「牛は死ななかったが、数日間『様子がおかしかった』」。1963年4月にアメリカ・イリノイ州を通った竜巻について、当時の気象局が公式の記録に書き残した一文です。その直前には、数頭の牛が空高く運ばれたと伝えられる、とあります。どう様子がおかしかったのかは、どこにも書かれていません。この記録が海外掲示板で紹介されると、コメント欄は、牛の気持ちを想像する人たちでにぎわいました。
※注:出典は、アメリカ商務省の気象局(現在のアメリカ国立気象局)が毎月まとめていた気象災害の記録『ストーム・データ』の1963年4月号です。元スレッドのリンク先も、この号をスキャンしたPDFでした。この記事の事実関係は、その原文と、アメリカ国立気象局や日本の気象庁の資料で確かめられた範囲で書いています。
今日の知ってた?
🌪️ 1963年4月22日の午後5時半ごろ、アメリカ・イリノイ州中部のサンガモン郡とメイコン郡を竜巻が通った。記録に残る被害の道のりは約10マイル(約16キロ)。
🐄 気象局の記録には、数頭の牛が「空高く運ばれたと伝えられる」とあり、続けて「牛は死ななかったが、数日間『様子がおかしかった』」と書かれている。
❓ 牛が何頭だったのか、どのくらいの高さまで上がったのか、どう様子がおかしかったのかは、記録に残っていない。
⚠️ この竜巻では1人が亡くなり、5人がけがをした。亡くなった男性は、家を壊されたあと約200ヤード(約180メートル)飛ばされたとみられている。
📏 アメリカ国立気象局は、この竜巻の強さを「F3」としている。この物差し「Fスケール」を1971年に考案したのは、北九州市出身の気象学者、藤田哲也博士。
背景:竜巻の多い国アメリカと、気象局の記録『ストーム・データ』とは
アメリカは竜巻の多い国です。日本の気象庁の資料によると、アメリカで確認される竜巻は年平均で約1,300個(2004〜2006年の統計)。日本は、海の上だけで終わったものを除いて年に25個ほど(2007〜2015年)で、統計の期間は違いますが、ざっと50倍の開きがあります。なかでもアメリカの中央部は発生が多く、「竜巻街道(トルネード・アレー)」という通称で呼ばれることもあります。
『ストーム・データ』は、そうした竜巻や暴風、ひょう、落雷、洪水などを、気象局が州ごとにまとめた月刊の記録です。1件ごとに、場所、日付、時刻、被害が続いた道のりの長さと幅、死者とけが人の数、被害額の区分、嵐の種類が表に並び、その下に数行の説明が付きます。読み物として書かれたものではなく、細かい字がびっしり詰まった事務的な一覧表です。
牛の話が出てくるのは、1963年4月号(第5巻第4号)のイリノイ州の欄です。この月のイリノイ州には、嵐の種類に「竜巻」と書かれた項目が7つあり、そのうち3つは4月22日の夕方に集中しています。牛が巻き上げられたとされるのは、その3つのうち最初の、午後5時半ごろの竜巻でした。
この竜巻が最初に地上へ降りたのは、サンガモン郡の村イリオポリスです。州都スプリングフィールドの都市圏に含まれる小さな村で、2020年の国勢調査では人口846人でした。竜巻はそこから東へ進み、となりのメイコン郡の都市ディケーターの手前まで達しています。
もう少し詳しく
記録に書かれていること。この竜巻の説明文は、20行ほどあります。それによると、竜巻は地面に降りたり離れたりを繰り返しながら進み、まずイリオポリスの西の端に降りて、東の端でより大きな被害を出しました。被害がいちばんひどかったのは村の東およそ2マイル(約3キロ)のあたりで、農家の住宅2棟が全壊し、ほかの農家や建物にも大きな被害が出ています。被害が続いた道のりは約10マイル(約16キロ)、幅は「狭い」とだけ書かれています。
当日の空模様も書き留められています。イリオポリスでは竜巻の15分ほど前にひょうが降りましたが、竜巻が来たときには雷鳴も稲光もなかったそうです。ごう音が聞こえ、東へ進んでいく漏斗雲(ろうとぐも。雲の底から垂れ下がる、じょうごの形の雲)は写真にも撮られました。ディケーターでは、直径2インチ(約5センチ)に達するひょうが、温室や屋根、車の上に降っています。
牛のくだりは2文だけ。原文を訳すと、こうなります。「漏斗雲がディケーターの西約2マイルで地上を離れる前に、数頭の牛が空高く運ばれたと伝えられる。牛は死ななかったが、数日間『様子がおかしかった』」。牛について書かれているのは、これで全部です。
「伝えられる」とあるとおり、記録を書いた人が自分の目で見たわけではなく、誰かの報告を書き留めた形になっています。誰の牛だったのか、誰が報告したのかは書かれていません。何頭だったのか、どのくらいの高さまで上がったのか、どこに降りたのかも分かりません。
いちばん気になる「どう様子がおかしかったのか」も、記録にはありません。原文では「strangely(おかしなふうに)」の一語だけが、わざわざ引用符でくくられています。報告した人の言葉をそのまま写したようにも読めますが、確かめようがありません。『ストーム・データ』自身も表の末尾で、この種の情報は集めるのが難しく、すべてを網羅したものではないと断っています。
笑い話だけではない記録。同じ説明文の、牛のすぐ前には、人の被害が書かれています。ある男性は、自宅を壊されたあと約200ヤード(約180メートル)にわたって空中を運ばれたとみられ、靴とズボンをはぎ取られていました。男性は数日後に病院で亡くなっています。この竜巻の死者は1人、けが人は5人で、建物などの被害額は5万〜50万ドルの区分に入れられています。
「F3」は、あとから付いた評価。イリノイ州中部を担当するアメリカ国立気象局の事務所は、この竜巻の強さを「F3」としています。Fスケールは、建物や木の壊れ方から風の強さを見積もる物差しで、F0からF5までの6段階があります。日本の気象庁の説明では、F3は秒速70〜92メートル(約5秒間の平均)で、「自動車はもち上げられて飛ばされる」強さにあたります。
この物差しを考案したのが、気象学者の藤田哲也博士です。1920年に現在の北九州市小倉南区で生まれ、1953年にアメリカへ渡ってシカゴ大学で嵐や竜巻の研究を続け、「ミスター・トルネード」と呼ばれました。Fスケールの「F」は、藤田(Fujita)の頭文字です。
ただし、博士がFスケールを考案したのは1971年で、竜巻が起きた1963年にはまだ存在していません。アメリカ海洋大気庁の暴風雨予報センターの解説によると、1978年ごろより前の竜巻の等級は、あとになってから、大学生に委託して当時の新聞記事と突き合わせる方法で付けられました。この竜巻の「F3」も、発生から何年もたって当てはめられた評価ということになります。
1963年の時点で、藤田博士はすでにシカゴ大学にいました。シカゴがあるのは、この竜巻が通ったのと同じイリノイ州です。博士がこの竜巻を調べたかどうかは、今回確かめた範囲では分かりませんでした。
日本でも竜巻は起きる。気象庁によると、日本で確認される竜巻は、先ほどの数字のとおり年に平均25個ほどです。9月と10月にいちばん多く、海岸沿いでよく発生します。F4以上の竜巻は、日本では確認されていません。
気象庁は2016年4月から、Fスケールを日本の建物に合わせて作り直した「日本版改良藤田スケール(JEFスケール)」を使っています。壊れ方を見る対象には、日本でよく見かける自動販売機や墓石も加えられました。アメリカも2007年2月から、改良版の「EFスケール」に切り替えました。どちらの名前にも、藤田の頭文字の「F」が残っています。
浴槽の水が「吸い上げられた」話も。同じ1963年4月号のイリノイ州の欄には、牛の2日前、4月20日の記録もあります。マクヘンリー郡のクリスタルレイクで、新しい鉄骨の飛行機格納庫が壊れ、飛行機4機が被害を受けました。説明文には、屋外に置かれていた水を張った浴槽から、水が「吸い上げられた」と伝えられる、とあります。気象局は、被害の様子から小さな竜巻だった可能性が高いと書いています。
重い物が浮くこと自体は、起こりうるとされています。暴風雨予報センターは、竜巻の中の上昇気流について、屋根や壁、木、車のように風を受ける面が大きい物なら、重くても一時的に浮かせるほど強くなることがある、と説明しています。
人が飛ばされて助かった記録もあります。ギネス世界記録には「竜巻に飛ばされて生還した最長距離」にあたる項目があり、2006年3月12日にアメリカ・ミズーリ州で、当時19歳のマット・スーターさんが398メートル飛ばされて生き延びた例が載っています。距離は、国立気象局の職員がGPSを使って測ったそうです。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
自分が牛だと想像してみてほしい。いつもどおり、のんびり牛らしい一日を過ごしていたら、いきなり空にいる。何をしたせいでこうなったのか、さっぱり分からない。だからしばらくは、空に飛ばされる原因になりそうなことを全部避けるしかない。でも何が原因か分からないから、結局、いつもやっていることを全部やめる。それが「様子がおかしい」の正体だよ。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
ずいぶん内省的な牛だな。でも実際、動物は人間が思っているよりずっといろんなことを分かっていると思う。
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「うわ、何が起きているんだ? ええと、私は誰だ? なぜここにいる? ……おや、ものすごい速さで何かが近づいてくる。大きくて、平たくて、丸い。そうだ、『地面』と呼ぼう。仲良くなれるかな?」
※注:イギリスの作家ダグラス・アダムスのSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』の有名な場面をふまえたコメントです。小説では、惑星の上空に突然現れたマッコウクジラが、落ちていくあいだに自分と世界について考えはじめます。
4. 海外の名無しさん(>>1への返信)
心理学者スキナーのハトの実験を思い出した。ハトが何をしていようと関係なくエサが出てくる装置に入れると、「さっき左回りに回っていたらエサが出た。だから回り続けよう」という具合に、それぞれが謎の儀式を始めるんだ。自分の行動と出来事を、関係がなくても結びつけてしまう。人間も同じだけどね。
※注:アメリカの心理学者B・F・スキナーが1948年に発表した実験のことです。
5. 海外の名無しさん(>>1への返信)
逆の説を出したい。牛たちにとっては、一生でいちばん楽しい体験だった。それで数日間、もう一度飛ぼうとして思いつくかぎりのことを試し、結局あきらめた。はたから見れば、それも「様子がおかしい」になる。
6. 海外の名無しさん
この話なら、ビル・パクストンとドキュメンタリーで見たことがある。すごい映像だったよ。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
ビル・パクストンと並んでドキュメンタリーを見る仲なのか。そっちの話をもっと詳しく聞きたい。
8. 海外の名無しさん(>>6への返信)
「もう切るよ、牛が飛んでる!」
……あっちで飛んでいた牛は、たしか1頭だけだったけどね。
※注:1996年公開のアメリカ映画『ツイスター』のことです(日本でも同じ年に公開)。もちろんドキュメンタリーではなく、竜巻を追いかけて観測する研究者たちを描いた娯楽大作で、主演はヘレン・ハントとビル・パクストン。竜巻に巻き上げられた牛が車の前を横切っていく場面がよく知られていて、8番のセリフもその場面をふまえたものです。
9. 海外の名無しさん
竜巻で空に持ち上げられたら、自分なら数日どころか、残りの人生ずっと様子がおかしいままだと思う。
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
こっちは竜巻に遭ったこともないのに、生まれてこのかたずっと様子がおかしいんだけど。
11. 海外の名無しさん
正直、いちばん不思議なのは「数日で元に戻った」ところだよ。もっとも、翌日から何事もなかったように草を食べていたら、そっちのほうがよほど怖いけど。
12. 海外の名無しさん
牛の「様子がおかしい」って、具体的には何なんだ。バンジョーを弾きはじめた? 月明かりの下で踊っていた? それとも、人間にNFTを買えと勧めてきた?
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
そこをいちばん知りたいのに、記録には何も書いていないんだよな。そもそも「空を飛んだあとの牛の、普通の様子」というのが誰にも分からない。
14. 海外の名無しさん(>>12への返信)
乳をしぼったら、数日のあいだミルクシェイクが出てきたんだと思う。それなら記録にも残る。
15. 海外の名無しさん
牛にしてみれば「またUFOか」だったんだろうな。牛といえばUFOにさらわれるのが昔からのお約束だし、そりゃ心に傷も残るよ。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
農場主「ベッシー、大丈夫か?」
ベッシー「大丈夫とは何でしょう。私たちの誰かが、本当に大丈夫だったことなどあるのでしょうか。私たちは、理解することもかなわないゲームの盤上に置かれた駒にすぎません。風に舞う塵ですらないのです」
農場主「……まあ、元気ならいいんだ」
ベッシー「ところで、今日の草はなかなかおいしいです」
※注:ベッシーは、英語圏で牛によく付けられる定番の名前です。
17. 海外の名無しさん
「数日間、様子がおかしかった」というのは、要するにひどいショックを受けていたんだと思う。人間が同じ目に遭っていたら、誰も「変だ」なんて言わず、心の傷だとすぐに分かるはず。動物にも頭と心がある。人間ほど研究されていないだけで。
18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
あと、単純に体じゅう打ち身だらけだったと思う。脳しんとうを起こしていたかもしれない。嵐に振り回されたら相当痛いはずで、痛ければ様子もおかしくなるよ。
19. 海外の名無しさん(>>17への返信)
人間なら何年もカウンセリングに通うような体験なのに、牛は数日ぼんやりしていただけで「様子がおかしい」と公式記録に書かれる。きびしい世界だ。
20. 海外の名無しさん
会う牛、会う牛に「本当に空を飛んだんだって!」と訴えて、誰にも信じてもらえなかったんだと思う。それでしばらく落ち込んでいたんだよ。
21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
しかも、人間に事情を聞かれても「モー」としか答えられない。当の牛たちの気持ちは、たぶん「モーこりごり」だったと思うけど。
22. 海外の名無しさん
牛はまだ運がよかったほうだよ。同じ記録の牛のすぐ前には、家を壊されて200ヤード(約180メートル)ほど飛ばされたらしい男性が、数日後に病院で亡くなったと書いてある。
23. 海外の名無しさん
1997年5月にテキサス州のジャレルを大きな竜巻が襲ったとき、近くに住んでいた。父は農業関係の公的機関で働いていて、嵐のあと何日も、農家や牧場の人たちと車で回っては、ひどいけがをした牛を楽にしてやる作業を手伝っていた。父はその話を一切しなかったけれど、つらかったのは分かる。もともと獣医を目指して大学で畜産を学んだのに、動物を安楽死させるのは自分には無理だと思って、別の道に進んだ人だったから。
24. 海外の名無しさん
ちゃんとした記事で読みたかったな。リンク先は、細かい字がびっしり並んだ昔の記録のスキャンで、牛にたどり着くまでがひと苦労だった。しかも牛の話は、最後のページの下のほうにやっと出てくる。
25. 海外の名無しさん
いまでも、牛が空を飛ぶことはときどきあるよ。けがをして動けなくなった牛を、ヘリコプターで吊り下げて運ぶんだ。あっちはたぶん、飛ぶ前に鎮静剤を打ってもらっていると思うけど。
まとめ
1963年4月22日、イリノイ州の竜巻で数頭の牛が空高く運ばれたと伝えられ、死なずに数日間「様子がおかしかった」。アメリカの気象局の記録に残る、たった2文の話でした。同じ竜巻では1人が亡くなっていて、笑い話だけの記録ではありません。コメント欄は牛の気持ちを想像する冗談でにぎわい、ショックや痛みのせいだろうという声も続きました。
どうおかしかったのかは、60年以上たった今も分からないままです。その空白が、この一文をいちばん面白くしているのかもしれません。
元ソース: 1963年、イリノイ州で数頭の牛が竜巻によって空中へ運ばれた。牛は生き延びたが、「数日間、様子がおかしかった」

コメント
鼓膜が破れて内耳が吹っ飛んでいたとか。