約14,300年前の空で何が起きたのかを、いまの私たちは年単位で言い当てることができる。記録を残した人間がいたわけではない。そのとき生えていた木が、その一年ぶんの年輪の中に、当時の空気の成分をそのまま閉じ込めていたからだ。
※注:太陽嵐とは、太陽の表面で起きた爆発によって、光・放射線・高エネルギーの粒子・磁気を帯びたガスの塊が一度に地球へ向かってくる現象の総称。地球の磁場を揺さぶって送電線や通信に影響を与えるほか、通常は極地でしか見えないオーロラを低い緯度まで広げる。
今日の知ってた?
☀️ 約14,300年前(紀元前12,350年ごろ)、太陽から降り注ぐ高エネルギー粒子の量が跳ね上がる出来事が起きていた。その強さは、1859年のキャリントン・イベントの少なくとも10倍。これまで最強とされてきた西暦775年の記録もおよそ2割上回り、現在知られている中で最大の太陽粒子イベントとされる。分かったきっかけは、フランス南部のアルプス地方に残っていた古い木の年輪に、放射性炭素14の急増が一年分だけくっきり刻まれていたことだった。
※ キャリントン・イベント=1859年9月に起きた、観測記録に残る中で最大級の太陽嵐。イギリスのアマチュア天文家リチャード・キャリントンが太陽面の閃光を目撃したことからこの名がある。世界中の電信網が停止し、電信線が火花を散らし、感電した電信士がいたと記録されている。カリブ海やハワイなど、普段はオーロラなど見えない低い緯度でも夜空が赤く光ったと伝えられる。
背景:太陽嵐とは、何がどの順番で届くのか
ひとくちに太陽嵐と言っても、届くものは三種類ある。まず太陽の表面で磁力線がねじれて切れると、そこで一気にエネルギーが解放される。これが太陽フレアで、閃光としての光と強いX線が出る。これは光の速さで進むので、地球には約8分で届く。つまり「フレアが起きた」と分かった時点で、その影響はもう来ている。
※ 太陽フレア=太陽表面での爆発現象。黒点の周りで磁力線がもつれ、それがつなぎ変わるときに蓄えられた磁気のエネルギーが一気に放出される。規模はX線の強さでA・B・C・M・Xの5階級に分けられ、Xが最大級。
次に来るのが、光速近くまで加速された粒子だ。陽子を中心とした太陽高エネルギー粒子が数十分から数時間で地球に到達する。これは人工衛星の電子回路を壊し、高い高度を飛ぶ飛行機の乗員や宇宙飛行士の被曝量を増やす。そして、この粒子が地球の大気にぶつかると、後で述べる「木に残る痕跡」を作る。今回の14,300年前の出来事は、この粒子の量が桁外れだったことが分かっている種類のものである。
最後に、いちばん重い塊が到着する。コロナ質量放出——太陽の大気が数十億トン単位でまとめて吹き飛ばされる現象で、磁気を帯びたガスの塊として飛んでくる。速度はまちまちで、通常は1日から3日かけて地球に届く。1859年のキャリントン・イベントのときは17時間半ほどで到達したとされ、これはかなり速い部類だった。この塊が地球の磁場を強く揺さぶると、地上に張り巡らされた長い金属——送電線、鉄道のレール、パイプライン——に意図しない電流が流れる。
※ コロナ質量放出(CME)=太陽の外側の大気(コロナ)が磁場ごと大量に放出される現象。地球の磁場を変動させることで、地上の長い導体に地磁気誘導電流と呼ばれる直流に近い電流を発生させる。交流を前提に作られた変圧器はこの電流に弱く、鉄心が過熱して壊れることがある。
もう少し詳しく
では、なぜ14,300年前の太陽の様子が今になって分かるのか。鍵は炭素にある。宇宙から降ってくる高エネルギーの粒子が大気の窒素に衝突すると、放射性炭素14という、わずかに重い炭素が作られる。これは二酸化炭素として大気に混ざり、木が光合成でそれを取り込む。木は一年に一本ずつ年輪を作るので、結果として「その年の大気にどれだけ炭素14が含まれていたか」が、一年刻みの帳簿として木の中に積み上がっていくことになる。
※ 放射性炭素14=炭素の同位体の一つ。約5,730年で半分に減っていく性質があり、遺跡から出た木や骨の年代測定(放射性炭素年代測定)に使われる。ここで使われているのは「減り方」ではなく「その年にどれだけ作られたか」のほうである。
裏付けは氷にも残っている。南極やグリーンランドの氷を柱状にくり抜いた氷床コアには、同じ宇宙線によって作られるベリリウム10や塩素36が層ごとに閉じ込められている。年輪と氷という、まったく別の場所にある二つの記録が同じ年に同じ跳ね上がりを示していれば、それは地球規模の出来事だったと言い切れる。今回の14,300年前の急増も、この二本立てで確かめられている。
※ 氷床コア=氷河や氷床を筒状に掘り抜いて取り出した氷の柱。降り積もった雪が年ごとの層になって残るため、過去数十万年分の大気の成分をさかのぼって読み取ることができる。
ここで日本の話が出てくる。この「年輪の中の炭素14が一年で跳ね上がる現象」を最初に見つけたのは、名古屋大学の三宅芙沙氏である。2012年、日本の杉の年輪を年ごとに分析したところ、西暦774年から775年にかけて炭素14が突然増えていることが分かった。当初は原因をめぐって議論があったが、その後の研究で、極端に強い太陽の粒子放出が原因という見方が定着していった。以来、この種の急増は世界の研究者からミヤケ・イベントと呼ばれている。
※ ミヤケ・イベント=発見者の名にちなむ呼称。これまでに紀元前7176年、紀元前5410年、紀元前660年、西暦774〜775年、西暦993〜994年などが知られており、今回の紀元前12,350年ごろの出来事はその中で最大とされる。
今回の発見が難しかったのは、それが氷期のさなかの出来事だったからだ。これまで見つかっていたミヤケ・イベントはすべて、氷期が終わった後の比較的穏やかな時代のものだった。大気や海がどう炭素を回しているかは氷期と現在で違うため、これまでの計算モデルをそのまま当てはめると、実際の粒子の量を正しく見積もれない。研究チームは氷期の条件に合わせてモデルを組み直したうえで、「西暦775年をおよそ2割上回る」という数字を出したとされる。
ちなみに当時の人類は、この現象で何ひとつ困っていない。紀元前12,350年ごろといえば氷期が終わりに向かっている時期で、農耕が始まるより数千年前にあたる。人々は狩猟と採集で暮らしており、壊れて困る電気の設備を一つも持っていなかった。おそらく、夜空が異様に明るくなった日が何日か続いただけで、翌朝からの生活は何も変わらなかったはずである。
むしろこの現象は、現代の研究者にとって便利な道具になっている。世界中の木に同じ年の目印が入っているということは、「時間のものさし」が一本引けるということだからだ。実際、カナダのニューファンドランド島にあるノルド人(ヴァイキング)の遺跡ランス・オ・メドーでは、出土した木材に西暦993年の炭素14の跳ね上がりが含まれていたことから、その木が西暦1021年に切られたと一年単位で特定された。コロンブスより471年早く、ヨーロッパ人が北米大陸にいた年が確定した瞬間だった。
では、同じ規模のものが今日来たらどうなるのか。ここは想像より、すでに起きたことを並べたほうが正確だろう。1989年3月、カナダのケベック州では磁気嵐によって送電網がおよそ90秒で崩れ、約600万人が9時間ほど停電した。2003年のいわゆるハロウィン嵐では、スウェーデンのマルメで1時間ほどの停電が起き、複数の人工衛星が損傷し、極周りの航空路が変更された。2022年2月には、打ち上げ直後だったスターリンク衛星49基のうち38基が磁気嵐の影響で失われている。
そして直近の例は、多くの人が実際に見ている。2024年5月、1989年以来と言われる規模の磁気嵐が起き、日本でも北海道などで赤いオーロラが観測された。このときアメリカでは、GPSで自動操縦するトラクターの位置精度が出なくなり、作付けの最盛期に畑で作業が止まるという被害が出ている。停電しなくても、位置情報がずれるだけで農業が止まる時代になった、ということでもある。
※ 日本でオーロラが見えた記録は江戸時代にもある。1770年(明和七年)9月には京都をはじめ各地で夜空が赤く染まったと複数の日記に書かれており、『星解』という書物には当時の様子を描いた図も残る。近年の研究では、この磁気嵐がキャリントン・イベントに匹敵する規模だった可能性が指摘されている。
ただし、「文明が終わる」という語り口には注意がいる。大型変圧器の製造に時間がかかるのは事実で、復旧が長引く恐れは確かにある。一方で、地磁気誘導電流の影響は緯度と地下の岩盤の性質に大きく左右され、どこでも同じように壊れるわけではない。さらに、太陽を常時監視する探査機によって、粒子や塊が到達する前に警報を出す仕組みが整えられており、電力会社側にも磁気嵐を想定した運用手順がある。備えの話として読むぶんには意味があるが、終末の絵から逆算して恐れる必要はない。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
14,300年前というのが具体的にどういう時代かというと、氷期がまだ終わりきっていない頃で、農耕が始まるより数千年も前になる。当時の人にとっては、夜空が異様に明るい日が何日か続いただけの出来事だったはずだ。壊れて困るものを何ひとつ持っていなかったから、被害という概念すら成り立たない。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
大学院にいた頃、指導教員が繰り返し言っていたのがまさにその話だった。文明が花開いたのは、気候が異常なほど安定していた期間にたまたま重なったからで、農耕はその安定なしには成立しない。生態系は人間が実感できるよりはるかに大きく動くものだし、自分たちの優位は石に刻まれた約束ではない、と。
3. 海外の名無しさん
素朴な疑問なんだけど、これと同じ規模のものが今日いきなり来たら、自分たちはどのくらい困ることになるんだろう。想像しようとしても、停電が長引くという以上のイメージがうまく湧いてこない。
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
まず送電網が止まる。厄介なのは大型の変圧器で、あれは一台ずつ仕様が違ううえに、発注してから完成まで1年半かかるものもある。1年半、電気の来ない生活を続けるところを想像してほしい。ゾンビのいない『ウォーキング・デッド』みたいなことになると思う。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
しかも全部の変圧器を同時には作れないから、壊れた台数のぶんだけ順番待ちの列ができる。送電網が元に戻るまで20年から30年という試算を見たこともある。電線を作る工程にも電気がいるし、その電気を作る設備を直すのに電線がいる、というぐるぐる回りに入るのが一番きつい。
6. 海外の名無しさん(>>4への返信)
この手の話題は、いつも一番怖い予測だけが伸びていく。ただ、専門にしている人の説明を読むと、電子機器が一瞬で全部使えなくなるようなものではないらしい。深刻な被害と犠牲が出るのは確かでも、数日から数週間の混乱として語られることのほうが多い。終末の絵を先に決めてから根拠を探すのは、順番が逆だと思う。
7. 海外の名無しさん
どれくらい前に分かるものなんだろうか。太陽が光った瞬間の光とX線は8分で届いてしまうので、そこから先は時間との勝負になる。粒子は数十分から数時間、本体のガスの塊は普通なら1日から3日かかって来る。キャリントンのときは17時間半ほどで到達したそうで、あれはかなり速い部類だったらしい。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
その数時間で何ができるかというと、理屈のうえでは先に自分から停電させることになる。発電を止めて、変圧器につながる線を物理的に外してしまえば、行き場のない電流で焼けるのを避けられるかもしれない。実際にその判断を、被害が一件も出ていない段階で国全体に下せるかというと、正直かなり怪しいけれど。
9. 海外の名無しさん
未来の想像より、すでに起きたことを見るほうが分かりやすいと思う。1989年3月、カナダのケベック州は磁気嵐の影響で送電網が90秒で崩れて、約600万人が9時間ほど停電した。しかも真冬の話だ。そしてこのときの磁気嵐は、キャリントン・イベントの何分の一かの規模でしかない。
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
2003年のハロウィン嵐では、スウェーデンのマルメで1時間ほど停電して、人工衛星がいくつも壊れ、極周りの航空路が変更されている。2022年には打ち上げ直後のスターリンク衛星が49基中38基失われた。地上より先に、まず宇宙に置いてあるものから順番に影響が出るというのが分かりやすい。
11. 海外の名無しさん
2024年5月の磁気嵐で印象に残っているのは、アメリカの農家が困っていたという話だ。GPSで自動操縦するトラクターの位置精度が出なくなって、作付けの一番大事な時期に畑で手が止まってしまった。停電しなくても、位置情報が数十センチずれるだけで農業が止まる時代になっている。
12. 海外の名無しさん
あのときは日本でも北海道でオーロラが見えて、赤い空の写真がずいぶん出回っていた。ああいうものは緯度の高い場所の景色だと思い込んでいたので、太陽の機嫌ひとつでここまで下りてくるのかと驚いた記憶がある。あれで1989年以来の規模だと言われると、キャリントンの10倍がどうにも想像できない。
13. 海外の名無しさん
アメリカ政府の研究で、電気が止まったら1年で人口の9割が亡くなるという数字を見たことがある。水道のポンプが止まり、下水も止まり、冷蔵も食料の流通も薬もなくなる、という積み上げの理屈だった。あれを読んでから、この手のニュースが妙に怖くなってしまった。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
その9割という数字はよく引用されるけれど、出どころは核爆発による電磁パルスを想定した委員会の報告であって、太陽嵐の研究から出てきたものではない。しかもその数字自体、根拠が薄いと専門家から批判されている。怖い話が独り歩きするときは、たいてい途中で前提がすり替わっている。
15. 海外の名無しさん
一部で、太陽は1万2000年から1万4000年ごとに小規模な爆発を起こしていて、そろそろ次の番だ、という説が言われている。今回の年代がちょうどその間隔に見えるものだから、また元気になっている人たちがいるようだ。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
終末を待っている人は、いつの時代も終末が近いと思っている。西暦2460年に世界が終わると叫んでいる人を街で見かけたことがないのが、その何よりの証拠じゃないだろうか。自分が生きているうちに来てくれないと話にならないので、予言はいつも「そろそろ」になる。
17. 海外の名無しさん
イエローストーンの噴火の話と同じ構造だと思う。たしかに次が起きてもおかしくない期間には入っているんだけど、その期間の幅が数万年ある。明日かもしれないし1万年後かもしれない、というのは、日常の感覚に置き換えるとほとんど「来ない」と同じ意味になってしまう。
18. 海外の名無しさん
世界各地の岩絵に、渦巻きや枝分かれの似たような模様が繰り返し出てくるのを、当時の空に見えたプラズマの形を写したものだと考える説がある。かなり際どい話ではあるけれど、空が今と違う見え方をしていた時代が実際にあったのは確かなので、想像するぶんには楽しい。
19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
渦巻きや同心円は、人間の目と脳が暗闇の中や極度の集中状態で見てしまう模様としても説明がつくので、そこだけを太陽の証拠に使うのは難しいと思う。ただ、年輪に残った炭素という物証のほうは動かないので、そちら側から攻めていけば同じ問いにたどり着けるのかもしれない。
20. 海外の名無しさん
この種の現象が「ミヤケ・イベント」と呼ばれていることを今日初めて知った。日本の研究者が杉の年輪から西暦775年の急増を見つけたことにちなむ名前だそうで、木の年輪という地味な材料が世界中の年代測定の基準になっているというのが、なんだか気持ちのいい話だと思う。
21. 海外の名無しさん
つまり14,300年前に一度インターネットが使えなくなって、復旧までに14,250年かかったということになるな。障害報告書の「復旧までに要した時間」の欄がどうなっていたのか、ちょっと見てみたい。
22. 海外の名無しさん
恥ずかしながら、キャリントン・イベントというもの自体を今日初めて知った。1859年に電信線が火花を散らして、電池をつないでいないのに信号が送れたとか、電信士が感電したという記録が残っているらしい。逆に言えば、電気の設備が電信線しかなかったからその程度で済んだ、という話でもある。
23. 海外の名無しさん
安定した気候も、電気の来る生活も、たまたま長く続いているだけで当たり前ではない、という話として読んだ。四季がはっきりしていることさえ地球の標準ではないと聞いたことがある。14,300年前の空を木が覚えていてくれたおかげで、自分たちがどれだけ運のいい時代に住んでいるかが少し分かった気がする。
まとめ
約14,300年前、1859年のキャリントン・イベントの少なくとも10倍という規模の太陽粒子イベントが起きていた。それが分かったのは、フランス南部のアルプス地方に残っていた木の年輪に、放射性炭素14の急増が一年分だけ刻まれていたからだ。この種の急増を最初に見つけたのが名古屋大学の三宅芙沙氏で、いまでは世界の研究者が「ミヤケ・イベント」と呼んでいる。コメント欄は当初「今日来たら文明が終わる」という方向に大きく振れたものの、途中から「9割が死ぬという数字は核爆発を前提にした別の報告のものだ」「専門家の説明では数日から数週間の混乱として語られることが多い」と冷静な訂正が入り、最終的には1989年のケベック、2003年のマルメ、2024年5月のトラクターという「実際に起きたこと」を並べる流れに落ち着いていた。壊れるものを何も持っていなかった氷期の人々と、位置情報が数十センチずれるだけで畑が止まる私たちと、どちらが空を気にして生きているのかという話でもある。

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