浜に流れ着いた漂着物が、そのまま島の名物になることがある。オランダ北部の島々では、砂丘のくぼ地に北米原産のクランベリーが野生の状態で広がっていて、ジャムにもジュースにも菓子にも使われている。島に語り継がれているところによれば、そのきっかけは、沈んだアメリカ船から流れ着いた一つの樽だったという。
※注:クランベリーはツツジ科スノキ属の常緑の小低木で、原産地は北アメリカ。日本ではジュース、ドライフルーツ、サプリメントの形でしか見かけないが、現地では生の実が量り売りされている。強い酸味があり、そのまま食べる果物としてはほとんど扱われない。
今日の知ってた?
🫐 オランダ北部・ワッデン海に浮かぶテルスヘリング島やフリラント島では、北米原産のクランベリーが人の手を借りずに育ち、島の食文化に欠かせない材料になっている。島に伝わる話では、そのきっかけは難破したアメリカ船から流れ着き、砂丘に打ち上げられた一つの樽だったという。今では野生のものに加えて栽培もおこなわれ、ジャム・ジュース・リキュールとして島の外にも出回っている。
背景:クランベリーという果物
まず、生で食べる果物ではない。クランベリーは日本での知名度のわりに実物を見た人が少ない果物で、直径1センチほどの真っ赤な実がなる。酸味とわずかな渋みが強く、生のままかじると顔がゆがむ。だから砂糖と一緒に煮てソースやジャムにするか、乾かして甘みを足したドライフルーツにするか、絞ってジュースにするか、という使われ方が中心になる。
アメリカでは、七面鳥に添えるソースとして誰もが知っている。感謝祭の食卓には焼いた七面鳥と一緒にクランベリーソースが並ぶのが定番で、酸味が脂を切る役割を担っている。日本のおせちにおける酢の物のような立ち位置だと考えると分かりやすい。
※ 感謝祭=アメリカで11月に祝われる祝日。家族が集まって七面鳥の丸焼きを食べる習慣があり、クランベリーソースはその定番の付け合わせにあたる。
育つ場所がかなり特殊で、収穫の光景も独特だ。クランベリーは酸性の泥炭湿地に育つ植物で、水はけの悪い、じめじめした酸っぱい土を好む。実の内部には空気の入った部屋があるため、水に入れると浮く。この性質を利用して、収穫のときには畑をまるごと水で満たし、機械で実を株から外して水面に浮かせ、赤い実の絨毯になったところを一気に集める。北米の産地で撮られる、真っ赤な水面に長靴の人が立っている写真は、この作業の風景である。
※ 泥炭湿地=枯れた植物が分解しきらずに積もった、酸性で水を含んだ湿地のこと。英語ではボグと呼ばれる。北米・北欧・オランダ北部などに広く見られる。
もう少し詳しく
ワッデン海に浮かぶ、砂と湿地の島
舞台になっているのは、オランダ北部の沖に細長く連なる西フリースラント諸島の島々である。テルスヘリング島とフリラント島がよく名前に挙がる。本土との間に広がるワッデン海は遠浅で、潮が引くと海底が広い泥の平原になって歩けるようになる。渡り鳥の中継地としての価値が高く、この一帯は世界自然遺産に登録されている。
島そのものは砂丘と湿地でできていて、農地に向いた土地とは言いがたい。人口は数千人規模で、暮らしは漁業と観光に支えられている。そして、この「酸性で、水を含んだ砂丘のくぼ地」という条件が、たまたま北米のクランベリーが育つ環境とよく似ていた。
樽の話は、島に語り継がれてきた話でもある
島で語られている筋書きはこうだ。海岸に大きな樽が流れ着き、拾った島の人が中身を期待して開けてみたところ、酒でも油でもなく、見たこともない酸っぱい赤い実が詰まっていた。がっかりした拾い主は樽を砂丘のくぼ地に置き去りにし、実はそこで根を下ろした——。
ただし、これがどこまで史実として確かめられているのかは、慎重に扱ったほうがよい。島の観光案内や地元の語りとして繰り返し紹介されてきた話であり、細部は語り手によって少しずつ違う。植物が渡ってきた経路については、鳥が運んだ可能性、園芸目的で持ち込まれたものが逃げ出した可能性など、別の見方も示されている。「船の樽から始まった」という一点は、島の物語として大切に受け継がれてきた側面が大きい、と受け取っておくのが公平だろう。
確かなのは結果のほうである。今このクランベリーは島の名産として扱われ、ジャム、ジュース、リキュール、菓子になって売られている。地元では栽培もおこなわれていて、島を訪れた人がまず勧められる土産の一つになっている。
在来か、帰化か、それとも侵略か
元のスレッドで最も多くの支持を集めたのは、事実そのものへの驚きではなく、言葉づかいへの指摘だった。「島に根づいた」からといって、この植物は在来種ではない。もともとその土地に自生していた種を在来と呼ぶのであって、外から持ち込まれたあとに自力で育つようになった植物は帰化植物と呼ばれる。
そしてもう一段階ある。帰化植物のうち、もとからいた生き物を押しのけて生態系を作り替えてしまうものは侵略的外来種と区別される。同じ「海を渡ってきた植物」でも、静かに収まっていれば名物になり、手に負えないほど広がれば駆除の対象になる。この線引きをどこに置くのかで、コメント欄はかなりの分量を使っていた。
ちなみに日本にも、似た経路で入ってきて風景の一部になった植物がある。シロツメクサは、江戸時代にオランダから届いたガラス器の緩衝材、つまり詰め物に使われた干し草に混じって渡ってきたと言われていて、「詰め草」という名前はそこから来ている。梱包材から広がった草と、樽から広がった実。どちらも、運ばれたことに本人(植物)はまったく関与していない。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
これは native(在来)という言葉の使い方ではないと思う。もともとその土地に自生していた種を在来と呼ぶのであって、あとから海を渡ってきて根づいた植物は、どれだけ長く育っていても別の呼び方になるはずだ。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
では正しくは何と言えばいいんだろう。悪気があって書いたわけではないと思うし、実際に島では人の手を借りずに育っているわけで、それを一言で表せる言葉が欲しいところだ。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
naturalized、日本語で言えば帰化植物にあたる言葉だね。北米のタンポポとまったく同じ立場で、外から来たけれど自力で世代を重ねて定着している植物のことをそう呼ぶ。
4. 海外の名無しさん
スレッドを立てた本人だけど、英語が母語ではないので単語の選び方を間違えていた。指摘してもらって助かった。ちなみに島では野生のものだけでなく、今は畑で栽培もされている。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
英語の native は「もともとそこにいた」という含みが強いんだ。堅い言葉を避けたいなら、単に wild、つまり野生化している、くらいの言い方でも十分に通じると思う。
6. 海外の名無しさん
帰化と侵略的外来種の線引きは、生態系を壊しているかどうかだけで決まる。持ち込まれた植物が人の手を借りずに育ち、もとからいた植物を追い出しもしないなら帰化。追い出してしまうなら侵略的外来種になる。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
つまり同じ植物でも、増え方が手に負えなくなった瞬間に呼び名のほうが変わるということでもある。クランベリーは砂丘の湿ったくぼ地という限られた場所でしか育たないから、今のところ前者で収まっているんだろう。
8. 海外の名無しさん
素朴な疑問なんだけど、どれくらいの時間が経てば在来と呼んでいいことになるんだろう。仮に1000年前に鳥がヨーロッパの種を北米で落としていたとしたら、その植物は今では在来ということになるのか。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
これは時間の問題ではなくて、人が関わったかどうかの問題なんだ。鳥が種を落とすのは自然の出来事だけど、船に積まれた樽が海岸に流れ着くのは自然の出来事ではない。だから何百年経っても帰化のままになる。
10. 海外の名無しさん(>>8への返信)
ではツバメが運んできた場合はどう扱われるのか、というのが気になってしまった。もっともこの質問を口にした瞬間、次に確認されるのはアフリカツバメなのかヨーロッパツバメなのか、という話になりそうだけど。
※ ツバメの話=英国のコメディ映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(邦題『ホーリー・グレイル 聖杯伝説』)で、ツバメがヤシの実を運べるかを延々と議論する有名な場面がある。「アフリカツバメかヨーロッパツバメか」はその決まり文句。
11. 海外の名無しさん
人間以外による種子の運搬が生態系をひっくり返しにくいのは、単純に運べる距離が限られているからだよ。コマドリはオザーク高原で実を食べたあと、フランスまで飛んでいって糞をすることはできない。今の人間はそれを平気でやってしまう。
12. 海外の名無しさん
保全の考え方では、人の手が生態系に加わること自体が慎重に扱われる。大規模な森林火災は生態系を更新する自然の営みだけど、同じ森に人が火を付けたらそれは放火だ。起きている現象が同じでも、扱いはまるで変わってくる。
13. 海外の名無しさん
少し脱線するけど、ケンタッキーブルーグラスという牧草が、ケンタッキー州が生まれるより前から北米に生えていたという話を思い出した。スペイン人が馬の飼料として持ち込んだと言われていて、あれも立派な帰化植物になっている。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
名前と実物の前後関係の話になると、ルー・ゲーリッグがルー・ゲーリッグ病で亡くなったのは相当な偶然だよな、というのを毎回思い出してしまう。順番を忘れると本当にそう聞こえる。
※ ルー・ゲーリッグ=1930年代に活躍したアメリカの野球選手。筋萎縮性側索硬化症(ALS)で現役を退いて亡くなり、以後この病気は米国で「ルー・ゲーリッグ病」と呼ばれるようになった。病名が先にあったわけではない、という順番を踏まえた冗談。
15. 海外の名無しさん
逆の例もあるよ。日本原産の葛はアメリカ南部に持ち込まれたあと、手が付けられないほど広がって、空き家も電柱もまとめて覆ってしまっている。同じ「海を渡った植物」でも、片方は島の名物になって、片方は駆除の対象になる。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
結局のところ、その土地の人が困っているかどうかで呼び名が決まっているだけなのかもしれない。困っていなければ名物、困っていれば外来種。線引きは科学の顔をしているけれど、半分は暮らしの都合でできている。
17. 海外の名無しさん
あの樽一つが、そのへんの貿易協定より国際的な食文化に貢献しているの、笑ってしまうけど本当だと思う。会議室で何年かけても決まらないことが、沈んだ船と潮の流れだけで片付いてしまった。
18. 海外の名無しさん
テルスヘリング島と、隣のフリラント島では、ソフトクリームにクランベリーのジャムをかけて出してくれる店があって、これがとてもおいしい。ジュースはリンゴと混ぜても合うので、島に行く機会があればぜひ試してみてほしい。
19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
フリースラントの感覚としては、あの酸っぱさはちゃんと土地に合っていると思う。万人受けする味ではないけれど、何度か食べているうちに、これがないと物足りなくなってくる種類の味だ。
20. 海外の名無しさん
なぜか分からないけれど、クランベリーはものすごくオランダっぽい食べ物という感じがする。実際には北米から来たと聞かされても、いったん付いてしまった印象がなかなか消えてくれない。
21. 海外の名無しさん(>>20への返信)
水を張った畑に実を浮かせて集めるからじゃないかな。水と付き合いながら土地を使うという絵面が、そのままオランダのイメージと重なってしまうんだと思う。
22. 海外の名無しさん
うちの棚にあるドライクランベリーは誰にも渡すつもりがない。今のところ主に争っている相手はカラスなんだけど、それでも一歩も引くつもりはないので、そこは分かっておいてほしい。
23. 海外の名無しさん
スレッドのタイトルを読んだ瞬間、果物ではなくアイルランドのバンドのほうを思い浮かべてしまって、頭の中で『リンガー』が流れ始めてしまった。誰か止めてくれないだろうか。
24. 海外の名無しさん(>>23への返信)
そうしなきゃダメ? そうやって、いつまでも引きずらせなきゃダメなの? ……すまない、こちらも止まらなくなってしまった。
※ ザ・クランベリーズ=アイルランドのロックバンド。『リンガー』(Linger)は代表曲で、「Do you have to let it linger?(いつまでも引きずらせるつもり?)」というサビが繰り返される。24番はその歌詞をなぞった返しにあたる。
まとめ
オランダ北部のワッデン海に浮かぶテルスヘリング島やフリラント島では、北米原産のクランベリーが砂丘のくぼ地で人の手を借りずに育ち、ジャムやジュースとして島の名物になっている。きっかけは難破したアメリカ船から流れ着いた樽だった、と島では語り継がれているが、そこは言い伝えとしての側面も大きく、別の見方も残っている。コメント欄は「島に根づいた=在来種ではない」という言葉の指摘から始まり、帰化と侵略的外来種をどこで分けるのか、時間なのか人の手なのか、という議論へ流れていった。その一方で、ソフトクリームにジャムをかけると本当においしい、あの樽は下手な貿易協定より仕事をした、といった話も同じ勢いで並んでいて、最後まで賛否というより「呼び方はともかく、島にあってよかった」という空気で終わっていたのが印象に残る。
元ソース: オランダのいくつかの島では、沈没したアメリカ船から流れ着いた樽をきっかけにクランベリーが根づき、以来ずっと地元料理に欠かせない材料になっている

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