「ハトを追い出してフンまで掃除したのに、雑音が消えない」ベル研究所の2人が1年格闘したアンテナの“ザーッ”の正体は、ビッグバンの名残だった

「ハトを追い出してフンまで掃除したのに、雑音が消えない」ベル研究所の2人が1年格闘したアンテナの“ザーッ”の正体は、ビッグバンの名残だった 自然・科学

巨大なアンテナに、ザーッというかすかな雑音がどうしても入り続ける。1960年代のアメリカで、2人の電波天文学者がこの雑音とおよそ1年格闘した。機器を点検し、アンテナに巣を作ったハトを追い出してフンまで掃除したのに、雑音はびくともしない。その正体は、宇宙が生まれたころから残っている「名残の光」だった。

※注:「ベル研究所」は、アメリカの電話会社AT&Tの研究所。トランジスタの発明をはじめ、20世紀の科学技術に大きな足跡を残したことで知られる。

今日の知ってた?

📡 1964年から65年にかけて、アメリカ・ニュージャージー州ホルムデルのベル研究所で、電波天文学者のアーノ・ペンジアスロバート・ウィルソンは、アンテナに入り続ける正体不明の雑音に悩まされていた。機器を点検し、アンテナに巣を作ったハトを追い出してフンまで掃除しても、雑音は消えなかった。およそ1年かけてたどり着いた正体は、ビッグバンの名残として宇宙のあらゆる方向から届く宇宙マイクロ波背景放射。2人はこの発見で1978年のノーベル物理学賞を受賞した。

背景:宇宙マイクロ波背景放射とは

宇宙マイクロ波背景放射(英語の頭文字をとってCMBとも呼ばれる)は、空のどの方向からもほぼ同じ強さで届く、ごく弱い電波のことだ。電子レンジと同じ「マイクロ波」の仲間の電波で、もちろん目には見えない。

現在の宇宙論では、宇宙はおよそ138億年前、とても熱く密度の高い状態から膨張を始めたと考えられている。これがビッグバンだ。生まれたばかりの宇宙は熱すぎて、光はまっすぐ遠くまで進むことができなかった。膨張につれて宇宙が冷え、約38万年後に原子ができると、光はようやく自由に飛べるようになる。そのとき宇宙を満たしていた光が、その後の宇宙の膨張によって引き伸ばされ、波長の長いマイクロ波となって今も宇宙全体に残っている。これが宇宙マイクロ波背景放射である。温度に直すと約2.7K(ケルビン)。摂氏でいえばマイナス270度ほどの、とても冷たい「光の名残」だ。

※注:K(ケルビン)は、これ以上は下がらない最低の温度「絶対零度」(マイナス273.15度)を0とする温度の単位。

1960年代の半ばまで、宇宙に「始まり」があったのかどうかは決着がついていなかった。ビッグバン説と並んで有力だったのが、宇宙には始まりも終わりもなく、いつの時代もほぼ同じ姿を保っているとする「定常宇宙論」だ。ビッグバンが本当にあったのなら、その熱の名残がいまも宇宙に残っているはずだ。1940年代の後半には、物理学者ジョージ・ガモフの共同研究者だったラルフ・アルファーとロバート・ハーマンがそう予言していた。ただ、当時はそれを観測する手段がなく、この予言は長く注目されないままだった。

もう少し詳しく

雑音との1年。ペンジアスとウィルソンが使っていたのは、もともと人工衛星を使った通信実験のために作られた、ラッパを横倒しにしたような形の巨大なアンテナだった。2人はこれを、宇宙から届くかすかな電波を精密に測る観測に使おうとしていた。精密に測るには、アンテナや機器そのものが生む雑音を一つ残らず突き止めておかなければならない。ところが、どうしても説明のつかない雑音が残った。アンテナをどの方向に向けても、昼でも夜でも、季節が変わっても、強さはほとんど変わらない。大都市ニューヨークの方角に向けても同じで、天の川銀河から来ているとも考えにくかった。2人はアンテナのつなぎ目や機器を点検し、中に巣を作っていたハトを追い出して、たまったフンもきれいに掃除した。それでも雑音は消えなかった。測った雑音の強さは、温度に直すと約3.5Kだった。

50キロ先で、同じものを探していたチーム。ちょうど同じころ、30マイル(約50キロ)ほど離れたプリンストン大学では、物理学者ロバート・ディッケ率いるチーム(ジム・ピーブルズ、デイヴィッド・ウィルキンソン、ピーター・ロール)が、まさにこの電波をねらって探していた。ディッケとピーブルズは、ビッグバンがあったなら、宇宙は絶対零度より数度だけ高い温度の、一様でごく弱い放射に満たされているはずだと考え、観測用の受信装置を物理学棟の屋上に組み立てていたのだ。そんな折、ペンジアスが知人の天文学者バーナード・バークに雑音の話をすると、「プリンストンのディッケのグループには話してみた? 宇宙はそういう雑音でいっぱいだと考えている人たちだよ」と返された。ペンジアスからの電話を受けたディッケは、雑音の周波数や、空のどこから来ても同じ強さだという特徴を聞いて、すべてを悟った。電話を切ると、一緒に昼食をとっていたチームの仲間に向かって「諸君、先を越されたよ」と言ったと伝えられている。

地味な題名の論文と、ノーベル賞。2つのチームはもめることなく、1965年、天文学の専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に論文を並べて発表した。ペンジアスとウィルソンが観測結果を報告し、ディッケのチームがそれはビッグバンの名残だという解釈を示す、という分担だ。ペンジアスとウィルソンの論文の題名は「4080メガサイクル毎秒における余剰アンテナ温度の測定」(メガサイクル毎秒は今でいうメガヘルツ)。宇宙の始まりの手がかりを報告する論文とは思えないほど、控えめな題名だった。1978年、2人はノーベル物理学賞を受賞する(この年の賞の残り半分は、低温物理学の研究で知られるソ連のピョートル・カピッツァに贈られた)。一方、先を越されたディッケがノーベル賞を受けることはなかった。ただ、チームの一員だったジム・ピーブルズは、宇宙論の理論研究への貢献により、2019年にノーベル物理学賞を受けている。

「本当に宇宙から来ている」と確かめるまで。発見の直後は、この電波が太陽系の中や銀河、宇宙のあちこちにある電波源から来ている可能性も議論された。宇宙そのものから来ている証拠とされたのは2つ。波長ごとの強さの分布が、一定の温度をもつ物体が出す熱の放射(黒体放射)の形と一致すること。そして、空のどの方向からも同じ強さで届くこと。1970年ごろまでに両方が確かめられ、定常宇宙論は急速に支持を失っていった。その後、1989年に打ち上げられたNASAの観測衛星COBE(コービー)が、この放射がほぼ完璧な黒体放射の形をしていることを示し、その成果も2006年のノーベル物理学賞につながっている。

海外の反応

1. 海外の名無しさん
大発見って、だいたい「ん? なんか変だな」と思った人が、そこで気のせいにせず、原因を突き止めようとしたところから生まれるんだよな。

2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「エウレカ(わかったぞ)!」っていうより、「なんでまだザーザー鳴ってんだよ!」のほうだったろうね。しかもそれを1年間。

3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
アシモフの言葉とされてるやつだね。「科学でいちばんワクワクする言葉、多くの発見の前ぶれになる言葉は『エウレカ!』じゃない。『あれ、なんか変だな…』だ」。

4. 海外の名無しさん
論文の題名が「4080メガサイクル毎秒における余剰アンテナ温度の測定」なのが何度見ても笑える。宇宙の始まりの証拠を報告してるのに、題名だけ読むと完全に機材の点検記録なんだよ。

5. 海外の名無しさん
たしか、この放射を本気で探してた科学者が別にいて、それを証明する前に、この2人に偶然見つけられちゃったって話がなかったっけ?

6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
プリンストンのロバート・ディッケだね。皮肉なのは、雑音を消そうと手を尽くした2人が最後に電話で相談した相手が、そのディッケ本人だったこと。ディッケたちはそのとき、50キロほど離れた大学の屋上で、まさにこの電波をとらえるための受信装置を組み立てている最中だった。話を聞いてすぐ正体に気づいたディッケは、電話を切ると、昼食中だった仲間たちに「諸君、先を越されたよ」と言ったそうだ。

7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
そこで揉めなかったのが本当に格好いい。2つのチームは同じ専門誌に論文を並べて載せて、観測データはベル研の2人、それが宇宙の始まりの名残だという説明はプリンストンのチーム、ときれいに分担したんだ。悔しかっただろうに、大人の対応すぎる。

8. 海外の名無しさん
ハトからしたら「いや、俺ら何もしてないんすけど」だよな。巣から追い出されて、フンまで片付けられて、結局の犯人はビッグバン。完全にとばっちり。

9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
しかも一度捕まえて遠くへ運んで放したのに、また戻ってきたって話もあるらしい。ハトの帰巣本能を甘く見ちゃいけない。科学者2人にしてみれば、雑音もハトも、何度追い払っても消えなかったわけだ。

10. 海外の名無しさん
宇宙が始まってからずっと流し続けてるBGMのジャンルが、アンビエントとノイズだったとは知らなかった。しかも一度も止まったことがない。

11. 海外の名無しさん
昔のアナログテレビで、放送のないチャンネルに合わせたときに出る砂嵐。あのザーッという画面の粒のうち1%くらいはこの放射だ、ってよく聞く。チャンネルを変える合間に何気なく見てたあれに、ビッグバンの名残が混ざってたなんてね。

12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
その話、よく出回ってるけど鵜呑みにはしないほうがいい。宇宙から届く電波は、いちばん明るい天体のものでも桁違いに弱いんだ。テレビ自体が出すノイズや、身のまわりの電気製品、それに太陽から来る電波のほうがはるかに大きくて、宇宙の背景放射なんてほとんど埋もれてしまう。

13. 海外の名無しさん
昔、人工衛星の追跡施設で働いてた。なぜか毎週金曜日にだけ電波の干渉が起きて、何週間も機材を片っ端から点検した。ある日、昼ごはんの買い出しに出たら、アンテナのまわりでエンジン式の草刈り機がブンブン動いてた。原因はそれ。解決。

14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
自分なら黙っておいて、今度はこっちから干渉を足すね。毎週月曜の3時2分きっかりに、休憩室の電子レンジで3〜4秒だけ電波を乱す。時計みたいに正確なのに理由がわからなくて、みんながだんだん正気を失っていくのを眺める。最後に「宇宙人だよ」とだけ言って立ち去る。

15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
電子レンジといえば実話がある。オーストラリアでいちばん有名な電波望遠鏡、パークス天文台の科学者たちを17年も悩ませた謎の電波信号。2015年にやっとわかった正体は、職員が昼ごはんを温めるのに使っていた、天文台の台所の電子レンジだった。

16. 海外の名無しさん
似た話でいちばん好きなのは赤外線の発見。天文学者のハーシェルが、光の色によって「温度」が違うのか調べようとして、プリズムで分けた光の色ごとに温度計を置いた。赤のさらに外側、もう目に見える光がない場所にも置いてみたら、なんとそこがいちばん熱くなったんだ。

17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
最高だね。比べるためにおまけで置いた温度計のほうが、本命の実験より大事でした、っていうオチ。邪魔者だと思って消そうとしていた雑音が大発見だった今回の話と、どこか似てる。

18. 海外の名無しさん
地球の年齢を測ろうとしたクレア・パターソンの話も好き。岩石に含まれる鉛を使って年代を出そうとしたら、どのサンプルも鉛で汚染されていて数字が合わない。実験室から鉛を追い出そうとして、今でいうクリーンルームの走りみたいな部屋まで作った。そこでわかったのは、身のまわりの空気にまで鉛が広がっているということ。原因は有鉛ガソリンで、彼はその後、有鉛ガソリンをなくすための活動に身を投じた。もちろん地球の年齢(約45億5000万年)もちゃんと出してる。

19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
『コスモス』のあの回を見てから、ずっと自分のヒーローだよ。空気の汚染に気づいたのは1940〜50年代、有鉛ガソリンが主な原因だと示す論文を出したのが60年代。なのにアメリカで燃料への鉛の添加が完全に禁止されたのは1996年。正しいことが認められるまでの時間が長すぎる。

20. 海外の名無しさん
子どもの頃、アーノに一度だけ会ったことがある。父がホルムデルのベル研究所で彼と一緒に働いてたんだ。ちなみにその社屋は、社員の記憶を仕事とプライベートで切り離す会社を描いたドラマ『セヴェランス』で、ルーモン社の外観として使われてる建物だよ。

21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
うちの母はアーノの娘と友だちだった。発見のすぐあとに記者たちが取材や写真撮影でその家に来たとき、母はちょうど台所でグリルドチーズサンド(チーズを挟んで焼いたサンドイッチ)を作っていた、というのが我が家に伝わる伝説。

22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
で、チーズは何を使ってたの? 歴史に残る日のサンドイッチなんだから、そこはきっちり記録しておいてほしい。ちなみにうちは代々マンスターチーズ派。

23. 海外の名無しさん
20世紀半ばのベル研究所は本当にすごい組織だった。トランジスタもここから生まれたし、発明も発見も山ほどある。経営の方針が「やりたい研究をやれ、お金は出す」だったというから、そりゃ1年ハトのフンと格闘する余裕もあるわけだ。

24. 海外の名無しさん
雑音の正体がわかった日、2人が夜空を見上げて「……これは、もっと長いモップが要るな」ってつぶやいてる姿が目に浮かぶ。

25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
モップはいらない、待てばいいだけ。宇宙が膨張を続けると、この放射はどんどん引き伸ばされて、気が遠くなるほど先の未来には、ほとんど観測できなくなるらしい。ってことは、その頃に生まれた文明は、ビッグバンがあったことに気づく手がかりすら持てないのかもしれない。そう考えると、雑音が聞こえる時代に生まれたのはけっこう運がいい。

まとめ

ハトのフンまで掃除しても消えなかったアンテナの雑音は、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射だった。ペンジアスとウィルソンは1978年にノーベル物理学賞を受け、同じ電波を探していたディッケらは先を越された。コメント欄では「大発見は『あれ、変だな』から始まる」という声のほか、草刈り機や電子レンジが犯人だった観測施設の話、赤外線や地球の年齢の発見談など、「雑音の正体」をめぐる話が数多く寄せられた。

元ソース: ベル研究所の2人の科学者は、アンテナに入るザーッという雑音を消そうと1年を費やし、巣を作ったハトを追い出してフンまで掃除した。それでも雑音は消えなかった。正体はビッグバンの名残の宇宙背景放射で、2人は1978年のノーベル賞を受賞した

コメント

  1. Reddit名無しさん says:

    どっかの電波望遠鏡で、ほぼ毎日特定の時間帯にノイズが入るんで調査した。
    アンテナには問題はなかった。内部の機器類にも問題はない。クェーサーのようなものが原因でもない(他の国の電波望遠鏡ではキャッチされてない)。

    調べた結果、昼飯を電子レンジで温めてたヤツが「タイマーが0になる前に扉を開ける習慣がある」せいでマイクロ波が漏れていたせいだと判明した。