中世ヨーロッパの攻城兵器といえば、長い腕の先から巨石を放り投げるトレビュシェット(平衡錘式投石機)。その中でも「史上最大」と呼ばれるのが、1304年にイングランド王エドワード1世がスコットランドのスターリング城を攻めるために作らせた「ウォーウルフ(戦の狼)」です。同時代の年代記は、投石機の一撃が城の外壁を「布を射抜いて飛ぶ矢のように」貫いたと書き残しています。しかもこの怪物、城の守備隊が降伏を申し出たあとに、わざわざ撃ち込まれたらしいのです。
※注:トレビュシェットは、腕の片側に重いおもりを付け、おもりが落ちる力で反対側の投石用の袋を振り上げて石を飛ばす投石機。人がロープを引いて投げる古い型より、はるかに重い石を遠くへ飛ばせる。
今日の知ってた?
🏰 1304年7月、スターリング城は無条件で降伏した。それでもエドワード1世は「ウォーウルフを撃ち込むまで、味方は誰も城に入らせない」と命じた(包囲の陣中から出された書状より)。この投石機は現在、ギネス世界記録に「最大の木造トレビュシェット」として載っている。
背景:スターリング城の包囲とは
エドワード1世は「スコットランド人への鉄槌」の異名で知られるイングランド王です。1298年のフォルカークの戦いでウィリアム・ウォレスを破りましたが、スコットランドを完全に押さえるまでにはさらに6年かかりました。1304年の春にはほぼ全土を再び支配下に置き、最後に残った抵抗の拠点が、岩山の上に建つスターリング城でした。
城を守っていたのは、騎士ウィリアム・オリファントと、わずか25〜30人ほどの兵です。スコットランドの文化財を管理する公的機関ヒストリック・エンバイロメント・スコットランド(HES)が2024年に公開した解説によると、エドワードは同年3月、セント・アンドルーズで開いた議会で守備隊を無法者と宣言しました。スコットランドの諸侯には兵と馬を出させ、城に物資を送ることを禁じ、イングランドのニューカッスルから攻城用の資材を船で運ばせています。さらに教会には屋根の鉛を剥がしてスターリングへ送るよう命じ、ブレチンから5台、ダンファームリンから12台、セント・アンドルーズから22台の荷車が届きました。エドワード本人がスターリングに着いたのは4月22日です。
当時イングランドで書き継がれたラテン語の年代記『フローレス・ヒストリアルム(歴史の花)』によると、王が城を囲むと、オリファントは王に使者を送り、フランスにいる主君ジョン・ド・スーリスに、城を明け渡すべきか、どこまで守るべきかを尋ねさせてほしいと願い出ました。王はこれを退け、「明け渡すより守るほうがよいと思うなら、自分で身を守るがいい」と返したといいます。こうして籠城が決まりました。
HESの解説では、イングランド軍は13台の投石機を並べ、昼も夜も石を撃ち込みました。年代記には、城壁に当たった石は跳ね返ることもあったが、壁を越えた石が城内の建物を壊し、蓄えていた収穫の山まで焼いた、とあります。エドワードは鎧も着けずに城の周りを馬で回ることが多く、塔から放たれた大きな矢が王の脚の間を抜けたのに、体にも馬にも当たらなかった、という「奇跡」まで記されています。
もう少し詳しく
ウォーウルフは降伏に間に合わなかった。王の会計記録には、5月と6月にスターリングで「ルプス・グエッレ(戦の狼)」と呼ばれる機械を作る大工たちに支払いをした記録が残っています。HESの解説では、5人の親方大工と50人の作業員が、太い梁と巻き上げ機と大きなおもりを組み上げました。ところが完成が近づいたころ、オリファントは部下と城を守るために降伏します。19世紀に編まれたスコットランド関係の文書目録には、陣中から出された書状が収められていて、「この月曜、聖マーガレットの日(1304年7月20日)に、スターリング城は条件なしで王に明け渡された。しかし王は、ウォーウルフで撃つまでは味方の誰も中に入れないと決め、中の者はその狼からできるかぎり身を守れ、とのことだ」と書かれています。降伏が正式に受け入れられたのは、その数日後とされます。HESによると、エドワードは宮廷の婦人たちが見物するための観覧席まで作らせ、放たれた弾は城を囲む外壁を打ち砕いたといいます。守備隊は命こそ助けられたものの、人々の前で辱めを受け、イングランドへ送られて投獄されました。
「布を射抜く矢のように」の出どころ。この一節は、上の『フローレス・ヒストリアルム』にあります。1890年に刊行された校訂版の第3巻319ページによると、王は破城槌(城門や壁を突き崩す丸太)とウォーウルフを作らせましたが、破城槌は「ほとんど役に立たず」、ウォーウルフは「費用は少ないのに、籠城側により大きな損害を与えた」。続けて、巨大な投石機が一つの石で、岩山の頂に築かれた外壁を二つ「布(亜麻布)を射抜いて飛ぶ矢のように」貫いた、と書かれています。ただし、この文の主語は複数形の「巨大な投石機」で、ウォーウルフ1台の一撃と言い切れるかは読み方しだいです。同じころ書かれたフランス語(アングロ・ノルマン語)の韻文年代記も、この機械を「恐ろしい機械」と呼び、「ルドガール」と名付けたと記しています。ルドガールは、フランス語の「ルー・ド・ゲール(戦の狼)」を縮めた呼び名です。
「史上最大」の根拠は推定。実は、ウォーウルフの高さや腕の長さを書いた同時代の記録はありません。残っているのは、大工や作業員への支払い、人数、作業にかかった期間、そして年代記の恐れ方です。ギネス世界記録は、120kgの弾を約200m飛ばせたとし、腕を立てたときの高さを最大90mと見積もっていますが、これは後世の記述をもとにした推定値だと断っています。弾の重さについても、HESの解説は140kgとしていて、数字は資料によって違います。王の会計記録には、同年9月12日に、王妃の従者トマス・グリーンフィールドへ、ウォーウルフを作った労をねぎらって40ポンドを与えた記録があります。翌1305年12月のベリック城の武器の目録にも、ウォーウルフの部品として鉄の輪80個などが載っています。撃ったあとも、部品は捨てられずに保管されていたようです。
城の床下から出た「投石機の犠牲者」。1997年、スターリング城の王室礼拝堂の床下から9人分の骨が見つかりました。そのうち「スケルトン150」と呼ばれる若い男性の骨には160か所を超える骨折があり、頭蓋骨だけで61か所が砕けていました。2026年8月、英ブラッドフォード大学の生物考古学者ジョー・バックベリーらは、高速で飛んできた物が背後から当たった傷で、投石機の弾による死と考えられると報告しています。1304年の包囲と時期が重なる一方、ほかの投石機も撃ち込まれていたため、研究者たちもウォーウルフの弾だとは言い切っていません。
同じころ、ユーラシアの東の端でも。重いおもりで石を飛ばす投石機は、同じ時代の東アジアでも城を落としていました。元(モンゴル帝国)が南宋の襄陽を5年近く包囲した戦いでは、イルハン朝から呼ばれたイスラム教徒の技術者たちが新型の投石機を作り、1273年3月に襄陽は降伏しました。中国ではこの投石機を「回回砲」と呼びます。元が日本に攻め寄せた文永の役の前年で、ウォーウルフがスターリング城に向けられる約30年前のことです。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
別の資料だと、ウォーウルフが完成したのはスコットランド側が降伏したあとなんだって。それでもエドワードは、試し撃ちが済むまで誰も城に出入りさせないと決めたらしい。うわぁ…
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「国防費に1兆3000億ドルもつぎ込んだんだ。神にかけて、1兆3000億ドル分きっちり使わせてもらう」ってことだな
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
予算を使い切らないと、本社から来期の予算を減らされるからな。中世の王様も今の会社も考えることは同じ
4. 海外の名無しさん
13世紀に、重機も何もなしでこんな強力なものを組み上げたってのがすごい。中世の技術者って本当にたいしたもんだよ
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
記録だと親方大工5人と作業員50人くらいで、5月から組み立ててたらしい。全部人力の現場だと思うと気が遠くなる
6. 海外の名無しさん
ああ、まさかRedditがまた投石機ネタを始めるのか? 2016年の「大ミーム戦争」がフラッシュバックしてきた。頭の中で反戦ロックが流れ始めてる
※注:2016年ごろ、Redditでトレビュシェット(投石機)をひたすら讃えるネタ投稿が大流行した。「反戦ロック」は、ベトナム戦争の映画でよく流れる米バンドの曲を指したジョーク。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
あれがもう10年前? 嘘だろ。いいかげんこのサイトから離れないとダメだな
8. 海外の名無しさん
「牛を投げろ!(フェッチェ・ラ・ヴァーシュ!)」。投石機の話になると、どうしてもこれが頭に浮かぶ
※注:英国のコメディ映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975年)で、城にこもったフランス兵が投石機で牛を投げつけてくる場面のセリフ。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
「お前らは上がってこられないぞ、イングランド人だからな!」「じゃあお前は何者だ?」「フランス人だよ! でなきゃこんなとんでもない訛りなわけないだろ、間抜けな王様め!」
10. 海外の名無しさん
個人的にいちばん好きなのは、本当はもう使う必要がなかったってところ。でもせっかく作ったんだから、一回も撃たないのはもったいないよな
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
城の守備隊長は降伏を申し出たのに、エドワードは投石機を先に使いたくて受け入れなかったんだよ。一発撃ってから、ようやく降伏を受け入れた。容赦ないにもほどがある
12. 海外の名無しさん
あれ、投石機って木200と金200で作れるんじゃなかったっけ?
※注:PCの戦略ゲーム「エイジ オブ エンパイア II」で、トレビュシェットを1台作るのに必要な資源の量。
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
いやそれは普通のトレビュシェット。ウォーウルフは木800と金400だぞ
14. 海外の名無しさん
何年も前に米公共放送PBSのドキュメンタリーで、実物大の投石機を作って試験用に建てた壁に撃ち込んでた。石が跳ね返りながら少しずつ壁を削るんだと思ってたら全然違って、段ボールを銃で撃ち抜くみたいにあっさり貫通しててびっくりしたよ
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
でもその壁は本物の城壁ほど頑丈じゃないし、弾を受け流す形にもなってないだろ。アッコンの包囲みたいに、何日も石を投げ続けた記録のほうが普通なんだ。ウォーウルフが別格だっただけで、たいていは城壁の下にトンネルを掘って崩してた。投石機一台で済むなら、誰もトンネルなんか掘らないし、そもそも城壁を築かないよ。城壁が廃れたのは、大砲がよっぽど強くなってからだ
16. 海外の名無しさん
エドワード1世は、ラテン語で「マッレウス・スコトルム」、つまり「スコットランド人への鉄槌」とも呼ばれてた。そう呼ばれるだけのことはしてる
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
え、スコ…何だって? 何をどうされたって?
※注:「スコトルム」を英語の「スクロータム(陰嚢)」と聞き違えたふりをした冗談。
18. 海外の名無しさん
映画『アウトロー・キング』でこの包囲が再現されてるよ。エドワード1世役のスティーヴン・ディレインが本当にうまいんだ
※注:2018年のNetflix映画『アウトロー・キング スコットランドの英雄』。冒頭でスターリング城を投石機で攻める場面が描かれる。
19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
降伏したのに撃ったって、この話だったのか。映画を盛り上げるための脚色だとばかり思ってた
20. 海外の名無しさん
「史上最大と考えられている」って書いてあるのに、大きさが何も書いてないんだよな。うーん?
21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
実寸の記録は残ってないんだよ。あるのは、職人への支払いや雇った人数、かかった期間の記録。それに同時代の年代記が「恐ろしい機械」と怯えたように書いてる。そういうところから最大級だと推し量ってるわけ。運ぶのに荷車30台分が要ったって話もよく見るけど、出どころははっきりしないみたいだ
22. 海外の名無しさん
城の床下から、投石機の弾に当たって死んだらしい骨まで見つかってるんだって。もう降伏してたのに、王様がおもちゃで遊びたかったせいで死んだんだとしたら、やりきれないよな
※注:骨が見つかったのは1997年、投石機の弾による傷とする研究が出たのは2026年。1304年の包囲と時期は重なるが、ウォーウルフの弾だったのか、降伏のあとに亡くなったのかは分かっていない。
23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
見せしめの意味もあったんだと思う。中世の攻城戦には、早く降伏すればまっとうな条件で兵も見逃してもらえる、粘ればただでは済まない、という暗黙の了解があったからね。ここまで金と手間をかけさせておいて、使う直前に「やっぱり降参します」じゃ済まないってことだろう
24. 海外の名無しさん
こういう話を読むと、中世の包囲戦がどれだけ過酷だったかがよく分かる。城の中の人たちは生きた心地がしなかっただろうな
25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
いや、壁に石が当たるのなんて、中世の包囲戦の中ではいちばんマシな部類だぞ。食料が尽きるとか病気が広がるとか、そっちのほうがよっぽどきつい
まとめ
スターリング城の守備隊は、ウォーウルフが完成する前に降伏していました。それでもエドワード1世は撃ち込むまで城に入らないと命じ、年代記は投石機の一撃が外壁を「布を射抜いて飛ぶ矢のように」貫いたと書き残しています。ただし「史上最大」に実寸の記録はなく、根拠は人手と費用と恐れられ方からの推定です。コメント欄は「せっかく作ったんだから撃つよな」と面白がる声と、「見せしめだった」「城の床下から出た骨がやりきれない」という声に分かれ、最後はおなじみの投石機ネタで盛り上がっていました。
参考資料
- ヒストリック・エンバイロメント・スコットランド「スターリング城のウォーウルフ」(2024年・英語)
- H・R・ルアード編『フローレス・ヒストリアルム』第3巻(インターネット・アーカイブ所蔵、319ページに外壁を貫いた記述)(1890年・ラテン語)
- ジョゼフ・ベイン編『スコットランド関係文書目録』第2巻(インターネット・アーカイブ所蔵、文書番号1560に降伏後の書状)(1884年・英語)
- ギネス世界記録「最大の木造トレビュシェット」(英語)
元ソース: 今日知った:エドワード1世がスターリング城攻めのために作らせた投石機「ウォーウルフ」は史上最大のトレビュシェットとされ、城壁を「布を射抜く矢のように」貫いたという

コメント