「発表2週間前に上司室へ呼ばれ、名前を変えろと言われた」スピルバーグの名を冠するはずだった恐竜

「発表2週間前に上司室へ呼ばれ、名前を変えろと言われた」スピルバーグの名を冠するはずだった恐竜 自然・科学

「この恐竜には、スピルバーグの名前を付けるつもりだった」——1993年、アメリカ・ユタ州で見つかった大型の肉食恐竜が、映画『ジュラシック・パーク』の公開直前になって急に名前を差し替えられた。理由は新しい化石が出たからでも、分類が変わったからでもない。発見者の後年の証言によれば、映画会社の法務部が動き出したから、である。

※注:生物に付けられる「学名」は、属名と種小名の2語で表すラテン語式の正式名称のこと(例:ティラノサウルス・レックス)。国際動物命名規約という世界共通のルールに沿って付けられ、いったん論文として発表されると原則あとから変えられない。だからこそ、発表前の名前選びは慎重になる。

今日の知ってた?

🦖 ユタ州で発見された大型の肉食恐竜は、当初「ユタラプトル・スピルバーギ」と命名される予定だった。映画『ジュラシック・パーク』に出てくるヴェロキラプトルによく似ていたからだ。ところが公開直前、発見者の後年の証言によれば、ユニバーサルが「Jurassic」の語を掲げた博物館の展示に法的措置をちらつかせ始めたため、名前は「ユタラプトル・オストロンマイシ」に差し替えられた。

背景:ユタラプトルという恐竜

1991年、ユタ州東部の採石場。古生物学者のジェームズ・カークランドらの手で、異様に大きな鎌状の鉤爪をもつ獣脚類の化石が掘り出された。場所はグランド郡のガストン採石場。最初に見えていたのは歯の並んだ顎だけで、仲間に「首の肋骨があるぞ」と呼ばれて見に行くと、それは肋骨ではなく大きな鉤爪の先だった。外周に沿って測ると30センチほどあり、それまで知られていた最大の鉤爪、デイノニクスのものの倍の大きさだったという。実は1975年にも、近くの別の発掘地で同じ恐竜の骨が掘り出されていたが、そのときは正体が分からないまま眠っていた。正式な記載論文が出たのは1993年。全長はおよそ6〜7メートル、体重は500キロ前後と推定されてきた(近年は全長5メートル弱・300キロ弱という小さめの推定もある)。映画で有名になった「ラプトル」の仲間としては桁違いに大柄である。

ジュラ紀ではなく、白亜紀の恐竜。ユタラプトルが生きていたのは白亜紀前期にあたる。約1億2500万年前と紹介されることが多いが、化石が出た地層の年代を約1億3900万〜1億3500万年前と、もう少し古く見積もる研究もある(地層の年代推定には幅があり、研究者によって数百万年の差がある)。つまり『ジュラシック・パーク』騒動に巻き込まれたこの恐竜は、そもそもジュラ紀の住人ですらない。

いまではユタ州の「州の恐竜」。2018年、10歳の少年ケニヨン・ロバーツが州上院議員に働きかけたのがきっかけで、州議会はユタラプトルを州の恐竜に選んだ。それまで州の恐竜だったアロサウルスとの「対決」は、アロサウルスを「州の化石」に移すことで折り合いがつき、採決は26対0だった。2020年に米スミソニアン誌は、NBAのトロント・ラプターズのロゴもユタラプトルから着想を得たと紹介している。

もう少し詳しく

なぜ映画監督の名前が候補になったのか。映画に登場するヴェロキラプトルは、実物よりかなり大きく描かれている。本物のヴェロキラプトルは尾を含めても2メートルほど、体重は10キロ台で、大きめの七面鳥を思い浮かべるくらいが実像に近い。原作者マイケル・クライトンが書いた「ラプトル」は、体格からするとデイノニクスという別の恐竜に近く、当時の一部の研究者が採っていた分類にならって「ヴェロキラプトル」の名で呼んでいた、と説明されることが多い。クライトンが参考にしたのは、グレゴリー・ポールが1988年に出した肉食恐竜の本(原題 Predatory Dinosaurs of the World)で、この本はデイノニクスをヴェロキラプトルの仲間にまとめていた。カークランドは、見つかった大陸が違い、時代も3000万年離れた2つを一緒にしてしまったと批判している。映画ではそれをさらに大きくした。カークランドは、恐竜好きの俳優や画家、研究者が月に一度集まるバーバンクの「ダイナソー・クラブ」で、撮影用の鉤爪を持ってきた人から「本のラプトルは小さすぎるとスピルバーグが言うので大きくした」と聞かされ、そのあとで監督の名を付けることを思いついたという。そこへ、映画のサイズ感にちょうど重なる本物が地面から出てきた。命名者たちが監督の名を思い浮かべたのも無理はない。

発表2週間前の呼び出し。カークランドは2021年、米ネットメディアのインバースの取材に、論文発表まで2週間を切った時期に勤め先ダイナメーションの上司の部屋へ呼ばれ、「名前を変えてくれ」と告げられたと語っている。理由を聞くと、ユニバーサルが「ジュラシック・ジャングル」のように「Jurassic」を冠した展示を掲げていた博物館に対し、次々と法的措置をちらつかせ始めたという。会社の本部の判断は「この情勢でスピルバーグにちなんだ名前は付けられない」。ダイナメーションの取引先には博物館が多く、ユニバーサルの側に立っているように見られるわけにはいかなかった。地元の博物館(ユタ州立大学イースタン校の先史博物館)は「ユタラプトル・スピルバーギ」と刷ったTシャツを何百枚も用意していたが、それも無駄になった。こうして「スピルバーギ」案は世に出ないまま消えた。

当時の新聞は、別の理由を伝えていた。映画の公開直後の1993年6月15日、ユタ州の地元紙デゼレト・ニュースは、こう報じている。カークランドは、スピルバーグの名を付けることで発掘現場への支援が得られればとも期待していたが、この半年、スピルバーグ側や映画会社からは「話は多いのに、動きも援助もなかった」。そして記事の前の週、論文の原稿が印刷に回るときに、「見返りもなく彼らの宣伝に手を貸しているだけだと気づいた」として名前を変えた、というのである。2020年のスミソニアン誌も、スピルバーギ案を「資金の支援を引き出すための案」として紹介している。カークランド本人はのちに、この報道は自分の発言を取り違えたものだと述べ、スピルバーグは古生物学の大きな資金源になっている「ジュラシック財団」の設立を通じて研究を助けてくれた、とむしろ評価している。どちらの説明が実情に近いのかは、当時の記事と本人の後年の証言とで食い違ったままである。

結局、誰の名前になったのか。採用された種小名 ostrommaysi は、デイノニクスを記載して「恐竜と鳥はつながっている」という見方を広めた古生物学者ジョン・オストロムと、当時カークランドが籍を置いていた恐竜ロボット製作会社ダイナメーションのクリス・メイズ社長、この2人にちなむ。オストロムは、発見の約1週間後にカークランドが学会へ持っていった鉤爪の型を手に取り、振り回しながら「本物だ、巨大なラプトルだ」と言った人物でもある。なお2000年には、複数の人物にちなむ名前の語尾に合わせるとして、ジョージ・オルシェフスキーが ostrommaysorum(オストロンマイソルム)と書き改め、この綴りもよく使われている。ただ2019年には、書き改める根拠ははっきりせず、元の ostrommaysi のままが正しいとする論文も出ている。ハリウッドの名前は消えたが、代わりに研究者と支援者の名前が残った形である。

スピルバーグゆかりの恐竜は、数か月後に中国で生まれた。中国の古生物学者・董枝明(ドン・ジーミン)が手がけた小型の鎧竜ティアンチサウルス・ネデゴアペフェリマの種小名は、サム・ニール、ローラ・ダーンら『ジュラシック・パーク』の主な俳優の名字の頭の文字をつないだものだ。スピルバーグが中国の発掘に資金を出していたので名前を提案できた、とも報じられている。

ユタラプトルの研究は、いまも続いている。2001年、ユタ州モアブの近くで大学院生が骨を見つけ、掘ってみると、重さ約9トンの砂岩の塊の中に、1歳ほどの幼い個体から大人まで何頭ものユタラプトルが閉じ込められていた。流砂にはまって埋もれたとみられ、2020年の時点でも塊から骨を取り出す作業が続いていた。新しく出た手足の骨は、同じ大きさのアロサウルスの骨より5割も太く、ユタラプトルは「大きなヴェロキラプトル」ではなく、がっしりした体つきの恐竜だったことが分かってきている。

海外の反応

1. 海外の名無しさん
博物館が「地質時代の名前」を理由に訴えられるって、どういう理屈なんだ。ジュラ紀は誰の持ち物でもないだろうに。そもそも恐竜の展示が恐竜映画の邪魔になるとは、どう考えても思えないんだが。

2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
イギリスのスカイニュースが「Sky」という単語ひとつでマイクロソフトを訴えた例もあるからね。冗談じゃなく本当の話で、クラウドサービスのSkyDriveがOneDriveに改名させられたのはそれが原因だよ。

※注:マイクロソフトを訴えたのは、スカイニュースを傘下にもつ英国の放送会社スカイ(当時はブリティッシュ・スカイ・ブロードキャスティング)。2013年6月に英国の高等法院が商標の侵害を認め、マイクロソフトは和解のうえ、2014年2月にSkyDriveをOneDriveへ改めた。

3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
勘違いしたお客さんが映画館じゃなく博物館に行ってしまって、その分の売上が失われる——という理屈らしいよ。もちろん皮肉で言ってる。

4. 海外の名無しさん
「頼むから、うちの映画を勝手に無料で宣伝するのはやめてくれ」と叫んでいるようにしか見えない。恐竜展が盛り上がれば盛り上がるほど映画も当たるのに、なぜそこを潰しにいったんだ。

5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
「よくも我々の恐竜映画を、恐竜の展示なんかと結びつけてくれたな!」——声に出して読むと間抜けさが倍になるタイプの主張だ。

6. 海外の名無しさん(>>4への返信)
子どもが恐竜に興味を持つと、うちの恐竜映画が困る。世界でもなかなか見られない種類の経営判断だと思う。

7. 海外の名無しさん
記事を読むと、カークランドは発表まで2週間を切った時点で上司の部屋に呼ばれて「名前を変えろ」と言われたそうだ。ユニバーサルが「ジュラシック」入りの展示に法的措置をちらつかせ始めたから、本部が「もうスピルバーグの名前は付けられない」と決めたと。

8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
発見者からしたら一生に一度の場面だよね。自分の名前を冠した恐竜を持つ機会を、映画会社の法務部の都合だけで取り上げられたスピルバーグも気の毒といえば気の毒だ。

9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
しかもその訴訟、ほとんどが脅し文句だけで中身がなかったらしい。ユタラプトルの鉤爪と違って、こっちの爪にはまるで切れ味がなかったわけだ。

10. 海外の名無しさん(>>7への返信)
念のため補足しておくと、「スピルバーギ」はあくまで発表前の内輪の呼び名で、学名として登録されたことは一度もないよ。恐竜の発見と映画の公開時期がほぼ重なっていたから、こういう案が出たという流れ。

11. 海外の名無しさん
任天堂だって、翼竜の新種に「アエロダクティルス」と名付けた研究者を訴えたりはしていない。ポケモンのプテラの英語名がまさにこれなんだよ。あれこそ黙って受け取っておけばいい無料の宣伝だろうに。

12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
東宝も「ゴジラサウルス」を放置しているしね。ゴジラは東宝にとってミッキーマウスみたいな看板なのに。理由は単純で、恐竜はどう転んでもかっこいいからだと思う。

13. 海外の名無しさん
博物館の展示を訴えるという発想がそもそもなかった。「アメリカ合衆国 対 コカ・コーラの樽40個」みたいな、名前だけで笑ってしまう裁判の仲間入りをしそうだ。

14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
その系統だと「アメリカ合衆国 対 ユリシーズという名の本1冊」(1933年)が一番好きだな。わいせつ物にあたるかどうかを争った、文学史でもよく出てくる有名な裁判だよ。

15. 海外の名無しさん
狙われたのは博物館だけじゃない。当時は恐竜の絵柄を使っているところに片っ端から警告文が飛んでいた。実際に法廷まで進んだ例はほとんどなくて、大半は「訴えるぞ」と書かれた手紙で終わっている。

16. 海外の名無しさん
争点になったのは「ジュラシック」という単語そのものではなく、映画ロゴのあの独特な字体をそのまま真似た看板のほうだった、という説明も見たことがある。それなら商標が守ろうとしている中身そのものだし、話としてはかなり普通になる。

17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
それ、出典ある?議論のときに使いたいんだけど、元になった資料がどうしても見つからないんだ。

18. 海外の名無しさん
どう見ても自分のほうが正しい場面では、笑って無視したうえで手紙を全部公開してしまえばいいのに、といつも思う。恥をかくのは送りつけた側だ。

19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
裁判は勝っても弁護士費用で潰れるんだよ。地方の小さな博物館に、ハリウッドのスタジオと殴り合うだけの体力はない。だから脅すだけで十分に効いてしまう。

20. 海外の名無しさん
この話で一番おかしいのは、ユタラプトルが生きていたのが白亜紀だという点だと思う。ジュラ紀ですらない恐竜が、ジュラ紀を名乗る映画のせいで名前を変えさせられている。

21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
作中に出てくる恐竜の多くも白亜紀の顔ぶれだから、正確を期すなら「白亜紀公園」なんだよね。ただ響きで完全に負けるので、これはもう仕方がないと思っている。

22. 海外の名無しさん
研究者が有名なキャラクターの名前を借りるのは今もよくある話で、ソニック・ハリネズミにちなんだ遺伝子や、ピカチュウにちなんだ網膜のタンパク質まである。学者はだいたい重度のオタクなんだ。

まとめ

映画の宣伝合戦のとばっちりで、実在の恐竜の名前が発表2週間前に差し替えられた——という話だった。コメント欄では「訴えられた展示のほうがむしろ映画の宣伝になっていたはずだ」という呆れ声が大半で、そこから「Sky」やリンゴのマークをめぐる商標紛争の思い出話へと気持ちよく脱線していった。一方で「本当の争点は単語ではなくロゴの字体だったのでは」という冷静な指摘もあり、そこは最後まで決着がつかないままだった。ちなみに当のユタラプトルが生きていたのは白亜紀で、ジュラ紀ですらない。

参考資料

元ソース: 恐竜ユタラプトルは当初「ユタラプトル・スピルバーギ」と命名される予定だった

コメント

  1.   より:

    日本に宇佐と言う地名がある
    USAと書くんだが、アメリカ合衆国が「USAをやめろ、うちとかぶる!!」と抗議してきたが
    「おまえらの建国よりも、うちのほうがずっと古いんじゃボケ!!」と蹴った話が好き