1989年の映画『バットマン』でジョーカーを演じたジャック・ニコルソンは、出演料を相場より安く抑えた。その代わりに契約書へ書き込ませたのが、興行収入の分け前と、ジョーカー関連グッズの売上の分け前である。しかもグッズのほうは、この1作だけでなく続く3本の続編まで対象だった。彼が出演したのは、最初の1本だけだった。
※注:ここでいう「グッズ」は、フィギュア、Tシャツ、弁当箱、トレーディングカードといった映画関連商品全般のこと。1989年のアメリカでは、この商品群の売上が映画のチケット代を上回ることも珍しくなくなっていた。
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🃏 ジャック・ニコルソンは1989年の映画『バットマン』への出演にあたり、当時の自分の相場(およそ1000万ドル)を下回る600万ドル(約9億円)で出演料を飲んだ。交換条件として契約に入れさせたのが、興行収入の歩合とジョーカー関連グッズ売上の歩合である。しかもグッズの歩合は『バットマン』1作にとどまらず、『バットマン リターンズ』『バットマン フォーエヴァー』『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』という続編3作分まで及んでいた。出演は最初の1本だけ。それでも受け取った総額は6000万ドル(約90億円)を超え、2025年の物価に直すと1億5000万ドル(約225億円)相当になる。推計の上限まで取れば9000万ドルという説もある。
背景:1989年の『バットマン』は、かなり分の悪い賭けだった
今からするとバットマンは「当てて当然の看板」に見えるが、企画が動いていた1980年代後半のハリウッドでは、まったくそう思われていなかった。ヒーロー映画というジャンル自体が冷え切っていたからである。1987年の『スーパーマンIV 最強の敵』が興行でも批評でも惨敗し、「アメコミ原作の実写は当たらない」というのが業界の共通認識になっていた。
加えて、当時の一般客が「バットマン」と聞いて思い浮かべるのは、1960年代のテレビシリーズだった。アダム・ウェスト主演のあの番組は、殴り合いの場面に「BAM!」「POW!」の文字が出るコミカルな作りで、1980年代後半もまだ頻繁に再放送されていた。原作のコミックはとっくに暗く重い方向へ舵を切っていたのに、世間のイメージだけが20年前で止まっていた。
そこにワーナー・ブラザースが持ってきた布陣が、輪をかけて不安視された。監督のティム・バートンは『ピーウィーの大冒険』と『ビートルジュース』の人。主演のマイケル・キートンは、主夫コメディ『ミスター・マム』で知られる俳優だった。ファンの反発はすさまじく、ワーナーにはキートンの起用に抗議する手紙が5万通届いたと言われる。ウォール・ストリート・ジャーナルが記事にするほどの騒ぎで、慌てて短い予告編を編集して「今度のは真面目にやります」と示す羽目になった。
この座組みの中で、唯一「本気の映画である」という空気を出せる存在がジャック・ニコルソンだった。すでにアカデミー賞を複数回受賞した押しも押されもせぬ大物であり、彼が出るというだけで企画の格が変わる。ポスターでもクレジットでも、ニコルソンの名前はバットマン役より上に置かれた。だからこそ、彼は交渉のテーブルで極端に強い立場にいた。
結果として『バットマン』は世界興行収入4億1100万ドル(約620億円)を叩き出し、その年の最大のヒットになる。関連グッズはコウモリのマークだけで飛ぶように売れ、プリンスが手がけた主題歌「バットダンス」までビルボードの首位に立った。ニコルソンが押さえた「グッズの歩合」は、この熱狂のど真ん中に置かれた蛇口だった。
もう少し詳しく
そもそも「バックエンド契約」とは何か。出演料を撮影前に満額もらう代わりに、公開後の売上から決められた割合を受け取る契約のことを指す。前払い分が減るので当たらなければ損をするが、当たれば青天井になる。ニコルソンが選んだのはこちらで、前払いは相場より4割ほど安い600万ドルに落としている。
「グロス歩合」と「ネット歩合」は天と地ほど違う。歩合には2種類ある。グロス歩合は、制作費も宣伝費も引く前の総収入から取る。ネット歩合は、経費を全部引いたあとの「純利益」から取る。問題は後者で、ハリウッドの会計では宣伝費や配給手数料をいくらでも積めるため、大ヒット作でも帳簿上は赤字ということが起こる。実際、世界で6億ドル以上を稼いだ『フォレスト・ガンプ/一期一会』は、公開後しばらく「純利益なし」の扱いだった。「ネット歩合は紙くず」と業界で言われるのはこのためである。
※注:ニコルソンが取ったのはグロス歩合のほう。一説には興行収入の15%前後とされる。当時の俳優としては前例のない条件だった。
本当に効いたのは、興行より商品のほうだった。チケットの売上は公開から数か月で頭打ちになるが、グッズは違う。1989年のアメリカでは、バットマンのマークが入っていれば何でも売れた。しかもニコルソンの契約は、彼が出ていない続編3本のジョーカー関連商品にまで及んでいる。ジョーカーはバットマンの宿敵として商品ラインの定番であり、彼が出演していない『バットマン フォーエヴァー』が公開された1995年になっても、玩具売り場のどこかにジョーカーの箱があれば、そこから彼に金が流れていたことになる。
交渉したのは本人だけではない。この契約をまとめたのは、ニコルソンの長年のエージェントだったサンディ・ブレスラーである。表に出るタイプではなかったが、業界では屈指の交渉役として知られた人物で、2024年に亡くなっている。「相場より安く受ける代わりに、誰も価値を測れていない権利をもらう」という発想は、俳優一人の思いつきというより、この時代のエージェント業の到達点でもあった。
推計額に幅があるのは、金が何年もかけて入ってくるから。この件の総額は資料によって6000万ドルとも9000万ドルとも書かれる。歩合の入金が10年近くにわたって続いたうえ、内訳が公開されていないためだ。公開の年だけで5000万ドル入ったという当時の報道もある。確実なのは「1本の出演で、その後の人生の稼ぎ方が変わるほどの額だった」という点である。
この契約は業界の作法を変えた。以後、大物俳優が前払いを削ってグロス歩合を求めるのは珍しくなくなる。1988年の『ツインズ』では、アーノルド・シュワルツェネッガー、ダニー・デヴィート、監督のアイヴァン・ライトマンの3人が出演料・監督料をゼロにし、代わりに興行収入の40%を山分けする契約を結んだ。同作は世界で2億1600万ドル(約320億円)を稼ぎ、3人の取り分は8600万ドル(約130億円)に達している。逆に、続編でバットマン役に1500万ドル(約22億円)を提示されたマイケル・キートンは、バートンが降板するならと言って断った。金額の話ばかりに見えて、実は「何と引き換えにするか」を各自が選んだ時代の記録でもある。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
スタジオが飲んだ理由は単純で、ジャックが出ると発表された瞬間に「今度のバットマンは、あのテレビ版とは違うらしい」と世間に思わせられたからだよ。当時はまだ1960年代のシリーズが普通に再放送されていて、みんなの頭の中のバットマンはそっちだった。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
しかも本当にやってのけたのがすごい。予告であの笑い声が流れた時点で、劇場にいた全員が「これは違う映画だ」と理解した。約束を口だけで終わらせなかった。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
監督のティム・バートンだって、あの時点での代表作は『ピーウィーの大冒険』と『ビートルジュース』だからね。ファンは「またふざけたものを作る気か」と大荒れだった。今の評価から逆算すると信じられない話だけど。
4. 海外の名無しさん
当然の報酬だと思う。あの映画を成立させたのは彼だ。ポスターも予告も、売り出されていたのはバットマンよりジョーカーだったし、クレジットでも彼の名前が主役より上に来ていた。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
あの演技が長いこと基準になっていたんだよな。ヒース・レジャーがジョーカー役に決まったとき、マスコミが真っ先に書いたのが「ニコルソンを超えられるのか」だった。今でこそ両方が並び立つ扱いだけど、当時の空気は完全に懐疑一色。
6. 海外の名無しさん(>>5への返信)
「『恋のからさわぎ』と『ロック・ユー!』のあいつが? もう終わりだろ、この企画」——当時そう言っていた側の一人が自分だ。そして観たあとに人生でいちばん見事な手のひら返しをした。ジャックのジョーカーで育った人間だけど、レジャーのも大好きだよ。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
あの件以来、公開前に配役へ文句を言うのはやめようと決めた。演技を観てから話せばいいだけだからね。ただ、彼自身がその称賛をゆっくり味わう時間を持てなかったのだけは、今でもやりきれない。
8. 海外の名無しさん
そもそもなんでスタジオはこんな条件を飲んだんだ。バットマンなんて当時から巨大な看板だろう。歩合を渡さずに、前払いで受けてくれる別の役者を立てる手もあったはずなのに。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
今の感覚だと変に見えるけど、当時ヒーロー映画は死んだジャンル扱いだったんだよ。『スーパーマンIV 最強の敵』の大コケで期待値が完全に地面まで落ちていた。ジャックの名前がなければ企画自体が通らなかった可能性が高い。
10. 海外の名無しさん(>>8への返信)
もう一つの理由は、主役のほうが不安要素だったから。「『ビートルジュース』の監督と『ミスター・マム』の人がバットマンを作る? 冗談だろ」というのが当時の平均的な反応だった。ジャックは保険として必要だったんだ。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
キートンの起用に抗議する手紙が5万通ワーナーに届いて、ウォール・ストリート・ジャーナルが記事にするところまで行ったからね。スタジオは慌てて短い予告編を急ごしらえして「真面目なトーンでやります」と示す羽目になった。
12. 海外の名無しさん
当時の熱狂ぶりを一言で伝えるなら、プリンスの「バットダンス」がビルボードの1位を取った、という事実で足りると思う。映画の主題歌が全米1位だぞ。あの狂騒を知らないと、グッズの歩合がなぜあれほどの金額になるのか実感できない。
13. 海外の名無しさん(>>12への返信)
シングルのカセットを持ってたよ。公開前日の試写に行けたんだけど、翌日学校で誰も信じてくれなかった。うちは家族全員でもう一度観に行った。コミックなんて誰も読まない家なのに、全員がバットマンに浮かれていたんだ。
14. 海外の名無しさん
ダニー・デヴィートとは仲が良くて、続編でペンギン役の話が来たときにジャックへ相談したらしい。返ってきた助言が「俺と同じ契約を取れるようにしろ」だった。演技の話は一言もなし。
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
あんた何を相談されてもそれ言うだろ。誕生日に何が欲しいか聞かれても「俺と同じ契約を取れ」って返してきそうだ。
16. 海外の名無しさん(>>14への返信)
言われなくてもデヴィートは既にやってるんだよな。前年の『ツインズ』で、シュワルツェネッガーと監督のアイヴァン・ライトマンと3人、出演料と監督料をゼロにして興行収入の40%を山分けする契約を結んでいる。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
その『ツインズ』が世界で2億1600万ドル稼いだから、40%だと3人合わせて8600万ドル。出演料をゼロにしたほうが儲かるという実例が、目の前に転がっていたわけだ。
18. 海外の名無しさん
「なぜ俺がいつも笑っているか知りたいか? ……グッズの契約だよ」
※注:後年の『ダークナイト』でジョーカーが繰り返す「この傷の理由を知りたいか?」という台詞をもじった書き込み。
19. 海外の名無しさん
本当に6000万ドルなのかな。公開されたその年の話題として「彼はこの契約で5000万ドル手にした」と報じられていた記憶があるんだけど。初年度だけでそれくらい行っていたなら、生涯の合計はもっと上じゃないのか。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
見積もりに幅があるのは、グッズの歩合が何年もかけて少しずつ入ってくるからだと思う。90年代半ばまでの合計で6000万ドル、生涯で数えると9000万ドルという説もあって、要は誰も正確な数字を出せない。契約書が公開されていないからね。
21. 海外の名無しさん
この映画の配役は後に訴訟につながった、という話をよく見かける。ビリー・ディー・ウィリアムズがハービー・デントを演じたのに、その役がトゥーフェイスになったらトミー・リー・ジョーンズに交代したので、契約違反で訴えた、というやつ。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
それ、訴訟は起きていないんだ。ウィリアムズは1作ごとの契約で、3作目の契約はそもそも結ばれていない。降板料も払われていないし、本人が誰かを訴えた事実もない。両方ともネット上で広まった噂だよ。ちなみに彼は後年『レゴ バットマン ザ・ムービー』でトゥーフェイスの声を当てて、ようやく念願を果たしている。
23. 海外の名無しさん
あの演技がどれだけ大きかったか、みんな忘れていると思う。あれ以降ハリウッドは主役より悪役を前に出して宣伝するようになった。『羊たちの沈黙』も『ディック・トレイシー』も『ロビン・フッド』も、そして『フック』にいたっては悪役の名前がそのまま題名だ。
24. 海外の名無しさん(>>23への返信)
その並びに『ロビン・フッド』を混ぜるのは無理があるだろ。ロビン・フッドは主役で善玉だぞ。悪役は代官のほうだ。
25. 海外の名無しさん
皮肉なのは、その後バートンが離れてジョエル・シュマッカーが監督を引き継いだとき、彼は完全に「アダム・ウェスト版の大画面リメイクを頼まれた」つもりで作っていたことだよ。ジャックが最初に否定してみせた場所へ、たった数年で戻ってしまった。ちなみにキートンは3作目に1500万ドルを提示されたが、バートンがいないならと断っている。
まとめ
出演料を相場より下げる代わりに、興行収入とグッズ売上の歩合を——しかも出演しない続編3作分まで——取りにいったジャック・ニコルソンの契約は、1本の出演で6000万ドル超という結果に結びついた。コメント欄では「取りすぎだ」という声はほとんど出ず、当時ヒーロー映画が死んだジャンルだったこと、監督も主演も不安視されていたことを覚えている人たちが「彼の名前がなければあの企画は動かなかった」と口をそろえていた。話題はそこからマイケル・キートンへの5万通の抗議、プリンスの主題歌が全米1位を取った狂騒、ダニー・デヴィートに授けられた「俺と同じ契約を取れ」という助言へと広がっていく。誰も価値を測れていなかった権利を先に押さえた人間が勝つ、という点では、ずいぶん現代的な話でもある。
元スレッド: ジャック・ニコルソンは1989年の『バットマン』で興行収入の歩合だけでなく、続編3作を含む4作分のグッズ売上の歩合まで契約に入れ、出演は1作だけなのに総額6000万ドル以上を得ていた

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