撮影が終わった夜、打ち上げの席で主演俳優が突然イギリス訛りで話し始めました。スタッフの多くは驚くでもなく、「次の役の準備でも始めたのかな」と受け取ったそうです。彼らは撮影の間ずっと、この俳優をアメリカ人だと思っていました。映画『アメリカン・サイコ』の現場で起きたと語られている話です。
※注:クリスチャン・ベイルは英国ウェールズ生まれの俳優で、地声はイギリス英語です。日本では出演作のほとんどがアメリカ映画なので、アメリカの俳優だと思っている人も少なくありません。
今日の知ってた?
🎬 『アメリカン・サイコ』の撮影期間中、クリスチャン・ベイルはカメラが回っていないときも常にアメリカ訛りで話していたと語られている
🎉 打ち上げで初めて地声のイギリス訛りを聞いたスタッフの多くは、「次の作品の役作りを始めたのだろう」と思った
🇬🇧 つまり彼らは、撮影の全期間を通してベイルをアメリカ人だと信じていたことになる
背景:『アメリカン・サイコ』という映画
1991年に発表されたブレット・イーストン・エリスの同名小説を、メアリー・ハロン監督が映画化した2000年公開の作品です。舞台は1980年代後半のニューヨーク。主人公パトリック・ベイトマンはマンハッタンに住む若手の投資銀行員で、完璧に整えた身なりと中身のない会話の裏に、まったく別の顔を持っています。
同僚同士が名刺の紙の質感と書体を真顔で比べ合い、一枚ごとに顔色を変えていくシーンは、公開から四半世紀が経った今もインターネット上で引用され続けています。日本でも「名刺のシーンの映画」として通じるくらいには知られた一本です。
そのベイトマンを演じたのが、当時20代半ばだったクリスチャン・ベイル。13歳のときに出演した『太陽の帝国』で注目された英国出身の俳優で、この頃はまだ大作の看板を背負う存在ではありませんでした。役柄はニューヨークの金融マン、つまり訛りは完全なアメリカ英語です。
もう少し詳しく
訛りは「出し入れ」しないほうが安定する。この話がとりわけ変わった行為として語られがちなのですが、俳優からすると理屈は分かりやすいようです。カットがかかるたびに地の喋り方へ戻していると、そのたびに作り込んだ母音の位置や抑揚の型が崩れ、次のテイクで元に戻すまでに時間がかかる。だったら朝から晩まで同じ声でいたほうが、口から出てくる音を自分で予測できる——現場の俳優からはそういう説明がよく出てきます。撮影が何週間も続く映画では、この差が積み重なります。
いわゆる「メソッド演技」とは少し違う。この逸話はしばしば徹底した役作りの例として紹介されますが、内容としては「発声を一定に保っていた」だけで、ベイトマンという人格のまま生活していたという話ではありません。海外のコメント欄でも、そこを丁寧に区別している人が何人もいました。
※注:メソッド演技とは、役の感情や生活を自分の内側に取り込んで演じる手法の総称です。撮影期間中ずっと役の人格で過ごす、役名でしか呼ばせない、といった徹底ぶりが話題になることがあります。訛りを維持し続けるのは、そこまで行かない発声の習慣づけに近いものです。
ベイトマンの声には下敷きがあったと語られている。あの不気味なほど愛想のいい喋り方は、ある実在の俳優がテレビ番組で見せていた「異様に人当たりがいいのに目の奥が空っぽ」な雰囲気を参考にしたと伝えられています。役の性格に合わせて声そのものを設計していたのだとすれば、それを一日中維持していたというのも筋が通ります。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
これ、実はそんなに珍しい話じゃないんだよね。撮影の合間に訛りを出したり引っ込めたりするより、ずっと同じ訛りで喋り続けたほうが楽だという俳優は結構いる。切り替えのコストのほうが高いということなんだと思う。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
わかる。母語に戻すたびに、直前まで作り込んでいたイントネーションの型が崩れるんだよ。いろんな訛りを演じ続けた結果、自分の地元の訛りが戻らなくなって発音コーチをつけた俳優の話も聞いたことがある。
3. 海外の名無しさん
授賞式で初めて彼の地声を聞いたときは本当に驚いた。ヒュー・ローリーのときも同じ反応をした。二人とも、それだけ仕事が巧いということなんだろうね。
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
ヒュー・ローリーをアメリカ人だと思っていた人の話、毎回笑ってしまう。英国のコメディ番組 Blackadder を一本観れば、これ以上ないほど英国人だと分かるのに。
5. 海外の名無しさん
昔から不思議なんだけど、英国の俳優は文句のつけようがないアメリカ訛りを出せるのに、その逆はあまりうまくいかないよね。子どものころ『Dr.HOUSE』を観ていて、ヒュー・ローリーが英国人だと知ったときは頭が真っ白になった。
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
単純に接している量の差だと思う。こっちは君たちの大作ドラマも映画も、作られたそのままの形で観ている。逆に君たちはうちの作品を輸入するんじゃなくて、自国向けに作り直すでしょ。
7. 海外の名無しさん(>>5への返信)
英語圏の訛りの「解像度」の違いもある気がする。英国の訛りは地域ごとの線がくっきりしていて、英国人の耳には混ぜてはいけない組み合わせがはっきり分かる。アメリカ人が英国訛りをやると、そこを無自覚に混ぜてしまって全体がおかしくなる。
8. 海外の名無しさん
よし、では次はポール・アレンの訛りを聞かせてもらおうか。たぶん彼のほうが訛りも上等な仕上がりだろうしな。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
この微妙に外した抑揚。品のある息づかい。ああ、なんということだ……レガートまで効いている(※劇中で名刺を見せ合うあのシーンの口調で)
10. 海外の名無しさん
この人の役への入り込み方は本当に機械みたいだ。ベイトマンの喋り方は、トム・クルーズが画面で見せる「やたら愛想はいいのに目の奥が空っぽ」な感じを下敷きにしたと言われている。役柄にぴったりで、スタッフが最後までアメリカ人だと信じていたのも無理はない。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
あの有名なレインコートのくだりに関しては、個人的にはむしろジム・キャリーっぽさを感じる。鏡の前で自分の顔を確認するところとか、完全に振り切っているよね。
12. 海外の名無しさん
『THE WIRE』のマクナルティ役、潜入捜査で英国訛りを使うシーンがあるんだけど、あれが下手すぎて当時さんざんネタにされていた。ちなみに演じているドミニク・ウェストは英国人。英国人が「英国訛りを真似しようとして失敗するアメリカ人」を演じている入れ子構造で、事情を知ると余計に笑える。
13. 海外の名無しさん
え、クリスチャン・ベイルって英国の人なの? もう二十年くらい、普通にアメリカの俳優だと思って観ていたんだけど。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
映画はかなり観るほうだけど、それでも毎回忘れる。知識としては知っているのに、スクリーンに出てきた瞬間に上書きされるんだよね。それだけ巧いということなんだと思う。
15. 海外の名無しさん
同じ経験をイドリス・エルバでもした。『THE WIRE』を観ている間ずっとボルチモア育ちだと思い込んでいて、後から英国のドラマに主演しているのを観て固まった。
16. 海外の名無しさん
自分は逆のパターンで、ベイルをアメリカ人だと信じきっていたから『プレステージ』を観て「この人、英国訛りが下手だな」と本気で思っていた。あとで出身を知って、一人で赤面した。
17. 海外の名無しさん
メソッド演技全般には正直うんざりしているんだけど、訛りに関しては理にかなっていると思う。上手くなりたいなら常に練習するべきで、思い出したときだけやる趣味レベルの練習では身につかない。
18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
厳密に言えばこれはメソッド演技ではないよ。メソッドなら撮影期間中ずっとベイトマンという人格でいるということになる。彼がやっていたのは発声を常にその形に固定していただけで、性格までなりきっていたわけじゃない。
19. 海外の名無しさん
舞台の人間として言わせてもらうと、これは本当に効く。没入型の芝居をよくやるんだけど、袖に引っ込むたびに地の喋り方へ戻していると、次に出ていくときに調子を取り戻すまで時間がかかる。ずっと同じ声でいれば、自分の口から何が出てくるか予測がつく。
20. 海外の名無しさん
感心する一方で、周りは大変だろうなとも思う。何ヶ月も一緒に働いていて、相手の素の話し方を一度も聞かないわけでしょ。俳優個人の準備のために、現場全体がその設定に付き合わされている面はある。
21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
それでも訛りを保つだけなら実害はかなり小さいほうだと思う。役名でしか呼ばせない人とか、関係性を作るために共演者へ本気で嫌がらせをする人と比べたら、これはただ丁寧に準備をしているだけだよ。
22. 海外の名無しさん
似たようなことが『メリー・ポピンズ』のディック・ヴァン・ダイクにも起きたと聞いたぞ。あの完璧なロンドンの下町訛りのせいで、周りは全員彼を生粋のコックニーだと信じていたらしい。
23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
完璧(笑)。あの訛りは英国では今も「史上最悪のコックニー」としてネタにされ続けている方だよ。手本どころか、やってはいけない例の代表格。
24. 海外の名無しさん
トム・ホランドが英国の人だと何年も気づかなかった。しかもまったく同じ勘違いをアンドリュー・ガーフィールドでも繰り返していて、自分の学習能力のなさに笑ってしまった。
25. 海外の名無しさん
宣伝のインタビューも、そのとき公開する作品と同じ訛りで受けていたらしい。観る側を混乱させないためだとか。そこまで徹底していたなら、うっかり地声が出た打ち上げのほうがむしろ事故だったのかもしれない。
まとめ
役作りの逸話は数え切れないほどありますが、この話がここまで愛されているのは、主役本人ではなく「騙されていた側」の反応が面白いからだと思います。打ち上げで突然イギリス訛りになった主演を見ても、スタッフは驚くどころか「次の役の準備か」と納得してしまった。コメント欄も、感心する声と「周りは大変だっただろう」という声、そして「そもそも自分もずっとアメリカ人だと思っていた」という告白が入り混じり、最後は各国の訛り談義へと流れていきました。

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