「機長と乗務員を代表して、ご搭乗ありがとうございます」その声の主が国王だった便が、月に2回飛んでいる国

「機長と乗務員を代表して、ご搭乗ありがとうございます」その声の主が国王だった便が、月に2回飛んでいる国 人物・偉人

機内アナウンスを最後まで聞いている人は、たぶんそんなに多くない。「機長と乗務員を代表して、ご搭乗ありがとうございます」——あの決まり文句が流れているあいだ、乗客の大半は荷物を棚に押し込んだり、シートベルトの金具を探したりしている。オランダには、その声の主が国王だった便が、30年近く前から月に2回ほど飛んでいる。

※注:副操縦士は、機長の隣の席に座って操縦を分担する乗員のこと。旅客機は機長と副操縦士の2人で飛ばすのが基本で、どちらが離着陸を担当するかは便ごとに分ける。

今日の知ってた?

✈️ オランダ国王ウィレム=アレクサンダーは、1990年代半ばからKLMオランダ航空の旅客便に、副操縦士として乗務し続けている。本人が2017年にオランダ紙デ・テレフラーフのインタビューで明かしたところによれば、頻度は月に2回、期間は当時ですでに21年。給料を受け取らない「ゲストパイロット」という立場で、機長ではなく必ず副操縦士席に座る。2013年に即位したあとも、それはやめていない。飛ぶ理由について、本人はこう語っている——「地上の問題を空へ持って行くことはできない。完全に切り離して、別のことに集中できる。自分にとってはそれがいちばんの息抜きだ」。

背景:免許を取ったのは18歳のとき

飛行歴は、王位よりずっと長い。オランダ王室の公式サイトには、彼が取ってきた免許が年ごとに並んでいる。1985年に自家用操縦士、1987年に事業用、1989年に多発ジェット機の追加資格、1994年に軍の操縦士免許、そして2001年に定期運送用操縦士——旅客機の機長を務められる、いちばん上の免許である。最初の1枚を取ったのは18歳のときだった。1967年生まれの彼が国王になるのは、そこから28年後の2013年になる。

飛んでいた場所も、最初から旅客機ではなかった。王室の記録によれば、彼はケニアで航空医療団体AMREF(アフリカ医療研究財団)とケニア野生生物公社のために、ボランティアの操縦士として飛んでいた時期がある。チャーター航空会社のマルティンエアーでも乗務していた。KLMのゲストパイロットになったのは1990年代半ばで、以来ずっと無給のままである。

そして彼は、機長にはならない。KLMでは常に副操縦士として乗る。理由そのものは公表されていないが、公務がいつ入るか分からない立場で、便の最終責任を負う席に座り続けるのは難しいのだろう。王室の公式サイトは、彼が飛ぶ目的を「免許の維持に必要な飛行時間を満たすため」と説明している。趣味を続けるにも、規則の側の要求はきっちり付いてくる。

もう少し詳しく:なぜ気づかれずに済むのか

最大の理由は、副操縦士は名乗らなくていいことだ。2017年のインタビューで、本人がそう説明している。副操縦士には自分の名前を告げる義務がない。だから機内アナウンスも「機長と乗務員を代表して」という形で済ませられる。声で気づく乗客はときどきいるらしいが、「そもそも大半の人は聞いていない」とも言っていた。

制服の効果も大きい。KLMの制服と制帽姿でスキポール空港を歩いていても、ほとんど誰にも気づかれない、というのが本人の弁である。加えて、2001年のアメリカ同時多発テロ以降、コックピットの扉は施錠されるようになった。それ以前は扉が開いていて、客席から操縦席の様子が見えることもあったという。制度の変化が、結果的に彼の匿名性を守った形になる。

ただし、「誰にも気づかれなかった」と言い切れる話ではない。これは第三者が数えて確かめた記録ではなく、本人がインタビューで語った実感である。実際、元スレのコメント欄には、2010年ごろ管制官として彼の操縦するフォッカー70の便を扱った、という書き込みがあった。もっともその人も「同僚に言われるまで気づかず、無線の声では分からなかった」と書いている。気づく人はいる。ただ、思ったより少ない、というくらいの話だと考えたほうがいい。

偽名の話もある。彼は1986年のエルフステーデントホト(フリースラント州の11の町をめぐる、約200キロのスケート大会)と、1992年のニューヨークシティマラソンに「W・A・ファン・ビューレン」の名前で参加している。オラニエ=ナッサウ家が持つ、あまり知られていない称号のひとつから取った名だ。オランダの報道には、乗務のときも同じ名前で通していたと書いているものもある。ただ、本人が2017年のインタビューで語っているのは「名乗る必要がない」という点までである。

乗る機体が消えるたび、資格を取り直している

旅客機の免許は、機種ごとに取る。「型式限定」と呼ばれる資格で、ボーイング737に乗れる人がそのままエアバスA320に乗れるわけではない。座学とシミュレーターの訓練を受け、審査に通って、はじめてその機種の操縦席に座れる。月に2回の趣味のために、これを何度も取り直してきたのがこの人である。

最初の機体はフォッカー70だった。KLMの地域路線を担う子会社、KLMシティホッパーが使っていたオランダ製の小型ジェット機である。彼が21年間乗り続けたのはこの機種で、つまり厳密に言えば、長いあいだ彼が飛ばしていたのはKLM本体の長距離便ではなく、子会社が運航するヨーロッパ域内の短距離路線だった。朝に出て夕方に戻る、地味な便である。

そのフォッカー70が、2017年に退役した。デ・テレフラーフのインタビューは、ちょうどこの区切りで出たものだ。21年続けたこの機種での乗務は終わる、という話であり、同時に、ボーイング737の資格を取り直して続ける、という話でもあった。737の免許は同じ年の6月に取っている。趣味を続けるために、50歳で機種転換したことになる。

そして、その737もKLMから消えつつある。王室の公式サイトによれば、彼が737で定期便に乗務した最後の便は2026年3月で、同じ年の6月にエアバスA321neoの資格を取り直している。フォッカー70からボーイング737へ、737からエアバスへ。KLMで飛び始めてから、座る椅子は二度替わっている。月に2回、名乗らないまま。

海外の反応

1. 海外の名無しさん
「お客様にご案内申し上げます。こちらは国王です。着陸態勢に入りますので、お座席にお戻りいただき、シートベルトをお締めください」——この放送が実在しうる国、オランダ。

2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「なお、従わない場合は打ち首といたします。ご協力ありがとうございました」まで言ってくれたら完璧なんだが、実際の彼は名前すら名乗らないらしい。落差がすごい。

3. 海外の名無しさん
王様の仕事がうまくいかなくなったときのために、ちゃんと手に職をつけている。この話でいちばん健全なのはそこだと思う。

4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
それが冗談で済まないのがオランダで、この国の君主は生前に退位する。現に彼の母親も元気なうちに退いて、いまは普通に隠居生活を送っている。退位したあとKLMで働く元国王というのは、割と現実的な未来だ。

5. 海外の名無しさん
数ある国のなかで、よりによってオランダか。KLMという社名は「王立航空会社」という意味で、そこに本物の王族が乗務している。看板に偽りがなさすぎる。

6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
イギリスのウィリアム皇太子も、空軍で救難ヘリの操縦士を数年やっていたぞ。ただしあちらは軍務と人命救助で、金を払った客を乗せる定期便ではない。性格がだいぶ違う。

7. 海外の名無しさん(>>5への返信)
タイの国王も操縦資格を持っていると聞いたことがある。ただ、王族が飛ぶこと自体は珍しくなくても、自国の航空会社の普通の路線に副操縦士として月2回というのは、かなり変わっている。

8. 海外の名無しさん
正直に言うと、乗客としては少し引っかかる。趣味で操縦している人が前の席に座っていると考えると、どうも落ち着かない。

9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
趣味なのは動機だけで、免許も定期審査も他の副操縦士とまったく同じはずだ。むしろ月に2回しか飛ばない人間が737の型式資格を維持し続けるほうが、毎日飛んでいる人より条件は厳しいと思う。

10. 海外の名無しさん(>>8への返信)
隣に機長が座っていることを忘れている。旅客機は2人で飛ばすものであって、彼が一人で操縦桿を握って空を渡っているわけではない。

11. 海外の名無しさん
2010年ごろ、管制官として彼の便を扱ったことがある。自分が担当していたKLMのフォッカー70について、同僚に「あれ、彼が飛ばしてるよ」と言われて初めて知った。無線のやりとりだけでは、まったく分からなかった。

12. 海外の名無しさん
待ってくれ。つまり僕は、それと知らないまま国王に運ばれていた可能性があるということか。

13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
KLMを何年も使っているなら、確率はそんなに低くない。月2回を30年近く続けているわけで、彼の便に乗ったことがある人は、オランダ人だけでも相当な数になっているはずだ。

14. 海外の名無しさん
チェスの話をさせてもらうと、キングは一度に1マスしか動けないはずなんだが、この人は時速800キロで移動している。ルール違反ではないか。

15. 海外の名無しさん
記事が書いていない部分が面白い。KLMが2017年にフォッカー70を退役させたので、彼は趣味を続けるためだけに737の資格を取り直した。つまりオランダのどこかに、着陸が下手だと文句を言った相手が本物の王様だった人がいる。

16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
しかも今度はエアバスでもう一度取り直している。50代になってシミュレーターに通い直す王様というのは、字面からしておかしい。

17. 海外の名無しさん
王室の広報として完璧すぎる。存在意義を演説で訴えるのではなく、職歴で黙って示している。しかも「国民に寄り添う」たぐいの、作り物の企画ではない。

18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
本人は単に飛ぶのが好きで、地上の悩みを持ち込まずに済むからだと言っている。広報として効いているのは結果論で、そこを狙って30年続けられる人はまずいない。

19. 海外の名無しさん(>>17への返信)
好人物なのは認めるが、僕は彼に投票した覚えがないんだよな。人柄がいいことと、世襲という制度が正しいことは、切り分けて考えたほうがいいと思う。

20. 海外の名無しさん
オランダ王室がいちばんまともに見えるのは、退位できる仕組みがあるからだと思っている。母親は健在で退位後の生活を楽しんでいるし、息子は自分が高齢になる前に王位に就けた。人間として無理のない設計になっている。

21. 海外の名無しさん
補足しておくと、彼は海軍で軍務に就いた経験があり、大学では歴史を学んでいる。オランダ語のほかにいくつも言語を話す。偽名で200キロのスケート大会を完走し、同じ偽名でニューヨークシティマラソンも走った。王族でなければパイロットになっていただろう、と本人が語っている。

22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
スケートの話がいちばん好きだ。18歳のとき、賭けで「完走できる」と言ってしまい、2日前に思い立って出場して、そのまま滑り切ったらしい。ろくに練習もしていなかったというのが、いかにもこの人らしい。

23. 海外の名無しさん
遊覧飛行と混同されているが、そうではない。金を払った客を乗せた定期便を、副操縦士として飛ばしている。国王が趣味で空を飛んでいるという話以上に、副操縦士の仕事を30年きちんと続けているという話だと思う。

まとめ

オランダ国王ウィレム=アレクサンダーは、1990年代半ばからKLMの旅客便に副操縦士として乗務している。給料を受け取らないゲストパイロットという立場で、頻度は本人いわく月に2回。副操縦士は名乗る義務がないので、「機長と乗務員を代表して」とだけ言えば身元を伏せたまま済む——気づかれない理由を、本人はそう説明していた。乗っていたフォッカー70が退役すれば737の資格を取り直し、その737が退いたあとはエアバスへ移る。趣味を続けるためだけに、二度も機種転換をしている。コメント欄は「王業がだめになったときの保険だろう」という冗談から始まり、安全面を心配する声、王室の広報として巧いと感心する声、そもそも世襲に投票した覚えはないという声まで入り混じった。それでも共通していたのは、名乗らないまま30年続けてきたという一点への感心だった。

元ソース: オランダ国王は1990年代から、KLMオランダ航空の旅客便を月に2回操縦し続けている

コメント

  1. Reddit名無しさん says:

    この話すごく好き