「100%化学物質ゼロの製品を作れたら100万ポンド」英国王立化学会の太っ腹な懸賞に、受け取れる人がまず現れない理由とは?

「100%化学物質ゼロの製品を作れたら100万ポンド」英国王立化学会の太っ腹な懸賞に、受け取れる人がまず現れない理由とは? 自然・科学

「化学物質不使用」「ケミカルフリー」。いかにも体にやさしそうなこの売り文句に、正面から待ったをかけた団体がある。イギリスの化学者たちでつくる英国王立化学会(RSC)だ。「100%化学物質ゼロの製品を最初に作った人には、100万ポンドを出す」。ずいぶん気前のいい懸賞に見えるが、受け取れる人はまず現れないとわかったうえで出された賞金なのである。

※注:英国王立化学会(Royal Society of Chemistry、略称RSC)は、イギリスの化学者や化学の研究者でつくる学会・専門団体。

今日の知ってた?

🧪 英国王立化学会(RSC)は、同会が「100%化学物質を含まない(ケミカルフリー)」と認める製品を最初に作った人に、100万ポンド(日本円でざっと2億円前後)の賞金を出すと呼びかけた。ところが、水も空気も、私たちの体も化学物質でできている以上、この賞金を受け取れる人はまず現れない。

背景:「ケミカルフリー」とは

英語圏では、洗剤や化粧品、食品などの広告で「chemical-free(化学物質不使用)」という言葉がよく使われる。人工的なもの、体に悪そうなものは入っていません、という安心感を売りにした表現だ。イギリスの化粧品・トイレタリー業界の調査では、女性の52%、男性の37%が「ケミカルフリー」の商品を進んで探していると答えており、売る側にとってはつい使いたくなる言葉なのだろう。

ところが化学の立場から見ると、この言葉はそもそも成り立たない。化学でいう「化学物質」とは、特定の原子や分子でできた、決まった組成をもつ物質のことだ。水は酸素原子1つと水素原子2つが結びついたH2Oという化学物質で、空気は窒素や酸素などの化学物質が混ざり合ったもの。果物に含まれるビタミンCも、工場で作られたビタミンCも、分子としてはまったく同じ化学物質である。天然か人工か、安全か危険かは、「化学物質かどうか」とは別の話なのだ。

RSCがこの賞金を用意したのは、「ケミカルフリー」という主張がいかに無理のあるものかを、広く知ってもらうためだ。賞金そのものよりも、「なぜ誰にも受け取れないのか」を考えてもらうことに意味がある、いわば化学者流の注意喚起だ。

もう少し詳しく

きっかけは、肥料の広告だった。RSCがこの懸賞を最初に打ち出したのは2008年10月30日。イギリスの広告基準局(ASA、日本のJAROにあたる機関)が、「天然のものには化学物質が入っていない」という誤解を広める広告を問題なしとしたことに、異を唱える形だった。同じ年に日本のGIGAZINEが伝えたところでは、問題の広告は有機肥料「ミラクル・グロ」のテレビCMで、「100%ケミカルフリー」というナレーションに視聴者から苦情が出たものの、ASAは「常識的には、原料がすべて人工物ではないという意味に受け取られる」として退けた。RSCの発表も、「100%ケミカルフリー」をうたう人気の有機肥料の袋の裏に、「化学物質ではない」成分として五酸化二リンや酸化カリウムが並んでいると皮肉っている。RSCの幹部ネビル・リード博士は「私が100%化学物質を含まないと認める物を、最初にこの手に乗せてくれた人に100万ポンドを差し上げる」と述べたうえで、「もしそんな人が現れたら、何千年分の知識が目の前で消えてなくなる。教科書を破り、学位証書を燃やし、先生たちを一から教育し直さなければならない」と続けた。GIGAZINE は当時のレートで、賞金を「約1億4千万円」と紹介している。

2010年にあらためて。RSCは2010年2月23日、同じ懸賞をもう一度発表した。場所は、イギリスの化粧品・トイレタリー・香料協会(CTPA)がロンドンで開いた「化学物質についての事実」というメディア向けの催しで、前述の女性52%・男性37%という数字はこのとき示された業界の調査だ。同じ催しでは、消費者の84%が、日用品に含まれる化学物質の健康への影響を多少なりとも心配しているという数字も紹介された。RSCの最高責任者リチャード・パイク博士は「『ケミカルフリー』が、できるうえに望ましいことのように売られていれば、化学物質の安全性に不安を抱く人がいるのも無理はない」と話し、「私がケミカルフリーだと認める物を、この手に乗せてみせてほしい」と呼びかけた。コメント欄で引用されている告知の文面はこのときのもので、RSCのサイトのこの記事には「2011年9月2日更新」と記されている。

身の回りに「化学物質ゼロ」の物はない。私たちの体も、水やタンパク質、脂肪といった化学物質のかたまりだ。商品を入れる紙箱もプラスチックの容器も、ガラス瓶(主成分は二酸化ケイ素)も、すべて化学物質でできている。「何も含まない製品」を作ろうとしても、製品である以上、何かしらの物質でできていなければならない。

定番のツッコミは「じゃあ真空なら?」。物質が何もない真空を持ってくればいい、と考える人は多い。しかし賞金の対象はあくまで「製品」だ。真空そのものは手に取れる製品ではないし、真空を保つための容器や装置は化学物質でできている。そもそも宇宙空間ですら完全な真空ではなく、星と星のあいだにも、ごくわずかながら原子や分子が漂っている。

水を「危険物質」に見せるジョーク。英語圏には、水を化学名ふうに「一酸化二水素(dihydrogen monoxide、略してDHMO)」と呼び、「吸い込むと命を落とすことがある」などと、いかにも危険な化学物質のように紹介するジョークが昔からある。書いてあることは水についての事実なのに、化学物質っぽい名前になった途端に怖く聞こえる。「ケミカルフリー」が売り文句として効いてしまう理由を、裏返しに見せたようなネタだ。

日本の「ノンケミカル」も意味は限定的。日本でも化粧品などで「無添加」「ノンケミカル」といった表示を見かける。たとえば日焼け止めの「ノンケミカル」は、紫外線吸収剤を使っていないという意味で使われることが多く、化学物質がまったく入っていないという意味ではない。食品については、消費者庁が2022年3月に「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を定めている。食品添加物には化学的に合成したものも天然のものもあり、どちらも使用が認められていると説明したうえで、「人工甘味料不使用」のように「人工」「合成」「化学」「天然」といった言葉を「不使用」「無添加」と組み合わせた表示や、何を加えていないのかが分からない、ただの「無添加」の表示は、実際より優れた商品だと誤解させるおそれがあるとした。おなじみの「化学調味料」という言葉も、かつてJAS規格で使われていたものの1989年(平成元年)に削られ、いまの食品表示基準では使われたことがないと書かれている。事業者には、2024年3月末までに表示を見直すよう求めた。「何を使っていないのか」を確かめないと、言葉の印象だけが一人歩きしやすいのは、どこの国も同じのようだ。

海外の反応

1. 海外の名無しさん
職場で「化学物質を流しに捨てるな」と注意されたので、言われたとおり水道を止めておいた。水だって化学物質だからな。

2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
なんてことをしてくれたんだ。水が流れていたおかげで、空気が排水口に流れ込まずに済んでたのに。これじゃ今度は空気という化学物質を流しに捨て放題じゃないか。

3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
うちの職場の冷蔵庫には「化学物質の保管禁止」って貼り紙がある。おかげで昼に食べるサンドイッチをどこに置けばいいのか、いまだに答えが出ていない。

4. 海外の名無しさん(>>1への返信)
こういう屁理屈遊びは大好きだけど、大事な問題も含んでると思う。ふだんみんなが言う「化学物質」を正確に言い換える言葉がないんだよ。いちばん近いのは「料理にはふつう使わないもの」くらいだけど、それを一語で言える単語があってもいいよな。

5. 海外の名無しさん
じゃあ完全な真空を作れば100万ポンドもらえるってこと? 何も入ってないんだから、化学物質だってゼロでしょ。

6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
告知の文面は「『ケミカルフリー』という主張がいかに不可能かを知ってもらうため、私が化学物質ゼロだと認める物質を、この手に乗せてみせてほしい」だってさ。手に乗せられる物じゃないとダメらしい。

7. 海外の名無しさん(>>5への返信)
完全な真空は製品じゃないからね。真空を作る装置なら製品だけど、その装置は金属やプラスチック、つまり化学物質でできてる。そもそも宇宙空間ですら、ごくわずかに原子が漂っていて完全な真空じゃないし。

8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
化学の世界だと「product」は、化学反応でできた物質、つまり「生成物」の意味でも使うんだよね。RSCがそこまで狙って言葉を選んだのかは知らないけど、真空は物理の話で、化学反応でできるものじゃないしね。

9. 海外の名無しさん
だったら、原子でできていない物質ならいけるんじゃない? 正体不明の暗黒物質(ダークマター)とかさ。

10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
それを手のひらに乗せられたら、100万ポンドより先にノーベル賞が来ると思う。暗黒物質はふつうの物質とほとんど反応せず、体もすり抜けていくと考えられてるんだから、乗せようがないよ。

11. 海外の名無しさん
RSCはこの賞金に1ペニーも払わないまま、世界中で記事にしてもらってる。史上いちばん安上がりな100万ポンドの宣伝だよ。

12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
でも、あれって宣伝なのかな。自分たちの団体を売り込むというより、「ケミカルフリー」をうたう商品のバカバカしさを世間に知らせる、公共広告みたいなものに見える。

13. 海外の名無しさん(>>11への返信)
しかも告知ページの最後を見たら、更新日が2011年になってて笑った。十何年も前の懸賞がいまだにこうして話題になってるんだから、費用対効果はとんでもないね。

14. 海外の名無しさん
スレタイだけだと伝わりにくいから補足。「ケミカルフリー」と書かれた商品は好まれる、という市場調査の結果がある。その売り文句がデタラメだと知ってもらうために、学会が誰にも受け取れない賞金を出した、というのが本当のところ。

15. 海外の名無しさん
そもそも「化学物質」の定義って何なの? 言い方次第で、なんでも当てはまっちゃいそうなんだけど。

16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
調べたら「決まった組成をもち、特定の原子や分子でできている物質」だって。つまり身の回りの物はほぼ全部化学物質でできてるし、俺たちの体も化学物質の寄せ集めってことになる。

17. 海外の名無しさん
何か案を出そうと思ったけど、一酸化二水素の恐ろしさを思い出してやめた。これまで数えきれない人の命を奪ってきた物質なのに、「誰にでも手に入れる権利がある」と言い張る人たちまでいるんだから。

18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
知らない人のために言っておくと、一酸化二水素は水のことね。でも「一酸化二水素」なんて名前を聞かされたら、それだけで体に悪そうに思えてくるから不思議だよ。

19. 海外の名無しさん
簡単な話だよ。水から水分を抜いた「乾燥水」を売ればいい。化学物質はひとつも残らないし、持ち運びも軽くて便利だ。

20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
天才か、と思ったけど、その乾燥水を詰めて売る瓶がガラス、つまり二酸化ケイ素が主成分の化学物質なんだよな。パッケージの時点で失格だ。

21. 海外の名無しさん
ドラッグストアで「ケミカルフリー」と書かれたシャンプーを見かけるたびに、つい裏の成分表を確かめてしまう。だいたい長ったらしい化学名がずらっと並んでるんだよ。

22. 海外の名無しさん
「天然=安全」「化学物質=危険」というイメージが、そもそもおかしいんだよな。毒キノコだってフグの毒だって、100%天然なんだから。

23. 海外の名無しさん
言いたいことはわかるけど、化学の先生が好きな屁理屈に聞こえる。広告の「ケミカルフリー」が「合成の怪しい成分は入れてません」って意味なのは、みんなわかってるでしょ。

24. 海外の名無しさん(>>23への返信)
まさにそこがポイントなんだと思う。「怪しい成分」が具体的に何なのかは誰も説明しないまま、「化学物質は悪いもの」というイメージだけで商品が売れてしまう。RSCが突っついてるのはそこだよ。

25. 海外の名無しさん
学生のころにこの話を聞きたかった。水も空気も自分の体も化学物質だと最初に教わっていたら、化学って科目をもっと身近に感じられた気がする。

まとめ

水も空気も体も化学物質でできている以上、英国王立化学会の「100万ポンド」は誰にも受け取れない。広告でおなじみの「ケミカルフリー」の無理を、懸賞というかたちで突きつけた格好だ。コメント欄は「真空なら?」「乾燥させた水は?」と抜け道探しの大喜利で盛り上がる一方、ふだんの意味での「化学物質」を言い換える言葉がないことこそ問題だ、という声も出ていた。

参考資料

元ソース: 英国王立化学会(RSC)は、同会が100%化学物質を含まないと認める製品を最初に作った人に、100万ポンド(135万3000ドル)の賞金を出すとしている

コメント

  1. Reddit名無しさん より:

    前近代のものって殆どケミカルフリーだろ。

  2. Reddit名無しさん より:

    現実にあるものを定義付けるのが科学なのに対し
    定義されたものはケミカルだから駄目だというのは因果関係が真逆で非科学的な団体に思える