1973年、アメリカの宇宙ステーションに、2匹のクモが乗っていた。発案者は17歳の高校生。そのうちの1匹「アニータ」は、いまもスミソニアンの収蔵品としてホルマリンの中に残っている。無重力でクモは巣を張れるのか、という素朴な疑問の答えと、話の続きをたどる。
今日の知ってた?
🕷️ NASAは1973年、宇宙ステーション「スカイラブ」に2匹のクモ、アラベラとアニータを乗せ、無重力で巣を張れるかを確かめた
2匹とも巣を張った。体は地球に戻され、1974年にスミソニアン協会の国立航空宇宙博物館へ渡された
背景:高校生の疑問が宇宙へ行くまで
スカイラブは、アメリカが1973年5月に打ち上げた宇宙ステーションだ。クモが乗ったのは、3人の宇宙飛行士が59日間滞在した「スカイラブ3」の飛行で、乗員はアラン・ビーン、ジャック・ルーズマ、オーウェン・ギャリオットの3人だった。
この実験は、NASAの研究者が考えたものではない。全米の高校生から寄せられた3,400件を超える提案からスカイラブ用に25件が選ばれ、その1つが、マサチューセッツ州レキシントンの17歳、ジュディス・マイルズの「無重力での巣作り」だった。NASAの紹介記事によると、着想のもとはナショナルジオグラフィック誌のクモの行動についての記事だったという。
一見すると子どもらしい思いつきだが、調べる意味はちゃんとあった。クモの巣の幾何学的な形は、そのクモの中枢神経の状態をよく映す。興奮剤や鎮静剤を与えると動きが乱れるので、薬の影響を調べる実験にクモが使われてきたほどだ。しかもクモは、自分の体重を感じ取って糸の量を決め、風と重力を手がかりに巣を張り始めるとされる。重力の消えた環境は、その手がかりの片方を丸ごと奪うことになる。
選ばれたのは「コモン・クロス・スパイダー」と呼ばれるニワオニグモ(学名アラネウス・ディアデマトゥス)。日本のオニグモと同じオニグモ属の仲間だ。巣作りの場になるケージが用意され、動画カメラとスチルカメラで記録する段取りが組まれた。
もう少し詳しく
最初の巣は、やはり散らかった。米国立公文書館の紹介によれば、2匹は最初の数日、雑な巣を張りながら新しい環境に慣れていった。スミソニアンの子ども向け解説は、アラベラは初日こそ不出来だったが、3日目には地上にいるときのように張れるようになったと書いている。NASAは1973年8月16日に、アラベラと彼女の巣を撮った写真を残している。ギネス世界記録は、この2匹の巣を「宇宙で最初のクモの巣」として載せ、見た目は普通でも、糸は地上のものより細く、太さにむらがあったと記している。スミソニアンの解説は、糸が細くなることは予想どおりだったとしている。体重を感じられなければ、糸の出し方の加減も変わるというわけだ。
宇宙飛行士も手を焼いた。宇宙関連ニュースのスペースデイリーによると、8月5日にギャリオットがアラベラの入った小瓶をケージの隣へ持っていっても、アラベラは出てこようとせず、瓶をそっと振ってようやく外へ出たという。実験を動かすにも、まずクモのご機嫌をうかがう必要があったらしい。
「地上より凝った巣を張った」は言いすぎ。元の掲示板でもこう語るコメントが支持を集めたが、確かめられる資料はこれより控えめだ。2020年の論文は過去の研究を振り返って、スカイラブで写真に残った巣は5枚だけで、そのうち4枚は小さく、間隔もひどく不規則だったと述べている。無重力でも巣は張れた。ただ、地上より上手に張れたとまでは言えない。
2匹の最期は、資料によって書き方が違う。NASAの写真説明は、アニータは飛行の最後の週に死んだとしており、公文書館の資料にも1973年9月19日の日付が見える。アラベラについては、公文書館の紹介が「地球に戻ったのはアラベラだけ」と書く一方、サイエンティフィック・アメリカン誌は2匹ともスカイラブで死んだと伝えている。死因も、脱水を疑う記事はあるものの、はっきりしない。確かなのは、乗員が標本を持ち帰り、NASAが2匹と実験装置を1974年に博物館へ送ったことだ。博物館の目録には、アニータの体は「ホルマリンの中」、容器はプラスチック製、大きさは約11.4センチとある。
続きの実験で、光の役割がわかった。2008年には国際宇宙ステーションでも実験が行われたが、2種類のクモが誤って同じ容器に放たれてしまい、巣の評価が難しくなった。そこで2011年5月、改めて2匹のクモを送り、別の2匹を地上に残して比べた。使われたのは、日本のジョロウグモと同じ属のクモだ。2020年に発表された結果では、無重力の巣は地上より上下の偏りが小さかった。地上の円網は中心が上の端に寄るのが普通だが、照明がついているあいだに張り始めた巣は、中心が照明の側に寄り、地上の巣に近い偏った形になった。巣にとまるクモも、照明がついていると下を向き、消えると向きがばらばらになった。重力がなければ、クモは光を向きの手がかりに使えるらしい。ちなみに無重力の巣は全体として地上より規則性が低かったので、ここでも「宇宙のほうが上手」とはならなかった。なお、ジョロウグモ自身も2010年代からアメリカのジョージア州などに外来種として定着している。
スミソニアンに来た宇宙グモは、もう1匹いる。2012年、エジプトの18歳の発案でハエトリグモの「ネフェルティティ」が国際宇宙ステーションへ行き、約100日を過ごして帰還した。国立自然史博物館で展示が始まった数日後に死に、体は標本として収蔵されることになった。高校生の疑問からクモが宇宙へ行く流れは、40年近くたっても続いていたことになる。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
無重力に慣れるまで数日かかって、そこから巣を作り始めたらしい。1回目は失敗。でも2回目は、細い糸を使って地上よりも凝った巣を作ったんだって。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
重力なしで数日でやり方を変えたってことだよね。クモの頭の良さに素直に感心してしまった。
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
元の記事を読んだけど「地球と同じくらい上手に張れるようになった、糸は細かった」とあるだけで、凝った巣なんてどこにも書いてないぞ。話が盛られてる。
4. 海外の名無しさん
で、結局巣は張れたの? 張れたかどうかを書かずに話を終わらせるの、いちばんやっちゃいけないやつだろ!
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
張れた! しかもクモは2匹いて、アラベラとアニータ。1973年のスカイラブ3号の実験で、数日慣れたあとに両方とも巣を張ったよ。
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
待って、2匹いたの? アラベラの存在が消されてるじゃないか! これは歴史の改ざんだ!
7. 海外の名無しさん
これはいい豆知識だな。最初に無重力に放り出されたクモが「???」ってなってる姿を想像すると、ちょっと笑ってしまう。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
クモって糸を風に乗せて空を飛ぶのも多いから、重さより「風がまったく吹かない」ことのほうに戸惑ってたんじゃないかと思う。
9. 海外の名無しさん
で、エサはどうしたの? 宇宙飛行士がハエを持っていってあげたわけ?
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
打ち上げ前にハエをもらって、容器にも水を含ませたスポンジと予備のハエが入れてあったらしい。それでも結局は水分が足りなかったんじゃないかって説明をよく見る。かわいそうに。
11. 海外の名無しさん
SF小説の『時の子供たち』を読んだから、この先どうなるか知ってる。クモをなめないほうがいい。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
あの小説の話を外で見かけたのは初めてだ。知性を持ったクモの文明を描くやつだよね。続編は1作目を超えられなかったと思うけど。
13. 海外の名無しさん
ずっと思ってるんだけど、NASAにはネズミの宇宙繁殖を長期でやってほしい。小さな遠心機の中で重力を少しずつ減らしていって、何世代目まで繁殖できるか見るんだ。人間の長期宇宙旅行の参考になると思う。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
無重力に適応した宇宙ミュータントを作るより、人工重力を作るほうがずっと早いと思う。この手の話が好きなら、人類が宇宙で進化していくSF小説『七人のイヴ』がおすすめ。軌道力学の説明の長さは覚悟して。
15. 海外の名無しさん
先週フィラデルフィアからミネアポリスへ飛ぶ機内で、離陸の揺れで荷物棚からクモが落ちてきた。1時間ほど糸を登っては落ちるのを見守ってたら、最後に前の席の人のそばに消えた。あのクモのことをずいぶん考えた。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
これでミネアポリスにも、人間とクモが合体したヒーローが誕生して犯罪者と戦うことになるな。
17. 海外の名無しさん
海の底にも沈むし、糸を凧にして空も飛ぶし、今度は宇宙でも巣を張る。つまりクモからは、どこへ行っても逃げられないってことだ。
18. 海外の名無しさん
たしかクモを宇宙に連れていった飛行士の1人はオーウェン・ギャリオットで、ゲーム『ウルティマ』を作ったリチャード・ギャリオットのお父さんだよ。妙なところで話がつながる。
19. 海外の名無しさん
人間ってなんにでも名前を付けるのがいいよね。クモのほうはたぶん自分の名前なんて知らなかっただろうけど、そこがなんだか美しいと思う。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
「たぶん」って言葉を残してくれたのが優しいな。あれは絶対に知らなかったと思うけど、可能性は開けておこう。
21. 海外の名無しさん
素朴な疑問なんだけど、博物館って、公的な支援を受けた「捨てられない人」なのでは? クモの死骸まで取っておくのか。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
収蔵品はあとで分析されることがあるんだよ。将来、この宇宙グモの体にしか答えられない問いが出てくるかもしれない。取っておく価値はある。
23. 海外の名無しさん
ついこの前動画で見たんだけど、後の実験では、クモは重力がないと光を手がかりにして巣を張ることがわかったそうだ。太陽のほうが「上」って感じか。賢いな。
24. 海外の名無しさん
そもそも、なんでその子の名前がアニータだって分かったんだろう? 本人に聞いたわけでもないのに、博物館の目録にまで載ってるぞ。
25. 海外の名無しさん
宇宙にウェブを張ったところで、Wi-Fiがなければ意味がないだろうに。それでも人間の好奇心にはキリがないなと、こういう実験の話を読むたびに思う。
まとめ
17歳の高校生の疑問から宇宙へ行ったアラベラとアニータは、乱れた巣から始めて、無重力でも巣を張れることを示した。コメント欄は「2匹いたのか」と「結果を書いてくれ」で盛り上がり、「地上より凝った巣」という話にはすかさず待ったがかかった。50年前の小さな標本は、光を手がかりにするクモの研究へとつながっている。
参考資料
- NASA「ジュディスの巣:スカイラブ3号の学生実験」(2008年・英語)
- NASA「スカイラブ3号のクモ、アラベラと巣の写真」(1973年撮影・英語)
- スミソニアン国立航空宇宙博物館「クモ『アニータ』、スカイラブ3号」(収蔵品目録・英語)
- Zschokkeほか「宇宙のクモ:無重力での円網に関わる行動」The Science of Nature(2020年・英語)
元ソース: NASAは無重力でクモが巣を張れるか確かめるためアニータというクモを宇宙に送り、その体はスミソニアンに保管されている

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