細胞の中で、酸素を使ってエネルギーを作っているミトコンドリア。この小さな器官は、細胞の核にあるDNAとは別に、自分専用のDNAを持っています。理由は、ミトコンドリアがもともと独立して暮らす細菌だったから。十数億年以上前に別の細胞に取り込まれ、消化されずに住み着いた細菌の子孫が、いまも私たちの体のほとんどの細胞の中で働いています。
今日の知ってた?
🧬 ミトコンドリアは、核のDNAとは別に自分専用のDNAを持っている。ヒトの場合は16,569塩基対の輪の形をしたDNAで、遺伝子は37個。
🦠 その理由は、ミトコンドリアの祖先が独立して生きていた細菌だったから。別の細胞に取り込まれ、そのまま住み着いたと考えられている。これを細胞内共生説という。
🌱 植物の光合成を担う葉緑体も同じで、祖先は光合成をする細菌のシアノバクテリア。
👩 ミトコンドリアのDNAは、ふつう母親からしか受け継がれない。
背景:細胞内共生説とは
動物や植物、キノコやカビの仲間は、核を持つ細胞でできた「真核生物」です。その細胞の中にあるミトコンドリアは、食べ物からとった栄養と酸素を使って、細胞が活動に使うエネルギーの元(ATPという物質)を作っています。
ミトコンドリアと葉緑体は、もともと独立して生きていた細菌で、大昔に別の細胞に取り込まれ、そのまま住み着いた。これが細胞内共生説です。ミトコンドリアの祖先は「αプロテオバクテリア」という細菌の仲間、葉緑体の祖先はシアノバクテリアとされています。根拠として挙げられるのは、細菌とよく似た輪の形のDNAを自前で持っていること、タンパク質を作る装置(リボソーム)が細菌のものに近いこと、二重の膜に包まれていること、そして細胞が一から作ることはできず、すでにあるミトコンドリアや葉緑体が分裂して増えるしかないことです。
取り込みが起きた時期は、研究によって推定に大きな幅があります。ミトコンドリアは約12億年前から約22億年前、葉緑体はそれより後で、約9億年前から約16億年前とする推定があります。植物の細胞はミトコンドリアと葉緑体の両方を持っています。植物の祖先は、すでにミトコンドリアを持っていた細胞が、あとからもう一度シアノバクテリアを取り込んで生まれたことになります。
考え方そのものは古く、1905年にロシアの植物学者メレシコフスキーが葉緑体について、1920年代にはアメリカの解剖学者ウォーリンがミトコンドリアについて唱えていましたが、長く相手にされませんでした。1967年、アメリカの生物学者リン・マーギュリス(1938〜2011年)が、改めてこの説をまとめた論文を発表します。本人の回想によれば、15ほどの学術誌に掲載を断られたあとでした。1978年には、遺伝子やタンパク質の配列を比べて、ミトコンドリアと葉緑体が細菌の子孫であることを示す研究が発表され、1980年代の初めには広く受け入れられるようになりました。
もう少し詳しく
自前のDNAは、ほんの一部だけ。ヒトのミトコンドリアのDNAにある37個の遺伝子の内訳は、タンパク質の作り方が13個、タンパク質を組み立てるときに使うRNA(tRNAとrRNA)の作り方が22個と2個です。ところが、哺乳類のミトコンドリアで働くタンパク質は約1500種類あり、そのほとんどは核のDNAに作り方が書かれていて、細胞の中で作られてからミトコンドリアに運び込まれます。もとの細菌が持っていた遺伝子の多くは、長い年月のあいだに失われたり、核のDNAに移ったりしたと考えられています。ミトコンドリアは、もう細胞の外では生きていけません。
母から子へだけ受け継がれる。卵子にはたくさんのミトコンドリアが入っている一方、精子のミトコンドリアは、受精したあと卵の中でふつうは分解されてしまいます。そのため、ミトコンドリアのDNAは母親から子へ、そのまま受け継がれます。1987年には、アメリカの研究チームが世界各地の147人のミトコンドリアDNAを比べ、母方の系図をさかのぼると、全員がアフリカにいた1人の女性に行き着くと発表しました。この女性は、のちに「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれるようになります。生きていた時期の推定は約10万〜23万年前と幅があります。ただし、当時ほかに女性がいなかったという意味ではありません。母親だけをたどる系図で、いまの全員につながっているのがこの女性だけ、ということです。
宿主はどんな細胞だったのか。日本の研究チームの成果。有力な説では、細菌を取り込んだ側は「アーキア(古細菌)」と呼ばれる微生物の一種で、そのなかの「アスガルド古細菌」というグループに属すると考えられています。2020年、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の井町寛之さんと産業技術総合研究所の延優(のぶ・まさる)さんらのチームが、このグループの古細菌を世界で初めて培養し、科学誌『ネイチャー』に発表しました。もとになったのは、2006年に有人潜水調査船「しんかい6500」が、紀伊半島沖の南海トラフで、水深2533メートルの深海の海底から採った泥です。育つまでに12年かかりました。
「プロメテオアーキウム・シントロフィカム」と名付けられたこの古細菌は、数が倍になるのに約14〜25日かかるほど増えるのが遅く、ほかの微生物と一緒でなければ育ちませんでした。細胞の表面からは、長く枝分かれした触手のような突起を伸ばします。研究チームは、祖先の古細菌が、酸素を使う細菌(ミトコンドリアの祖先)とこうした突起で絡み合い、やがて包み込んで1つの生き物になったとする「E3モデル」を提唱しています。E3は、Entangle(絡みつく)、Engulf(飲み込む)、Endogenize(内側に取り込んで一体になる)という3つの英単語の頭文字です。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
要約すると、ミトコンドリアは、核を持つ細胞がまだ地球にいなかった時代の細菌。酸素を使えない古細菌が、酸素を使える細菌を取り込んだ。でも消化しないで、持ちつ持たれつの関係になった。細菌は細胞のためにエネルギーを作り、細胞は細菌に安全な住みかと増える場所を与えた。それがやがて、核や膜で仕切られた器官を持つ、最初の真核細胞になったわけだ。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
「消化しないことにした」みたいに、どっちかが選んだように言うのはちょっと違うと思う。たまたま消化されずに残る変わり種がいて、それが結果的に有利だったから、その組み合わせが生き残って増えた、ってことでしょ。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
それに、いきなり飲み込んだという筋書きより、最近は「古細菌と細菌はもともと外でくっついて助け合って暮らしていて、そのうち古細菌が相手を丸ごと包み込んだ」という見方の方が有力なんだよ。日本の研究チームが深海の泥から育てた古細菌も、ほかの微生物と一緒じゃないと増えなかったらしいし。
4. 海外の名無しさん
大学で、この説を世に広めたリン・マーギュリス本人の授業を受けたことがある。歯に衣着せない豪快な人で、本当に憧れの先生だった。最初の夫は天文学者のカール・セーガン。ガイア仮説も唱えた一人で、どっちも正しかったんだからすごいよ。
※ カール・セーガン:天文学者。テレビ番組『コスモス』で知られる。ガイア仮説:地球の生き物と環境が影響し合い、地球全体が1つのしくみのように環境を調節しているとする考え。イギリスの科学者ジェームズ・ラブロックとマーギュリスが唱えた。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
細胞内共生説は証拠で裏付けられたけど、ガイア仮説の方は「証明された」とまでは言えないよ。それに晩年は、エイズの原因をめぐって主流と違う説を唱えたり、9.11のテロは仕組まれたものだと主張したりして、強く批判された。偉大な功績はあるけど、言ったことが全部正しかったわけじゃない。
6. 海外の名無しさん
そしていつか、ミトコンドリアが反乱を起こして、人類を滅ぼそうとするわけだな。十数億年も下働きさせられてきたんだから。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
それ、まんま『パラサイト・イヴ』のあらすじじゃん。ミトコンドリアが宿主の人間に反旗を翻すやつ。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
全部覚えてるよ。1997年のクリスマス・イブ、カーネギーホール。あの夜からすべてが始まったんだ。
※『パラサイト・イヴ』:瀬名秀明の小説。1995年に第2回日本ホラー小説大賞を受賞し、ミトコンドリアが宿主の人間に反乱を起こす話として話題になった。1997年に映画化。1998年にはスクウェアが、小説の続編にあたるプレイステーション用ゲームを出し、同じ年に北米でも発売された。ゲームの舞台は1997年のニューヨークで、クリスマス・イブのカーネギーホールの場面から物語が始まる。
9. 海外の名無しさん(>>6への返信)
反乱する理由がないでしょ。向こうから見れば、エサを集めて運んできて、外の危険からも守ってくれる巨大な乗り物をもう手に入れてるんだから。人間がミトコンドリアを飼ってるのか、ミトコンドリアが人間を飼ってるのか、わからなくなってくる。
10. 海外の名無しさん
ミトコンドリアは細胞の発電所。学校の生物の授業で覚えてるのは、正直これだけ。
※ 英語圏の学校で、生物の授業の定番として必ず習う一文(the powerhouse of the cell)。ネットでは「授業で覚えているのはこれだけ」というお約束のネタになっている。1957年にアメリカの生化学者フィリップ・シーケヴィッツが科学雑誌に書いた記事のタイトルが、この呼び名を広めたとされる。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
だから、もし刑務所に入ることになったら、あだ名は「ミトコンドリア」にしてもらうって決めてる。なにせ発電所だ。強そうだろ。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
危ないぞ。ミトコンドリアは母親からしか受け継がないんだから、「そのあだ名も母ちゃん譲りか」って、母ちゃんネタで延々いじられる。俺なら「カスパーゼ3」と名乗る。細胞に死を言い渡す処刑人だ。
※ カスパーゼ3:細胞が自分から死ぬしくみ(アポトーシス)の最後の段階で、細胞の中身を分解していく酵素。その役割から、英語では「処刑人(executioner)」と呼ばれる。
13. 海外の名無しさん
ついでに豆知識。自分のミトコンドリアのDNAは、両親のDNAが混ざったものじゃない。母親からだけ受け継いだものなんだ。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
細かいことを言うと、母親の染色体を受け継ぐのとは別の話ね。卵子に入っていたミトコンドリアがそのまま子に引き継がれるってこと。精子にもミトコンドリアはあるけど、受精したあと卵の中で分解されて消えちゃう。
15. 海外の名無しさん(>>13への返信)
だから母方の血筋をたどる鑑定にすごく役に立つ。母方でつながっているかどうかは、ほぼ間違いなく確かめられる。ロシアのロマノフ家の遺骨の確認にも使われたんだ。皇后アレクサンドラと娘たちの骨から取ったミトコンドリアDNAが、イギリスのフィリップ殿下(エリザベス女王の夫)のものと一致した。殿下の母方の祖母が皇后の姉で、全員がヴィクトリア女王から母親だけをたどってつながる家系だったから。
※ ロマノフ家:ロシア最後の皇帝ニコライ2世の一家。1918年に革命政権によって殺害された。遺骨とみられる骨が1991年にエカテリンブルク近郊で掘り出され、1993年にイギリスの研究チームがDNA鑑定の結果を発表した。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
ほぼ間違いないのはそのとおりだけど、例外がゼロってわけでもない。2002年にデンマークで、筋肉のミトコンドリアDNAの約9割が父親から来ていた28歳の男性が報告されてる。その後、同じような患者を調べた研究では見つからなかったから、本当に例外中の例外。
17. 海外の名無しさん
しかも、細胞が破れてミトコンドリアが外に出てくると、免疫細胞がそれを攻撃するんだよね。自分の体の一部だと思ってない。全員が持ってるのに。想像してみてよ。人が死んだら胸から小さいウサギが飛び出してきて、周りがみんな大騒ぎ。でも実は、騒いでる全員の胸にもウサギがいる。
18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
付け足すと、細胞が破れたら、免疫細胞はミトコンドリアに限らず中身を全部食べて片付ける。攻撃というより掃除だね。ただ、ミトコンドリアは元が細菌だからDNAなどが細菌に似ていて、大けがをしたあとに、血液に出てきたミトコンドリアのかけらに免疫が反応し、細菌に感染したときのような炎症を起こす、という研究はある。
19. 海外の名無しさん
ずっと不思議なんだけど、細胞が細菌を食べて消化しなかった、までは分かる。でもそのあとどうやって代々続いたの?外側の細胞が分裂するたびに、中の細菌もうまい具合に分裂したってこと?それが何度も?科学者を疑ってるんじゃなくて、この部分がどうしても飲み込めない。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
外側の細胞が分裂する前に、中の細菌がもう何匹にも増えてたんだと思う。そうすれば分裂したとき、両方の細胞に何匹かずつ入る。微生物の世界は数がけた違いだから、たまにうまくいけば十分なんだ。いまでもミトコンドリアは、細胞の分裂とは関係なく、しょっちゅう自分で分裂したり、くっついたりしてる。
21. 海外の名無しさん
植物の葉緑体も同じだよ。光合成をする細菌が元で、自前のDNAを持ってる。私たちの食べ物も、元をたどればほとんどはこの細菌の子孫が光合成で作ったものなんだよな。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
面白いのは、植物の細胞にはミトコンドリアもあるってこと。植物の祖先は、一度うまくいった同居をもう一回やってみて、それがまたうまくいったわけだ。
23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
しかもまだ続いてるかもしれない。2024年に、海にすむ単細胞の藻の中で、窒素ガスを取り込んで栄養に変える細菌が、細胞小器官と言える段階まで来ているという研究が出た。「ニトロプラスト」と名付けられて、始まりは約1億年前とみられてる。
24. 海外の名無しさん
もっとびっくりする話をしよう。ミトコンドリアは自分で分裂して増える。そのための道具を一通り持ってるんだ。細胞の中に住んでる小さな生き物だと思ってもいいくらいだよ。
25. 海外の名無しさん(>>24への返信)
一通りは持ってないよ。ミトコンドリアで働くタンパク質は哺乳類で約1500種類あるのに、自前のDNAで作れるのは13種類だけ。残りは核のDNAに書かれていて、外から運び込まれてる。もう細胞の外では生きられない。住み着いて十数億年、すっかり家の一部になった居候だね。
まとめ
ミトコンドリアが自前のDNAを持っているのは、十数億年以上前に別の細胞に住み着いた細菌の子孫だからです。コメント欄では、母から子へだけ受け継がれる性質がロマノフ家の遺骨の鑑定に使われた話や、働くタンパク質の大半はいまや核のDNA頼みだという話が出ました。「いつか反乱を起こす」という冗談には『パラサイト・イヴ』を思い出す人も。話は葉緑体や2024年のニトロプラストにまで広がりました。

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