マスクをした女の人に呼び止められて「わたし、きれい?」と聞かれる。昭和50年代に子どもだった人なら、一度は耳にしたはずの「口裂け女」の話です。海外の掲示板で「日本の言い伝えにこんな妖怪がいる」と紹介されると、たちまち400件を超えるコメントが付き、「どう答えれば助かるのか」の大喜利が始まりました。じつはこの話、昔話ではなく、1979年に岐阜から半年ほどで全国に広がった、わりと新しい噂です。
今日の知ってた?
😷 口裂け女は、マスクで口元を隠した女が「わたし、きれい?」とたずね、マスクを外すと口が耳まで裂けている、という日本の都市伝説。噂は1978年の暮れごろに岐阜県で広まり始めたとされ、1979年に新聞や雑誌が取り上げると、半年ほどで青森から鹿児島までの子どもたちに広がった。各地で教師や親がパトロールや集団下校をするほどの騒ぎになったが、その年の夏休みに入るころには下火になった。「ポマードと3回言うと逃げられる」「べっこう飴をあげると見逃してくれる」といった撃退法も一緒に語り継がれている。
背景:口裂け女の噂はどこから来たのか
國學院大學の飯倉義之准教授(口承文芸学・現代民俗論)は、2019年に nippon.com に寄せた解説で、口裂け女を「恐らく純国産『都市伝説』の第1号」と位置づけています。飯倉氏によると、始まりは1978年の暮れごろ。岐阜県八百津町で、農家のおばあさんが庭の隅に口の裂けた女が立っているのを見た、という噂が広まり始めたとされます。ただし発生地には諸説があり、八百津町と決まっているわけではありません。
新聞に初めて載ったのは1979年の初めです。怪談研究家の吉田悠軌氏が著書『現代怪談考』で整理したところでは、「大流行」のごく初期の報道は1979年1月26日の岐阜日日新聞(現在の岐阜新聞)のコラム「編集余記」で、寒い中を塾に通わされている子どもが作り出した現代のお化けかもしれない、という趣旨の書き方をしていました。その後、週刊誌も次々に取り上げ、なかでも『週刊朝日』1979年6月29日号の記事は、のちの研究でもっともよく参照される資料になっています。
広がる速さは当時の大人たちを驚かせました。1979年7月5日の『毎日小学生新聞』は、話が日本中に広がるまでわずか半年ほどだったと伝えています。飯倉氏は、塾に通う子どもが増えて学区を越えた口コミが生まれたこと、電話で遠くの親戚にまで話が伝わったこと、ほかの新聞やテレビも報じたことを、広がりの背景に挙げています。噂を本気で怖がる子どもたちのために、教師や親がパトロールをしたり、集団で下校させたりした地域もありました。
そして、騒ぎは始まったときと同じくらい急に収まります。飯倉氏によれば、沈静化したのは1979年の夏休みが始まるころ。学校がなくなって子ども同士の口コミが途切れたためとみられています。地元の岐阜でも、岐阜日日新聞が同年6月15日の夕刊に「岐阜で生まれた口裂け女 騒ぎやっと下火へ」という記事を載せており、口裂け女の想像図まで添えていたことが、岐阜県図書館がレファレンス協同データベースに登録した調査記録から分かります。
※注:「都市伝説」は、昔話のような古い言い伝えとは違い、現代の暮らしを舞台に「友だちの友だちが見た」という形で広まる噂話のこと。口裂け女はその典型とされます。
もう少し詳しく
本当に「1979年生まれ」なのか。吉田氏の調査では、口裂け女の噂は少なくとも1970年代の半ばから後半には、すでに全国のあちこちで語られていたようです。1979年の流行のさなかにも「口裂け女なんて、数年前に流れた噂だろ?」と感じていた子どもがいたことが、当時の記録に残っています。しかも、メディアに載った最も古い記録では、口裂け女は化け物ではなく、裂けた口のメイクで人を脅かす「ただの人間」の女性で、そういう人に気をつけようという話でした。大流行の前は、子どもを刃物で切るような話はまれで、裂けた口を見せて脅かす程度だったといいます。1979年ごろから子どもを切りつける型が定番になり、埼玉県川越市では、話が凶暴になりかけた時期に「口裂き女」と呼ばれていた例もあるそうです。なお、英語圏の解説には、起源を江戸時代にまでさかのぼらせるものもあります。元の投稿で引用された英語版ウィキペディアも「江戸時代にさかのぼるとされる」と紹介しています。けれども、ここまで見てきたように、確かめられる記録がたどれるのは1970年代までです。江戸起源はあくまで一説として見ておくのがよさそうです。
撃退法は、あとから増えていった。「わたしキレイ?」というセリフ、白いマスク、べっこう飴が好き、ポマードが苦手。今では「口裂け女といえばこれ」という要素も、吉田氏によれば年を追うごとに少しずつ固まっていったものです。流行のあとには、トレンチコートにパンタロン、赤いスポーツカーに乗っている、100メートルをものすごい速さで走る、といった時代を映す設定や超人的な能力まで付け加えられました。飯倉氏も、マスクやコートの色、鎌を持っている、100メートルを6秒で走る、ポマードが嫌い、べっこう飴で見逃してもらえる、とさまざまな尾ひれが付いたことを紹介しています。元の投稿にある「2回目も『きれい』と答えると口を切られる」という流れも、こうした数ある型の一つで、答えたあとにどうなるかは話す人や地域によってまちまちです。国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」には、1999年に発表された報告から、栃木県宇都宮市の女子高校生が語った話として、「口裂け女には十字路で出会うことがある」「『ポマード』と3回言うと消える」「べっこう飴をあげると喜ぶ」という記録が残っています。流行から20年たっても、撃退法はしっかり受け継がれていたわけです。
大人たちはこの噂をどう読んだか。当時は、なぜ子どもたちがこれほど口裂け女を怖がるのかについて、さまざまな説が出ました。吉田氏の整理によると、心理学者の秋山さと子氏は『週刊朝日』で口裂け女を「お母さんのこと」と語り、民俗学者の宮田登氏も、受験社会の圧力が口裂け女の姿になったという「教育ママ」説を支持しました。1979年1月には第1回の共通一次試験が始まり、受験戦争や進学塾が社会の話題になっていた時期です。一方で、社会心理学者の木下冨雄氏は、こうした解釈は大人の物差しで子どもの心を読んだものだと批判しています。飯倉氏は、塾帰りに夜の街を歩くようになった子どもたちが、夜道で出会う見知らぬ大人への不安を口裂け女に重ねた、という見方を示しています。答えは一つではありませんが、どの説も、口裂け女が1979年の子どもたちの暮らしと深く結びついていたことを示しています。
海を渡った口裂け女。飯倉氏によれば、口裂け女は2000年以降、インターネットを通じて海外にも伝わり、あらためて注目されるようになりました。韓国にも伝わり、マスクが赤くなるなど独自の特徴が付いたといいます。沖縄や台湾、韓国、中国には「魔物はまっすぐにしか進めない」という言い伝えがあり、それを背景に、韓国の口裂け女は角を曲がれず階段も上れないとされているそうです。今回の海外の掲示板にも、日本の妖怪が出てくるゲームで先に口裂け女を知っていたという声がありました。1979年に岐阜から全国の子どもたちに広がった噂は、半世紀近くたって、世界中の人が「どう答えれば助かるか」を考える話になっています。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
「あなたは普通くらいかな」って答えると、彼女が混乱してるあいだに逃げられるらしい。あと「会議に遅れそうなので」って言えば見逃してくれるんだって。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
さすが日本。妖怪ですら、相手の仕事の予定には気を使ってくれるのか。
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「普通」って答えるのは、ウィキペディアにもちゃんと助かる方法として書いてあるよ。ネタじゃなくて正攻法なんだ。
4. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「申し訳ありません、この件は書類にご記入のうえ、ハンコを押していただかないとお答えできない決まりでして」
これで口裂け女も帰るしかない。
5. 海外の名無しさん
混乱させて逃げる隙を作れそうな答えを考えてみた。
・「人は中身を知ってからじゃないと、きれいかどうか判断できないタイプなんです」
・「目がほとんど見えなくて」
・「あなたは自分のことをきれいだと思う?」
・「その手には乗らないぞ、妖怪め」
・「じゃあ聞くけど、僕ってイケてる?」
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
自分なら「正直、あなたのことはいい友だちとしか思えなくて」って言うね。人間相手でも妖怪相手でも、これ以上に気まずい空気はない。
7. 海外の名無しさん(>>5への返信)
質問に質問で返すのは、意外とちゃんとした脱出作戦だと思う。「あなたは自分をきれいだと思う?」って聞き返せば、考え込んでるあいだに走り出せる。こういう話には必ず抜け道があって、それを探すのが半分楽しいんだよな。
8. 海外の名無しさん(>>5への返信)
「そもそも、世間一般の美の基準って何なんでしょうね」
哲学の議論に持ち込めば、夜が明けるまで粘れる。
9. 海外の名無しさん
質問は2回、どっちの答えを選んでも外れ。レジで「レシートはご入用ですか?」って聞かれるだけでいまだに焦る自分には、絶対に生き残れない。
10. 海外の名無しさん
べっこう飴っていうキャラメルみたいな硬い飴をあげると、見逃してもらえるらしい。地面にばらまくと拾うのに夢中になるから、そのあいだに逃げられるって話も聞いた。正直ちょっとかわいい。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
あと「ポマード」って3回唱えると逃げていくんだってね。怖い都市伝説にこういう妙に具体的で間の抜けた決まりがあるの、本当に好き。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
ポマードが苦手な理由は話によって違うみたい。彼女の口を裂いた男がポマードをべったり付けていたから、って説明を読んだことがある。
13. 海外の名無しさん
日本の怪談って、どうしてこうも怖いんだろう。ただ襲ってくるんじゃなくて、こっちに質問して答えさせるっていうのが、いちばん嫌なところを突いてくる。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
しかも古い言い伝えかと思ったら、広まったのは1979年なんだよね。新聞や雑誌が取り上げて全国に広がって、小さい子が大人に付き添われて下校するほどの騒ぎになったって読んで驚いた。
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
ネットもない時代に、子どもの口コミだけで半年で国中に広がったっていうのがすごい。今ならSNSで一晩だろうけど。
16. 海外の名無しさん
自分は心配してない。日本語で聞かれても、こっちは何を言われてるのか分からなくてポカンとしてるだけだから、向こうがあきらめて帰っていくはず。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
「すみません、日本語は話せないんです」が最強の呪文だったとは。
18. 海外の名無しさん
「女性には興味がないので、ちょっと分からないです」って答えたらどうなるんだろう。彼女の想定問答集にその答えは入ってるのかな。
19. 海外の名無しさん
みんなふざけてばかりで、誰も肝心なことを聞いてない。「1回目に『きれい』と答えて、2回目に『きれいじゃない』と答えたらどうなるの?」
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
話によって違うみたいだけど、2回目に否定したらやっぱり襲われる、っていうのが多いらしい。2回とも「きれい」でも見逃してくれる型と、そうじゃない型があるとか。どっちに転んでも油断できない。
21. 海外の名無しさん
口裂け女はすごく背が高く描かれることが多いから、両手を上に伸ばして「だっこ!」って言ったらどうなるか、ずっと気になってる。
22. 海外の名無しさん
ゲームの『Ghostwire: Tokyo』で初めて知ったよ。日本の妖怪がいっぱい出てくるんだけど、あの作品の妖怪はどれもよくできてた。
23. 海外の名無しさん
覚えてる範囲だと、逃げ方は3つ。
1. 「普通」と答えて、きれいかどうかをはっきりさせない
2. 飴をばらまいて気をそらし、全力で逃げる
3. 「急いでるので、こんなことしてる時間はないんです」と言い切る
24. 海外の名無しさん
面白い豆知識だった。日本の妖怪を一つ覚えたうえに、コメント欄のおかげで、角の立たない断り文句まで山ほど手に入った。
まとめ
口裂け女は、1978年の暮れごろ岐阜で広まり始め、1979年に半年ほどで全国の子どもたちに広がった、日本でもっとも有名な都市伝説の一つです。海外のコメント欄は「どう答えれば助かるか」の大喜利で盛り上がり、「普通です」「急いでるので」「日本語は話せません」と、角の立たない断り文句が次々に集まりました。ポマードやべっこう飴の撃退法には、怖いのにどこか憎めないと面白がる人も多く、恐ろしさと抜け道がセットになった噂だからこそ、半世紀近くたっても語り継がれているのかもしれません。
参考資料
- nippon.com 飯倉義之「『口裂け女』から『きさらぎ駅』まで―都市伝説の変容から振り返る昭和・平成の日本社会」(2019年・日本語)
- 文春オンライン 吉田悠軌「『わたしキレイ?』“口裂け女”の噂は、子供の進学塾通いが原因なのか」(『現代怪談考』より)(2022年・日本語)
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース(岐阜県図書館)「『口裂け女』が噂になった当時、岐阜新聞に口裂け女の想像図が載った記事が掲載されたはずだが、その記事が見たい」(2007年・日本語)
- 国際日本文化研究センター 怪異・妖怪伝承データベース「口裂け女,べっこう飴」(出典:久野俊彦「高校生が知っている不思議な話」『下野民俗』39号)(1999年・日本語)

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