紙パックのいらない掃除機で知られるダイソン。創業者ジェームズ・ダイソンが自分の発明として最初に世に出したのは、掃除機ではなく、車輪の代わりに球を付けた手押し車だった。しかもこの発明で彼は会社を失い、その苦い経験と、のちに日本で25万円で売られたピンクの掃除機が、いまのダイソンにつながっていく。
※注:手押し車=英語のホイールバロー。日本の工事現場や畑で「一輪車」「ネコ車」と呼ばれる、車輪1つの運搬具のこと。
今日の知ってた?
🔴 ジェームズ・ダイソンの最初の発明品は「ボールバロー」。1974年に英国で発売された、車輪の代わりにプラスチックの大きな球で転がる手押し車だった。
背景:ボールバローとは
ジェームズ・ダイソンは1947年、英国ノーフォーク州の生まれ。ロンドンの王立美術大学で絵画から家具・インテリアのデザインへ移った。学生のころから関わったのが、英ロートーク社の高速の上陸用ボート「シートラック」である。ただしこの船は、同社を率いたジェレミー・フライらとの共同の仕事で、誰の設計かは資料によって書き方が分かれる。「最初の発明」と言うとき、ふつう彼自身の着想として数えられるのは、その次のボールバローのほうだ。
きっかけは庭仕事だった。使っていた手押し車が、ぬかるみにはまって動かなくなる。そこでダイソンは、細い車輪そのものをやめて、大きな球に取り替えた。本人は米フォーチュン誌の取材に、これを「車輪の代わりに大きな赤いボールが付いた手押し車」と説明している。球は地面に触れる面が広いので柔らかい土に沈みにくく、でこぼこの地面でも安定し、向きも変えやすい。米ゲイル社の人物事典は、手押し車にとって中世以来の大きな手直しだったと書いている。
1974年、ダイソンは姉妹とその夫とともに会社を作り、製造を始めた。社名はカーク・ダイソン。1977年にはデザインの賞(ビルディング・デザイン・イノベーション賞)も受けている。
もう少し詳しく
売り場に置いてもらえなかった。斬新すぎる製品に、園芸店は当初そっぽを向いた。南アフリカの法律事務所ENSの弁護士クレイグ・シャピロが2025年にまとめた記事によれば、ダイソンは新聞に広告を出して消費者へ直接売る方法に切り替え、需要を作って、小さな市場の中で大きな割合を取った。
本人が「最大の失敗」と呼ぶもの。同じ記事によると、ダイソンはボールバローの特許を、自分で持たずに会社へ譲渡していた。事業が伸びて外部の投資家を入れるうちに、持ち株の過半を失う。取締役会は直販をやめて米国でのライセンス販売に切り替え、利幅と資金繰りが悪化した。ゲイルの事典は、経営の対立から共同経営者に追い出されたと記している。会社と一緒に特許まで手元から離れたわけで、自分の発明なのに、もう自分のものではなくなった。
掃除機は手押し車の時代に始まった。1979年、ダイソンは掃除機の紙パックの換えが見つからず、袋の中身を空けて使い回す羽目になった。フォーチュン誌ではこれが、紙パックのない掃除機を考えた出発点として語られている。一方で、製材所の大型サイクロンがおがくずを空気から取り除くのを見たのが発想の元になった、とする記事もある。ボールバローの投資家は掃除機に興味を示さず、ダイソンは独立した。元手は会社から受け取った買い取りの支払いと、自宅の二番抵当、妻の収入だった。美術教師の妻は絵も売って家計を支えたという。試作は5,127台に及んだ。
最初に売れたのは日本だった。ダイソンは米国のメーカーなどに技術の採用を持ちかけたが、話はまとまらなかった。突破口になったのが、1986年の日本のエイペックス社とのライセンス契約である。こうして生まれたのが、掃除機「Gフォース」だ。ダイソンの回想では、1台25万円、当時で2,000ドル近い高級品だった。本人はエイペックスは「あまり成功しなかった」と語り、ゲイルの事典は高価なのに熱心な愛好者がついたと書く。評価は分かれるが、本人の話では、この契約で収入が入るようになった。英ヴィクトリア&アルバート博物館は、このピンク色のGフォースを「日本製、1986年」の収蔵品として持っている。
今度は手放さなかった。シャピロの記事は、ボールバローの経験が掃除機の事業の進め方を変えたと指摘する。ライセンスは市場を選んで出し、やがて製品と品質を決める権限を自社に集めた。それでも資金集めは難航した。投資会社にも銀行にも断られ、取引先の銀行の支店長が働きかけて、ようやく英ロイズ銀行が金型の費用として100万ドルを貸してくれたという。1993年に自前の製造を始めた掃除機は、2年で英国でいちばん売れる機種になった。そして2005年、球で転がる掃除機DC15が登場する。英語版ウィキペディアによれば、ダイソンはそれより前の1978年にも、ボート運搬用の台車に同じ球の車輪を使っている。庭で思いついた球は、形を変えて戻ってきたのである。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
ダイソンらしいと言うしかない。この人は最初から普通の丸い部品では満足しなかったんだな。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「まさか車輪を再発明するやつなんていないよな?」って言葉、本当にやった人がここにいた。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
ロマ・アグラワルの『ナットとボルト』の本にあったけど、車輪は人類史でいちばん再発明されてきたものだから、あの言い回し自体が笑えるんだよね。
4. 海外の名無しさん
勘違いしている人が多いけど、あれにはちゃんと車軸があるんだ。自由に転がる玉じゃない。曲がるときの動きがなめらかになるだけ。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
発想としては悪くないと思う。太いタイヤを突き詰めたら球になった、というだけでしょ。柔らかい土や芝の上ならよく転がりそう。
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
もともと存在しなかった問題を解決した製品だよ。ダイソンの得意分野はひとつ、売り込みのうまさ。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
物理の問題は解決してるよ。普通の手押し車は傾けて曲がるのが苦手だから。ただ荷物が崩れるので、そもそも誰も傾けて曲がらないんだけど。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
そのあと同じ球を掃除機に付けたよね。家具のあいだを回り込むには、傾けて曲がれるのは意外といいんだ。市場を独占するほどではなくて、普通の車輪の機種も十分に器用になったけど。
9. 海外の名無しさん
実用的には聞こえないな。平らなところを押すなら普通の車輪で十分じゃないのか。
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
実際かなりいいよ。高く積んだ重い荷物は少し傾くと一気にねじれるけど、球だとそれが和らぐ。使い勝手は普通のとほぼ同じで、荒れ地や柔らかい地面でも荷重が分散する。
11. 海外の名無しさん
この人の仕事って、何の問題もなく動いている物をわざわざ複雑にして、本人が気に入らない部分だけ取り除くことだよね。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
しかも値段は10倍になる。我が家の掃除機も、性能より買った額のほうを先に思い出す。
13. 海外の名無しさん
一瞬、「ダイソン球」の試作品の話かと思ってめちゃくちゃ混乱した。恒星を丸ごと覆うあの巨大構造物と手押し車がどうつながるんだって。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
「恒星のエネルギーを100%使えることを証明するため、バケツに回る玉を付けました。質問はもう受け付けません」
15. 海外の名無しさん(>>13への返信)
名字が同じだけの別人だよ。ダイソン球は物理学者のフリーマン・ダイソンの名前から来ている。1960年の論文で、発想の元はオラフ・ステープルドンの1937年のSF小説『スターメイカー』。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
世間に知られているダイソンが2人しかいないのに、2人とも球に関わっているのは変な偶然だな。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
着々と準備していたんだよ。集大成は宇宙用の「スターバロー」。全宇宙をなめらかに転がしていける。
18. 海外の名無しさん
ダイソンの手押し車と混同しないようにね。恒星を荷台に載せて、そのまま押して運んでいくやつのほう。
19. 海外の名無しさん
いちばん良い手押し車の条件は、まっすぐ押しているつもりなのに急に左右へ流れていくこと。最高だね。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
だから車軸があるんだって。そんな動きはしないよ。このスレで何度目の説明になるんだろう。
21. 海外の名無しさん
沈めば接地面が増えるのは確かだけど、自転車の世界だと細いタイヤに高い空気圧が速いという常識が覆って、太くて低圧のほうが転がり抵抗が小さいとされている。悪路ならなおさらだ。
22. 海外の名無しさん
ブレグジットを声高に応援しておいて、そのあと本社をシンガポールに移した、あのジェームズ・ダイソンで合ってる?
※注:ダイソン氏は2016年の国民投票で離脱を支持した。本社のシンガポール移転の発表は2019年1月で、会社側は「ブレグジットとも税金とも関係ない」と説明している。
23. 海外の名無しさん
最初の発明で車輪を作り直すって、キャリアの始め方としては強気だよな。そのあと紙パックも捨てたわけだし。
24. 海外の名無しさん
「スフィアバロー」という名前は空いてなかったのかな。ボールバローだと、どうにも子どもの遊び道具みたいに聞こえる。
まとめ
球の手押し車ボールバローは、ぬかるみにはまる車輪への不満から生まれ、特許を手放した失敗とともにダイソンの原点になった。コメント欄は、ダイソン球との取り違えと車軸の説明、「無かった問題を解決しただけ」という冷ややかな声で賑わった。それでも球は掃除機に戻り、最初の掃除機は日本で売られた。遠回りに見えて、話はつながっている。

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