映画『スパイダーマン』(2002年)でピーター・パーカーを演じたトビー・マグワイアは、閉所恐怖症であることを製作側に伝えないまま、頭から足先まで覆う全身スーツのヒーロー役を引き受けていました。それが分かったのは、スーツを作るために全身の型を取っていたときです。石膏で体を固められた彼は、途中で意識が遠のきはじめました。2013年、スーツの下の「筋肉」を作った特殊効果工房の職人が明かした話です。
今日の知ってた?
🕷️ 映画『スパイダーマン』(2002年、サム・ライミ監督)で主演したトビー・マグワイアは、自分が閉所恐怖症であることを製作側に伝えていなかった。
🩹 スーツを作るため、石膏を含ませた包帯で全身を固めて型を取っている最中に意識が遠のきはじめた。職人たちが彼を床に下ろし、殻を開いて外の空気を吸わせた。本人がまだ製作側に話していなかったため、工房が代わりにプロデューサーへ知らせた。
🧵 マグワイアはその後、最初期の試作スーツを1着持ち帰り、スーツを着たまま演技ができるよう、時間をかけて体と心を慣らしていった。
📝 出どころは、スーツの筋肉部分を作った工房スタジオADIのトム・ウッドラフ・ジュニアが、2013年にアメコミ映画のニュースサイトComicBookMovie.comの問い合わせに答えて寄せた文章。
背景:スーツは主役が決まる前から作られていた
『スパイダーマン』の衣装を任されたのは、『ラストエンペラー』『危険な関係』などでアカデミー賞を3度受けた衣装デザイナーのジェームズ・アチソンです。スーツは作るのに手間がかかるため、アチソンたちはライミ監督が主役を決める前から作業を始めていました。米映画サイトCinemaBlendの編集長ショーン・オコネルが、スパイダーマン映画の歴史をまとめた著書『With Great Power』のために行った取材によると、どんな体格の俳優が来るのか分からないまま作業を続けることに耐えかねたアチソンは、ある日の午後、体つきもさまざまな20人の男性を水着姿で会議室に並べ、ライミ監督に選んでくれと迫りました。「あんなにばつの悪そうな監督は見たことがない」。監督が指さしたのは、身長188センチほどの、がっしりした男性でした。ところが、実際に主役に選ばれたのはトビー・マグワイアでした。
アチソンと組んで、スーツの下に着る「筋肉」を作ったのが、ロサンゼルスのチャッツワースにある特殊効果工房スタジオADIです。ウッドラフによれば、工房は早い段階から加わり、マグワイア本人だけでなく、同じ見た目にそろえなければならない何人ものスタントマンにも使える仕組みを数か月かけて考えました。目指したのは、重量挙げの選手ではなく競泳選手のような、しなやかで力強い体つき。スパンデックス(伸縮性の高い化学繊維)の覆面は、顔に貼りつくだけでなくヒーローらしい形を保ち、しかも中の俳優が息をしたり話したりできなければなりません。目のレンズは何通りも試作し、浮き出したクモの巣模様や胸のクモのマークも工房で詰めていきました。
筋肉は、本物の解剖図から少し離れて、ひとつひとつを独立させ、縁に向かってなだらかに薄くし、隣の筋肉とのあいだにすき間を残す作りにしました。型取りで作ったマグワイアの体のグラスファイバー製の複製に専用の伸縮ボディスーツをかぶせ、その上に、特殊メイクと同じ発泡ラテックスをやや硬めにして流し込んでいます。上に着るスパンデックスはしわが出ないよう強く引き伸ばしたので、下の筋肉の色が透けてしまい、筋肉スーツのほうも青と赤に塗り分けることになりました。動き回ると覆面の内側に湿気がこもってレンズが曇るため、最後は強力な磁石でレンズを留め、撮影の合間に覆面を脱がなくても外せるようにしています。アクションが多く、撮影では完成したスーツをおよそ60着使い切りました。工房は1年近く、この仕事にかかりきりだったそうです。
マグワイアが初めて工房を訪れたのは、このスーツのために全身と頭、両手の型を取るためでした。本人は2002年5月、英BBCのインタビューで「体の型取りとコンピューターによるスキャンをして、全身を石膏で覆われた。体の部分ごとに何時間もかかった」と振り返っています。はがすときには体毛がごっそり抜けて「本当に痛かった」。それでも、スーツ姿で撮影現場に入るとみんなが二度見して「スパイダーマン」と呼んでくれたので、やった甲斐はあったといいます。体づくりも大がかりで、5か月にわたって週6日、1日最大4時間、ヨガや体操、ウエイトトレーニング、格闘技を続け、栄養士について食事も細かく決めていました。
もう少し詳しく
「ささいな個人的事情」。型取りの日の出来事を、ウッドラフは皮肉まじりにこう書いています。「トビーは驚くほどプロ意識の高い男で、閉所恐怖症だなんていう、ささいな個人的事情で私たちを煩わせたくなかったのだ」。全身を覆われて身動きを奪われるのを嫌がる俳優は珍しくなく、工房ではそうした俳優の型も何度も取ってきたそうです。ところがマグワイアは何も言わずに耐え続け、引き返せないところまで来て、石膏の殻の中で意識が遠のきはじめました。職人たちはすぐに彼を床に下ろし、殻を開いて外の空気を吸わせています。製作側にはまだ話していないと本人が打ち明けたので、工房が代わりにプロデューサーへ「スパイダーマン役の男は、撮影のほとんどを全身スーツと覆面で過ごすはずだが、あまりスーツを着てくれないかもしれない」と伝えました。なお、元の投稿は「気を失いかけた」としていますが、ウッドラフの文章は「意識が遠のきはじめた」までで、完全に気を失ったのかどうかは書かれていません。
試作スーツを持ち帰って。ウッドラフはこう続けます。「彼の名誉のために言えば、トビーは最初期の試作スーツを1着持ち帰り、スーツを着て演技ができるよう、体と心を慣らす長い取り組みを始めた」。何日、どのように練習したのかまでは書かれていません。工房のYouTubeチャンネルには、ごく初期にマグワイアとスタントマンが並んでスーツを試した映像があり、窮屈な覆面が外れた瞬間、彼の顔にほっとした表情が浮かぶそうです。まだ閉所恐怖症と付き合いはじめたばかりのころだった、とウッドラフは説明しています。一方で、マグワイア本人が閉所恐怖症について語った発言は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。先のBBCのインタビューでも、型取りについては「痛かった」と話しているだけです。
逆さまのキスでも、息ができなかった。同じBBCのインタビューで、いちばん好きな場面を聞かれたマグワイアが挙げたのは、雨の中で逆さまにぶら下がったスパイダーマンの覆面を、キルステン・ダンスト演じるメリー・ジェーンが口元までめくってキスをする場面でした。ただ、撮影はきつかったそうです。降り注ぐ水が鼻に流れ込んで息ができず、口はキスでふさがっている。仕方なく息を止め、口の端からこっそり少しずつ息をしたと話しています(「それでもよかったけどね!」とも)。アチソンもオコネルの取材で「撮影が始まるまで、スパイダーマンに口が無いことに気づいていなかったんじゃないか」と語っています。顔も口も覆われたヒーローを演じるのは、閉所恐怖症でなくても楽ではありません。
閉所恐怖症と「慣らす」こと。英国の国民保健サービス(NHS)は、閉所恐怖症を「閉ざされた空間に対する不合理な恐怖」と説明しています。症状には、汗や震え、息切れ、窒息しそうな感覚、めまい、気が遠くなる感じなどがあり、重い場合は自分を抑えられなくなることや、気を失うことへの恐怖も加わります。エレベーターやトンネル、地下鉄、飛行機などがきっかけになりやすく、MRI検査を受ける人には、前もって病院に伝えておくよう勧めています。治療としては、認知行動療法や、怖い状況に少しずつ身を置いて慣らしていく「暴露療法」が挙げられています。マグワイアが治療のつもりだったと語っているわけではありませんが、スーツを持ち帰って少しずつ慣らしたやり方は、この考え方に近いものだったといえそうです。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
役のためなら、俳優ってここまでやるんだな。閉所恐怖症なのに、頭から足まで覆われるヒーローを引き受けるなんて。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
あれだけのギャラが出るなら、俺だって怖いのくらい我慢するよ。公開の時点で、続編2本の出演契約まで済んでたんだし。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
俺がいちばん怖いのは「お金を稼ぎすぎること」かな。まだ一度も向き合わせてもらったことはないけど。
4. 海外の名無しさん(>>2への返信)
悪いけど、お金じゃどうにもならない怖さってあるよ。1,000万ドルやるからスカイダイビングしろ、生きて帰れるのは100%保証する、と言われても俺は無理。3メートルくらいの脚立に上って雨どいを掃除するだけでも、毎回気合いを入れ直してるくらいなんだから。
5. 海外の名無しさん(>>1への返信)
人生が変わる役なら、まず引き受けて、壁はあとで考える。そういう種類の話だと思う。この役を断る理由なんて、普通は探さないよ。
6. 海外の名無しさん
誰だって多少は閉所が苦手なものだと思う。高いところと同じで、怖いか怖くないかの二択じゃない。石膏で全身をぎちぎちに固められたら、たいていの人は落ち着かないし、心細くなるはず。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
「高所恐怖症」って呼び方が嫌いなんだよな。こっちは落ちて死にたくないだけだっての。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
恐怖症っていうのは、落ちる危険がまったく無いと分かっていても同じように怖くなる場合のことだよ。重い人だと、ホテルの高い階で部屋の反対側にいるのに、誰かがブラインドを開けただけで体が反応する。
9. 海外の名無しさん(>>6への返信)
ヴィジョン役のポール・ベタニーも、あのスーツを着ると「ものすごく閉所恐怖症っぽくなる」って話してたね。撮影中に一度だけ限界が来て「誰か脱がせてくれ」と頼んで、5分か10分、座ってひたすら呼吸してから現場に戻ったらしい。
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
『グリンチ』のジム・キャリーなんて、特殊メイクがつらすぎて降板しかけたんだよ。それで、CIAの職員に拷問への耐え方を教えていた人を呼んでもらって、耐えるコツを習ったんだって。
11. 海外の名無しさん
マイケル・キートンも閉所恐怖症で、初めてバットマンのスーツに閉じ込められたときは「こんなの絶対に無理だ」と思ったんだって。結局、その中で孤立する感じをブルース・ウェインの役作りに使ったらしい。
12. 海外の名無しさん
頭の型を取るときって、石膏で覆われた真っ暗な中で、鼻に差したストローだけで息をするんでしょ。正直、楽しそうには聞こえない。
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
普段は閉所なんてまったく平気なんだけど、アートの企画で頭全体の型を取ってもらったことがある。ラップで包まれて、その上から石膏。何も見えなくて、息は鼻の2本のストローだけ。固まって切り開けるようになるまで、じっと座ってた。息はちゃんとできてたし、周りには助けてくれる人もいたのに、頭の中の動物みたいな部分が、暗さと圧迫感と動けなさで暴れだしそうだった。全部むしり取って部屋から逃げ出さないようにするので精いっぱいだったよ。
14. 海外の名無しさん(>>12への返信)
あれは周りの人をよっぽど信用してないとできない。というか、俳優の仕事って全体がそうだよね。監督の構想も、脚本も、共演者も、安全担当がテイクの合間にサボってないことも、信じるしかない。
15. 海外の名無しさん
分かる。私はMRIのほうが型取りよりきつかった。パニックがひどくて息ができなくなって、途中で止めてもらった。ただの居心地の悪さじゃなくて、もっと原始的な恐怖なんだよね。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
閉所が苦手なら、MRIの予約日より前に病院へ伝えておくといいよ。イギリスの国民保健サービス(NHS)もそう勧めてる。前もって分かっていれば、向こうも準備してくれるから。
17. 海外の名無しさん
「慣れるまでやれ」を地で行って、暴露療法を最短で攻略しようとしたら、気を失いかけたってわけか。
18. 海外の名無しさん
「トビーが倒れた! 誰かプロデューサー呼んで!」って場面を想像すると、ちょっと笑ってしまう。本人の代わりに工房が報告するっていうのがまたいい。
19. 海外の名無しさん
そういえば騎手の役をやったときも、片目が見えないことを周りに黙ってたよな。この人、昔からそういうところがあるんだよ。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
それ映画『シービスケット』で演じた騎手の話でしょ(笑)。役と本人がごっちゃになってるよ。
21. 海外の名無しさん
ほんの小さな部分にどれだけ考えが詰まってるのか、驚くよ。「筋肉ひとつひとつが縁に向かってなだらかに薄くなって、隣の筋肉とのあいだにすき間ができる」なんて、普通の観客は一度も考えないでしょ。
22. 海外の名無しさん
顔が見えない場面は、てっきり全部スタントマンが中に入ってるんだと思ってた。
23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
混ざってると思うよ。特に危なくもないし、アクロバットでもない場面なら、本人が入らない理由はないし。
24. 海外の名無しさん
こういう話にはいつも感心できない。「お金をもらってる俳優が、仕事に真剣に取り組んだなんて信じられる?」って言われても、信じられるよ。たいていの仕事はそういうものだし。
25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
俳優を楽な仕事だと思ってる人が多いけど、芸で食べてる人はずっと昔から体を張ってきたんだよ。バレリーナは足をボロボロにするし、スポーツ選手は打撲も脳しんとうも骨折もある。ライブの舞台に立つ人だって、毎晩汗だくで出し尽くしてる。
まとめ
トビー・マグワイアは閉所恐怖症を製作側に伝えないまま全身スーツの主役を引き受け、型取りの最中に意識が遠のきはじめました。工房が代わりにプロデューサーへ知らせ、本人は試作スーツを持ち帰って慣らしていったと、工房の職人が明かしています。
コメント欄には、ほかの俳優がスーツや特殊メイクに耐えた話や、型取り・MRIでの恐怖体験が集まり、「人生が変わる役なら、まず引き受けて壁はあとで考える」という声にうなずく人が目立ちました。

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