日本で生まれ育った人には当たり前すぎて、あまり意識されていない事実がある。日本では、国内でうつった狂犬病が60年以上一度も出ていない。海外の掲示板で「日本は1957年に狂犬病を根絶した」という話が紹介されると、アメリカやオーストラリア、イギリスの人たちが、自分の国ではなぜ難しいのか、どこまで減らせたのかを語り始めた。発症するとほぼ助からない病気を、日本はどうやって国内から消したのか。そして、なぜ今も飼い犬に毎年注射を打たせているのか。順に見ていく。
今日の知ってた?
🐕 日本では、国内で人が狂犬病にかかった例は1956年が最後、動物では1957年の猫が最後。1950年に狂犬病予防法ができてから、わずか7年で国内の発生が止まった。それ以降に国内で発症した人は、海外で犬に咬まれた輸入症例の4人(1970年・2006年・2020年)だけ。
背景:狂犬病とはどんな病気か
狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染した動物に咬まれることでうつる感染症だ。名前に「犬」と付くが、猫やキツネ、アライグマ、コウモリなど、ほかの動物もかかる。世界保健機関(WHO)によると、咬まれてから症状が出るまでの潜伏期間はふつう2〜3か月で、短ければ1週間、長ければ1年ほどかかることもある。
この病気が恐れられているのは、いったん症状が出ると、ほぼ100%死に至るからだ。WHOも厚生労働省も、発症後に効く治療法は無いと説明している。ウイルスは神経をおかし、水を怖がるような「恐水症」と呼ばれる症状が出ることでも知られる。一方で、咬まれた直後なら助かる道がある。傷口をよく洗い、発症する前にワクチンを何回かに分けて打つ「曝露後接種」を受ければ、発症を防げる。つまり、怖いのは咬まれたことに気づかない、あるいは病院に行かないまま時間がたってしまうことだ。
世界全体では、WHOの推計で今も年に約4万4,000人(2021年の推計。実際はもっと多いとみられている)が狂犬病で亡くなっている。そして人の狂犬病のうち最大99%は犬からうつっている。逆に言えば、飼い犬と野良犬から狂犬病を消せば、人の患者はほとんど出なくなる。日本がやったのは、まさにこれだった。
厚生労働省は、狂犬病が無い国の例として、日本のほかにイギリス、オーストラリア、ニュージーランドなどを挙げている。どれも島国か、海で隔てられた国だ。
もう少し詳しく
決め手は1950年の狂犬病予防法。戦後間もない日本では、まだ犬の狂犬病が出ていて、人も亡くなっていた。そこで1950年(昭和25年)に作られたのが狂犬病予防法だ。この法律は今も生きていて、生後91日以上の犬を飼う人に、飼い始めてから30日以内に市区町村へ届け出る「登録」、年1回の「予防注射」、そして登録のしるしの「鑑札」と注射を受けたしるしの「注射済票」を犬に付けることを義務づけている。守らなければ20万円以下の罰金が科されうる。法律ができた7年後の1957年を最後に、国内の動物の発生は止まった。
「1957年に根絶」の数え方。海外で紹介された「1957年」は、動物での最後の発生の年だ。厚生労働省によると、国内で人が感染した最後の例はその前年の1956年で、動物では1957年の猫が最後になる。人の患者が出なくなっても、動物の間でウイルスが回り続けていれば、いつまた人に戻ってくるか分からない。だから動物での最後の発生である1957年が、区切りとして語られることが多い。
それでも国内で発症した人はいる。1957年以降、日本国内で狂犬病を発症した人は4人いる。いずれも海外で犬に咬まれた「輸入症例」だ。1970年にはネパールを旅行中に犬に咬まれた人が、帰国後に発症して亡くなった。2006年には、フィリピンを旅行中に犬に咬まれた2人が、帰国後に相次いで発症し、亡くなっている。36年ぶりのことだった。さらに14年後の2020年5月には、愛知県豊橋市の医療機関で、フィリピンから来日した30代の外国籍の男性の感染が確認された。島根県が掲載した発表の内容によると、男性は2019年9月ごろにフィリピンで左足首を犬に咬まれたが受診しておらず、2020年2月に来日して静岡市に住んでいた。5月に足首の痛みが出て、恐水症状も現れ、入院先で6月に亡くなった。咬まれてから発症まで約8か月。潜伏期間の長さがよく分かる例だ。なお、狂犬病は通常、人から人へはうつらないため、この患者から感染が広がることはないと説明されている。
なぜ今も毎年注射を打つのか。国内に狂犬病が無いなら注射は要らないのでは、と思う人もいるだろう。しかし、輸入症例が示すように、ウイルスは海外では今も身近にある。万が一、感染した動物が国内に入り込んだとき、飼い犬の多くが免疫を持っていれば、そこで広がりを食い止められる。年1回の注射は、いわば「入ってきたときの防波堤」だ。海外の反応でも、日本が今も狂犬病を強く警戒していることに触れた声があったが、それは心配性というより、一度失えば取り戻すのに大変な手間がかかることを知っているからだろう。
海外で咬まれたら、その日のうちに病院へ。1970年・2006年・2020年の例は、どれも狂犬病がある国で犬に咬まれたことが始まりだった。2020年の男性は、咬まれたときに受診していなかった。WHOによると、咬まれたあとの手当ては、まず傷口をしっかり洗い、そのうえでワクチンを決まった回数打つことで、必要に応じて抗体の注射も加える。発症してからでは手遅れだが、発症前なら防げる。日本国内では心配の要らない病気でも、旅行先では今も現役の病気だということは、覚えておいて損はない。
アメリカが苦労している理由。WHOによると、犬の狂犬病をほぼ抑え込んだ南北アメリカでは、今は血を吸うコウモリが人の狂犬病の主な感染源になっている。犬の対策がうまくいくほど、野生動物、とくにコウモリの問題が目立つという構図だ。海外の反応では、この野生動物との戦いの話が大きく盛り上がった。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
実はヨーロッパでもけっこうな数の国がやってのけてるんだよね。アメリカがとくに難しいのは、単純に国土が広すぎるからだと思う。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
森がとにかく広くて深い場所があるからな。ウイルスを持ってる野生動物を一匹残らず何とかするなんて、ほぼ無理だよ。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
だからアメリカでは、ワクチン入りのエサを空からまいてるんだよ。狙いはおもにアライグマ。
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
コヨーテ向けのエサもあって、こっちはかなりうまくいった。いちばん手ごわいのはスカンクで、北米の多くの地域では今も感染率がトップ。コウモリには、仲間どうしの毛づくろいでうつっていく塗り薬タイプのワクチンが有望らしい。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
うちの庭にエサをもらいに来るスカンクは、ハムとコールスローが大好物。ワクチンはそこに混ぜてくれたら一発だと思う。
6. 海外の名無しさん
ヨーロッパの野生の狂犬病は、ほぼアカギツネが運んでた。だから各国がワクチン入りのエサをまいてキツネに免疫をつけて、西欧と中欧からはほぼ消えた。アメリカはもっと厄介で、アライグマ、スカンク、コヨーテ、キツネ、コウモリと、動物ごとにウイルスの型が分かれてるから、作戦も別々に要る。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
結局ラスボスはコウモリなんだよな。虫を食べるコウモリはエサなんか食べないし、遠くまで飛んでいくし、手の打ちようがない。
8. 海外の名無しさん
オーストラリアも狂犬病は「根絶」したことになってる。ただしオーストラリアコウモリリッサウイルスってのがいて、狂犬病と同じ仲間で、咬まれてうつって、神経をやられて、発症したらほぼ助からない。いや、狂犬病じゃないから大丈夫なんだけどね。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
コウモリが持ってる狂犬病の仲間は、ほぼどこの国にもいるよ。でもコウモリが人を咬むことは滅多にないから、人がかかるのは極めてまれ。犬と猫から狂犬病を消せば、人の患者はほぼ消える。
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
イギリスのコウモリにもリッサウイルスはいるしね。とんでもなく珍しいけど。
11. 海外の名無しさん(>>9への返信)
アメリカで人にうつす一番の犯人がコウモリなのは、犬にワクチンを打ってるからコウモリしか残ってないってだけの話。世界全体で見たら、人の狂犬病のほとんどはワクチンを打ってない犬に咬まれてかかってる。
※注:WHO(世界保健機関)は、人の狂犬病のうち最大99%が犬からの感染だとしている。
12. 海外の名無しさん
イギリスは1902年に一度根絶して、そのあとまた入り込まれて、1922年にもう一回根絶した。先進国で、しかも島国だとやりやすいんだよ。
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
日本も島国だしな。オーストラリアは大陸ごと海で隔てられてるようなもんだから、そもそも狂犬病が定着したことがないって聞いた。
14. 海外の名無しさん
じゃあ日本なら、野良の動物をなでても他の国よりずっと安心ってこと?
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
狂犬病に関してはそう。日本国内で人がうつった最後の例は1956年で、動物の最後は1957年の猫らしい。それ以来、国内でうつった例は出てないんだって。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
「1957年に根絶」って、要は「最後に出たのが1957年」って意味だよね?
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
そこは微妙に違う。人の患者が何年も出なくても、動物の間ではウイルスが回り続けてることがあるから。動物でも出なくなって、初めて「無くなった」と言える。
18. 海外の名無しさん
それに日本は今でもすごく警戒してる。最後の発生から何十年もたつのに、野生動物に気をつけろと医者が注意するし、狂犬病の症状の注意書きもよく見かける。誰かが動物をこっそり持ち込んで、それが逃げて広まるのを本気で心配してるんだ。
19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
日本の外来種の事情を見たら、その心配はまっとうだと思う。千葉では、もともと日本にいない小型のシカ(キョン)が野生化して増えてるくらいだし。
20. 海外の名無しさん(>>18への返信)
警戒して当然だよ。症状が出たら、ほぼ確実に助からない病気なんだから。どこの国の人も、もっと怖がっていい。
21. 海外の名無しさん
でも2020年に日本で狂犬病を発症した人がいた、ってニュースを見た気がするんだけど。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
あれはフィリピンで犬に咬まれた人が、来日してから発症した例。咬まれたのは日本に来る前で、国内でうつったわけじゃない。咬まれてから発症まで8か月くらいあいてたはず。
23. 海外の名無しさん
カナダもまだ根絶できてない。広さで言ったらアメリカといい勝負だし、北の方は人の目が届かない土地ばかりだからね。
24. 海外の名無しさん
東京を離れると野良猫がすごく多いよね。狂犬病の心配はないとしても、咬まれたら他の感染症もあるから、なでる前に一呼吸おいたほうがいい。
まとめ
日本では1950年の狂犬病予防法で犬の登録と年1回の予防注射を義務づけ、7年後の1957年を最後に国内の発生が止まった。その後に国内で発症したのは、海外で咬まれた輸入症例の4人だけだ。海外の反応では、広い国土と野生動物、とくにコウモリに手を焼くアメリカの人たちが島国のやりやすさをうらやみ、オーストラリアやイギリスの人たちも自国の事情を語る流れになった。毎年の注射は、この状態を守るための「保険」と言えそうだ。
参考資料
- 厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」(日本語)
- 島根県「狂犬病の輸入感染症例の発生について」(2020年・日本語)
- 世界保健機関(WHO)「狂犬病(ファクトシート)」(英語)

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