。ただし、毎年27ミリずつ滑らかに動いているわけではない。ふだんは両側が固く噛み合っていて、限界を超えたときに、一度に最大8メートルほど跳ぶように動く。
もっとも、壁が作られた頃はそこまで分かっていなかった。記録が残る時代に入ってから、この断層では大地震が起きていない。そのため20世紀の半ばには、「大地震を起こさず、ゆっくりずれ続けているのではないか」という見方もあった。ゆっくりずれ続ける断層は、大きな地震を起こしにくいとされる。エヴィソンの壁は、アルパイン断層がそのタイプなのかどうかを確かめるための実験だった。
もう少し詳しく
壁はどこに、どんな姿で立っているのか。場所は、スプリングス・ジャンクションという小さな集落の東、国道7号沿いにあるマーブルヒル。ナンキョクブナの森に囲まれた川沿いの草地で、アルパイン断層を間近に見られる数少ない場所のひとつとされる。壁は低く灰色で、地衣類がまだらに付いている。2023年にこの壁を取り上げた雑誌『ニュージーランド・ジオグラフィック』は、たまたま通りかかった人には古い納屋の基礎か何かの名残にしか見えないだろう、と書いている。コンクリートにはステンレスの小さな鋲が埋め込まれていて、壁と地面がどれだけずれたかを測る測量の目印になっている。
「何も測れなかった」ことの意味。ニュージーランド政府のオンライン百科事典『テ・アラ』によると、2015年の時点でも壁に動いた形跡はなかった。先の雑誌記事も「この60年間、壁は頑としてまっすぐなままだ」と書き、こう続けている。何ひとつ測れなかったという失敗において、エヴィソンの壁はむしろ成功している——。壁の真下でプレートがゆっくりと力を溜めている、というのがその読みだ。一方、旅行ガイドの『ロンリープラネット』はこの壁を「まったくうまくいかなかった地質学の実験」と紹介し、こうした測り方はとうに新しい手法に取って代わられた、とも書いている。実際、この断層がどう動くかについての今の理解は、壁ひとつではなく、湖や湿地の堆積物の調査など、いくつもの証拠を重ねて組み立てられたものだ。
過去の地震と、次の地震の見積もり。堆積物の調査から、アルパイン断層は過去8000年のあいだに27回、平均するとおよそ300年おきに大きく動いてきたことが分かっている。最後に大きく動いたのは1717年で、規模はマグニチュード8.1と推定される。それからすでに300年以上がたった。2021年には、ヴィクトリア大学ウェリントン校のジェイミー・ハワース博士らのチームが、湖と湿地の堆積物に残る過去4000年・20回分の地震の痕跡を分析し、科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』に結果を発表した。2068年までにマグニチュード7以上の地震が起きる確率は約75%、次の地震がマグニチュード8以上になる確率は約82%。それまでの見積もりは約30%だった。南島の防災組織と研究機関が進める防災プログラム「AF8」(アルパイン断層・マグニチュード8の意)も、この数字を掲げて備えを呼びかけている。
フランク・エヴィソンという人。1922年にクライストチャーチで生まれ、1950年に政府の研究機関DSIR(科学産業研究省)の地球物理部門に入った。1967年には、ヴィクトリア大学ウェリントン校で初代の地球物理学教授に就いている。信頼できる地震予測ができれば失われる命を減らせる、科学者には社会への務めがある、という信念の持ち主で、2005年に82歳で亡くなるまで地震予測の研究を続けた。翌2006年には、彼の名を冠した地球物理学の奨学金が設けられている。先の雑誌記事は、娘のマーガレットさんが明かした、壁にまつわる家族の冗談で締めくくられている。その中身は、コメント欄の1番で紹介されているとおりだ。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
元になった記事の締めくくりが好きだ。エヴィソンの娘のマーガレットさんに壁のことを尋ねたら、「ああ、あの有名な壁ね! うちの家族の冗談では、アルパイン断層をつなぎ留めているのはあれだけ、ってことになってるの」と返ってきたそうだ。フランク、どうか安らかに
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
つまり、この壁こそがニュージーランドを一つにまとめている唯一のもの、という結論になるな。映画『アイス・エイジ』シリーズで、リスがどんぐりを地面に突き刺して大陸を割ってしまう場面があるけど、あれのちょうど逆をやっているわけだ
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
亡くなって20年以上たつのに、この人はまだ科学を続けているんだよな。そう思ったら少し泣けてきた。論文を出せば名前は残るけど、実験のほうが本人より長生きしたら、それはもう不滅と言っていい
4. 海外の名無しさん
ごめん、どういう意味なのか分からない。壁が動いていないなら地震が起きていないってことで、むしろ良い話に聞こえるんだけど。誰か説明してくれないか
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
地震が「小さくて頻繁」ではなく、「大きくてまれ」なほうだという意味だよ。両側のプレートは、長い目で見れば年に3センチ弱の割合ですれ違っている。断層が少しずつ動いてそれを逃がしているなら、壁にも60年のあいだに何かしらズレが出ているはず。出ていないということは、がっちり噛み合ったまま力を溜めていて、数百年に一度、何メートルも一気に動くということ
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
逆に、少しずつ動くタイプの断層も実在する。カリフォルニア州のホリスターという町では、断層をまたぐ道路がじわじわとずれていって、断層の真上で歪んだまま人が住み続けている家まであるそうだ。フランクが確かめたかったのは、アルパイン断層もそっちの仲間なのかどうかだった
7. 海外の名無しさん(>>5への返信)
良い知らせ:この60年あまり、ここでは断層が動くような大地震は起きていない。悪い知らせ:まだ起きていない
8. 海外の名無しさん
測量の機器は60年でずいぶん進歩したはずだけど、1960年代に測った値と最近の値をどうやって比べているのかが気になる。何を基準にして「動いていない」と言い切れるんだろう
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
壁にステンレスの小さな鋲が埋め込んであって、それが測量の目印になっているそうだよ。もともと大ざっぱな道具だから、ミリ以下の精度は求められていないと思う。それにコンクリートはもろいから、断層が本当に動いたら、測るまでもなく見れば分かるはず
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
なるほど、壁そのものが断層をまたいでいるから、遠くに基準点を置かなくても、壁のこっち側とあっち側を比べればいいのか。記事の写真を拡大すると、壁がいくつかの区画に分かれているようにも見える。区画どうしのズレを見る仕組みなのかもしれないね
11. 海外の名無しさん
1000年後の考古学者がこの壁を掘り当てたら、頭を抱えるだろうな。山あいの草地に、何も囲っていない膝丈の壁が1本だけ、やけに正確な向きで埋まっているんだから
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
報告書には「祭祀のために築かれたと考えられる」と書かれるやつだ。夏至の日の出の方角か、どこかの星の並びと一致している、という説もきっと出てくる。大地の機嫌をうかがうための壁ではあるから、半分くらい当たっているのがまた困る
13. 海外の名無しさん
史上もっとも退屈で、もっとも重要な実験の候補だと思う。漏斗に入れたピッチ(タールのような物質)が垂れるのを待ち続けるクイーンズランド大学の実験は、1927年に始まって、1滴落ちるのに10年前後かかる。それでもあちらは少なくとも落ちる。こちらは60年たって、結果が「変化なし」だ
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
この壁がついに割れる日、その瞬間を見ている人はたぶんいない。みんなそれどころではないはずだから。落ち着いた頃に誰かが見に行って、ずれた幅を測り、60年以上空欄だった記録に初めて数字が書き込まれる。そう考えると、退屈な実験どころではないな
15. 海外の名無しさん
ところでこの壁、誰かが手入れしているんだろうか。灰色のコンクリートに地衣類がまだらに付いているらしいけど、うかつに補修したら実験が台無しになりそうで、かえって手を出せない気がする
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
だから現地に行く人は、くれぐれも壁に寄りかからないように。60年分の「変化なし」を自分の体重で終わらせたくはないだろう。もっとも記事を書いた人は、壁の上に立つと、太平洋プレートとオーストラリアプレートのあいだを行ったり来たり跳びたくなる、と白状していたけどね
17. 海外の名無しさん
ちょうど週末の小旅行で南島に来ているところなんだ。地図で確かめたら、この壁から直線距離で40キロ(約24マイル)ほどの場所だった。頼むから、この週末だけは断層に持ちこたえてほしい
18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
安心して。もし動いたとしても、それは君の落ち度(フォルト)じゃない。断層(フォルト)のほうだから
19. 海外の名無しさん
壁よりもっとすごい証拠が南島にはある。断層をはさんで、北のネルソン地方と南のサウスランド地方に、よく似た岩石が分かれて見つかるんだ。その距離が約480キロ。もとはひと続きだったものが、途方もない時間をかけて横にずれてきたと考えられている。地質学者のハロルド・ウェルマンがこれを言い出した当初は、なかなか受け入れてもらえなかったらしい
20. 海外の名無しさん
元の記事でいちばん好きなのは、書き手が取材の途中で、エヴィソンが自分の姉妹の夫のおじいさんだと気づくくだり。しかも、彼の名前を冠した奨学金を最近もらったのが、友人の息子の彼女だったという。その一段を「これがニュージーランドだ」と締めているのがたまらない
21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
義理の親戚のおじいさんの話となれば、敬意のこもった記事になるのも当然だよね。丁寧で、ためになって、どこか可愛らしい文章だった。人口の少ない国ならではの距離感だと思う
22. 海外の名無しさん
ひとつ引っかかったんだけど、どうしてスレッドの題が「フランクという男」なんて書き方なんだろう。記事には著名な地球物理学者だとはっきり書いてあるのに、これだと近所のおじさんが思いつきで塀を建てたみたいに聞こえる
23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
ニュージーランドらしさかもしれない。偉い先生でも下の名前で呼ぶような、上下の距離が近い国なんだ。それに、フランクに言ってしまえば、そのほうが面白いからだよ
24. 海外の名無しさん
地元の人間として補足しておく。2021年に発表された研究では、今後50年のうちにこの断層で大きな地震が起きる確率は約75%と見積もられている。西海岸へ通じる道路が何か月も通れなくなるという想定もあって、わが家でも水と食料を多めに置くようになった。防災プログラムの合言葉は「怖がるな、備えよ」だよ
25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
2016年のカイコウラ地震でも、幹線の国道が長いあいだ通れなくなって大変だったからね。あのとき迂回路になったのが、まさにこの壁のそばを通るルイス峠の国道だった。自分が生きているうちに来るのかどうか、できれば来ないでほしい。でもあの壁が60年かけて教えてくれたのは、「いつかは来る」ということなんだと思う
まとめ
1964年に地球物理学者フランク・エヴィソンがアルパイン断層をまたいで作らせた壁は、60年以上たった今もまっすぐなままだ。それは安心材料ではなく、断層が動きを小出しにせず、力を溜め込んでいることの裏返しと受け止められている。コメント欄には、測り方への素朴な疑問や「何も起きない実験」への敬意、1000年後の考古学者を心配する冗談に、地元からの備えの話が混ざった。何ひとつ測れなかった壁が、この断層についていちばん大事なことを伝え続けている。
元ソース: フランクという男が、ニュージーランド南島のアルパイン断層に沿って壁を作った。地震が「小さくて頻繁」なのか「大きくてまれ」なのかを確かめるためだ。壁は64年間、1ミリも動いていない。

コメント
断層の動きは人類が考えるよりも遥かに遅い。
徐々に動く断層もあるし、一気に動く断層もある、断層を見誤った
建築学的には2kmの構造物を作ったら、地球の曲率の影響を受けて、基礎と天井部で寸法が合わなくなるそうだ。
明石海峡大橋の2本の支柱は厳密には平行ではなく、上部が開いている。