「便座の穴は直径10センチ、その中心にぴたりと座れ」NASAが便器にカメラを仕込んだ理由

「便座の穴は直径10センチ、その中心にぴたりと座れ」NASAが便器にカメラを仕込んだ理由 技術・発明

スペースシャトルに乗るには、操縦も実験装置も緊急脱出の手順も覚えなければならない。そのうえで、もうひとつ何時間もかけて練習しなければならないものがあった。トイレである。しかもNASAは、そのために便座の穴の中にビデオカメラを取り付けた訓練装置をわざわざ作った。訓練生はモニターに映る十字線を見ながら、自分の体をどこに置けば正しい位置になるのかを覚えていく。その様子を、ほかの飛行士たちが横で見ながら冗談を飛ばしていたという。ふざけた話に聞こえるが、こうなった理由はどこまでも真面目な工学上の都合だった。

※注:ここでいう無重力は、正確には微小重力と呼ばれる状態を指す。地球の重力が消えているわけではなく、宇宙船も乗員も一緒に落ち続けているために、船内では物が下に落ちない。宇宙のトイレの設計が難しくなる理由は、突き詰めればこの「落ちない」という一点にある。

今日の知ってた?

🚽 スペースシャトルのトイレは、使えるようになるまでに何時間もの訓練を必要とした。正式名称は廃棄物収集システム(Waste Collection System)。小便にはホースを使い、大便用の便座の穴は直径4インチ(約100ミリ)と一般的な便器よりずっと小さく、体をその中心にぴたりと合わせて座る必要があった。そこでNASAは穴の中にビデオカメラを仕込んだ訓練用シミュレータを製作し、訓練生はモニターに映る十字線を頼りに正しい位置取りを覚えた。その練習を、ほかの飛行士たちが眺めながら冗談を言っていたという。

背景:重力がやっていた仕事

地上のトイレが簡単なのは、設計が優れているからというより、重力という無料の装置が仕事の大半を引き受けてくれているからである。体から離れたものは下に落ちる。落ちた先には水がある。水も下に流れる。私たちが便座の上でやっていることは、実質的には「落ちる方向にだけ気をつける」ことしかない。

ところが軌道上では、その前提が丸ごと消える。船内では、手を離したペンも、こぼれた水も、その場に浮いたまま漂う。排泄物も同じで、放っておけば体から離れず、離れたら離れたで船内を漂い始める。密閉された居住空間でそれが起きたとき何が困るかは、想像するまでもない。

そこで宇宙のトイレは、重力の代わりに空気の流れを使う。便座やホースの側から空気を吸い込み続け、その気流に運ばせるという方式である。掃除機とほぼ同じ理屈で、下に落とすのではなく、横から吸い取る。仕組みとしてはこれで解決なのだが、代わりにひとつ条件がつく。気流で運ぶ以上、体と便座のあいだに大きな隙間があると、空気はそこから素通りしてしまう。吸い込む力は、狙った場所を通ってはじめて意味を持つ。

直径わずか10センチほどの穴に、体をきっちり合わせて座らなければならなかったのはこのためだ。地上の便器のように「だいたいこの辺」で済ませることができない。位置がずれれば、そこはもう吸引の効かないただの隙間になる。

もう少し詳しく

モニターの十字線という解決策。問題は、当人からは自分がどこに座っているのかがまったく見えないことである。座ってしまえば穴も体も視界の外だ。そこでNASAが取った方法が、穴の中にビデオカメラを置いて、その映像をモニターに出し、十字線を重ねるというものだった。訓練生は画面を見ながら、体の位置と画面上の十字線を合わせる感覚を体で覚えていく。射撃や着艦の訓練で照準を合わせるのと、やっていること自体は変わらない。ただし対象が違うだけである。

笑われながら覚えるしかなかった。この練習には、ほかの飛行士たちが見物して冗談を言うという、公式手順書には書いていない副産物がついてきた。宇宙飛行士といえば、選抜倍率をくぐり抜けた各分野の第一人者である。その人たちが順番に装置に座り、モニター越しに位置合わせをして、同僚に囃されている。訓練施設の風景としては相当に間の抜けた絵だが、笑い声のほうが正常な反応で、真剣なのは装置のほうだ。軌道上で失敗すれば、その後始末は逃げ場のない密閉空間の中で行うことになる。

アポロの時代は、袋だった。スペースシャトルのトイレが登場する前、アポロ計画の飛行士たちはビニール袋を使っていた。この件はコメント欄でも真っ先に引き合いに出された。中でも語り草になっているのがアポロ10号での出来事で、船内に排泄物がひとつ漂い出し、月を周回しながらトム・スタッフォード、ジョン・ヤング、ジーン・サーナンの三人が「誰のだ」と言い合ったという記録が残っている。当時の医学的評価をまとめた文書には、こんな一文があったと紹介されていた。「エンジニアリングの観点から見れば、アポロの廃棄物処理システムはおおむね満足に機能した。しかし乗員の受け止め方という点においては、このシステムには低い評価を与えざるを得ない」。役所言葉で書かれた不満というのは、なぜこうも味わい深いのだろう。

「何時間も訓練」は、たぶん大げさではない。宇宙飛行では、地上なら何も考えずにやっている動作のほとんどが、いちいち手順として組み直される。食事も、着替えも、寝ることさえそうだ。トイレはその中でも、飛行中に必ず何度も発生し、しかも一度も失敗が許されないという珍しい部類に入る。やり直しがきかないうえに、失敗の影響を全員が共有してしまう。何時間も練習させたというのは、要するに、それだけの価値があると判断されたということでもある。

海外の反応

1. 海外の名無しさん
アポロの飛行士たちはビニール袋にしていたからな。アポロ10号では船内に漂い出したのが一つあって、三人が月を回りながら「誰のだ」と言い合ったという話が残ってる。人類が月に一番近づいた瞬間の会話がそれだと思うと、なかなかの味わいだ。

2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
当時の評価文書の言い回しが最高でさ。「エンジニアリングの観点から見れば、おおむね満足に機能した。しかし乗員の受け止め方という点においては、低い評価を与えざるを得ない」。設計はうまくいったが使う人間は地獄を見た、を役所言葉に翻訳するとこうなる。

3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
前向きに考えよう。あの三人は自分たち専用の周回天体を手に入れたわけだ。命名権もたぶん持ち主争いの決着次第だったんだろうな。

4. 海外の名無しさん
元記事にちゃんと書いてあった。小便はホース、大便は便座で、その穴が直径4インチ、つまり10センチほどしかない。一般的な便器よりはるかに小さいから、体をきっかり中心に合わせないといけない。だからカメラと十字線で練習させた、と。読むと理屈は通ってる。

5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
直径10センチと言われてもピンと来なかったけど、コーヒーカップの飲み口くらいと考えると急に現実味が出てきた。あれに毎回正確に座れと言われたら、確かに何時間か練習させてもらいたい。

6. 海外の名無しさん
家のトイレって、要するに重力という無料の部品に処理を丸投げしてるだけなんだよな。その部品が使えなくなった瞬間に、専用の設計と何時間もの訓練が必要になる。当たり前の設備がどれだけ地球に依存してるかがよく分かる話だと思う。

7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
落とすんじゃなくて吸うわけだから、原理としてはほぼ掃除機だ。そして掃除機は、ノズルが対象からずれてると何も吸わない。位置合わせがそこまで重要になる理由が、そう考えるとすっと腑に落ちる。

8. 海外の名無しさん
何時間もの訓練っていうのは、さすがに大げさなんじゃないの。数回やれば感覚はつかめそうなものだし、そこまで時間をかけるほどのことなのかと正直思ってしまう。

9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
地上なら失敗しても拭けば終わりだけど、あそこは閉じた箱の中で全員が同じ空気を吸って何日も過ごす場所だからな。しかも掃除に出ていくこともできない。失敗の代償が違いすぎるから、時間をかけるだけの理由はあると思うよ。

10. 海外の名無しさん
初期の宇宙飛行では尿路感染を起こした飛行士が何人もいたという話を読んだ記憶がある。男性はふつう一生かかることのない症状らしいから、そう考えると当時の衛生環境がどれくらいのものだったか察してしまう。

11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
無重力だと液体がその場に留まりやすいから、細菌が増える条件が地上と違うという話も聞いたことがある。トイレの設計って、快適さの問題に見えて実際は健康管理の話でもあったわけだ。短期の飛行だから帰ってから治療すればいい、で押し切っていた時期があったんだろうな。

12. 海外の名無しさん
私が宇宙飛行士という進路を、より献身的な方々に快くお譲りした理由がこれです。適性というものは自分でよく分かっているつもりだ。

13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
工事現場の仮設トイレを真夏に使うのに比べたら、まだマシな気がするけどな。少なくとも空調は効いてるし、においも吸い込んで処理してくれるわけだろう。

14. 海外の名無しさん(>>12への返信)
子どもの頃は宇宙飛行士って響きが最高に華やかだったのに、大人になって中身を知るほど地味にきつい仕事だと分かってくる。狭い、うるさい、寝られない、風呂もない。夢のほうを壊しにくるタイプの豆知識だ。

15. 海外の名無しさん
無重力下での命中精度を評価してくれる求人はどこで応募できますか。一生かけて磨いてきた技能がついに世の中の役に立つ日が来たかもしれない。みんなには才能ではないと言われ続けてきたが。

16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
『スター・ウォーズ』でデス・スターの溝を飛びながら「目標から目を離すな」「近づきすぎだ」とやり取りする場面が頭の中で完全再生された。あの緊張感を訓練施設で味わっていた人たちが実在するというのがすごい。

17. 海外の名無しさん
素朴な疑問なんだけど、女性はどうしていたんだろう。小便にホースを使うと書いてあるけど、体のつくりが違えば同じものをそのまま使うわけにはいかないよね。専用の部品があったのか、それとも別の方式だったのか。

18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
今の宇宙ステーションでは、一人ひとりの体に合わせて作った漏斗状の部品を吸引チューブの先に付けて使っていると聞いた。要は個人専用のアタッチメントだな。共用の便座に全員を合わせるのではなく、部品のほうを人に合わせるという発想の転換がされている。

19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
つまり空中給油と同じ仕組みで、流れる向きが逆ということか。ドッキングの精度が求められる点まで一緒だ。

20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
この会話は前のコメントで気持ちよく終われたはずなのに、どうしてもそれを世に放ちたい人が必ず一人いる。そしてその一人がいないと掲示板は成り立たないので、結局は感謝することになる。

21. 海外の名無しさん
訓練は服を着たまま行われたと信じたいところだ。あの装置の映像を同僚に見物されながら位置合わせを覚えるというだけでも、精神的にはかなりの負荷だったと思う。宇宙飛行士の選抜基準には度胸も入っていたと聞くが、こういう度胸のことだったのかもしれない。

22. 海外の名無しさん
『2001年宇宙の旅』に、宇宙ステーションへ向かう船内で無重力トイレの使用説明書を延々と読んでいる場面がある。画面を拡大すると本文がちゃんと書き込まれていて、まじめに読める内容になっているんだ。当時の想像が現実の訓練時間に追いついていたことになる。

23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
あの映画は、誰も気にしないはずの細部にいちばん手をかけているのが本当にいい。宇宙服のデザインでもなく宇宙船の造形でもなく、トイレの説明書の文面を作り込んでいるあたりに執念を感じる。

24. 海外の名無しさん
似た話で宇宙用のボールペンがある。無重力でもインクが出るように内部を加圧した特殊なペンで、これも真面目な工学の産物だ。ちなみにソ連が鉛筆で済ませたという有名な話は事実ではなくて、削りかすの黒鉛が船内に漂うと電子機器や火災の危険になるから、結局あちらもアメリカ製のペンを買って使っていた。それくらい良い製品だったということ。

25. 海外の名無しさん
莫大な予算をかけて人類を宇宙まで運んで、最後まで一番の難関が用を足すことだったというのが、なんとも人間らしくていい。技術がどれだけ進んでも、体のほうは地球仕様のまま連れて行くしかないんだよな。

まとめ

便座の穴にカメラを仕込んで、モニターの十字線で位置合わせを練習させる。字面だけ見れば悪ふざけのような装置だが、たどっていくと理由は一本の線でつながっている。無重力では物が落ちないので、重力の代わりに空気の流れで運ぶしかない。気流で運ぶなら体と便座の隙間が問題になるので、直径10センチの穴の中心に正確に座らなければならない。ところが座ってしまうと自分の位置は見えないので、カメラと十字線が要る。ふざけているようで、一段ずつは全部まっとうな判断の結果である。コメント欄も、笑いながらもどこかで感心している人が多かった。アポロ時代の袋の話に始まり、掃除機と同じ原理だという指摘、当時の衛生状態を心配する声、宇宙用ボールペンへの脱線まで一通り出そろって、最後は「一番の難関が用を足すことだった」という感想に落ち着いていく。地上のトイレが簡単なのは、私たちが賢いからではなく、重力が黙って働いてくれているからだった。明日から便座に座るとき、少しだけありがたく感じるかもしれない。

元ソース: スペースシャトルのトイレは操作が複雑で、使えるようになるまでに何時間もの訓練が必要だった

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