主演俳優が、撮影の途中で亡くなった。まだ撮り残した場面がある。普通なら、そこで作品は終わる。ところがこの映画は、その穴そのものを物語の設定に作り替えて完成した。しかも空いた穴を埋めるために集まった3人の大物俳優は、そろってギャラを受け取らずに帰っている。
※注:『Dr.パルナサスの鏡』(原題 The Imaginarium of Doctor Parnassus)は、テリー・ギリアム監督が2009年に完成させた映画で、日本でもこの題で公開された。不老不死の見世物一座を率いるパルナサス博士が、悪魔と賭けを続けている——という筋立てで、一座が持ち歩く大きな鏡をくぐると、その人の心の中の風景がそのまま世界として広がる。監督のギリアムは『12モンキーズ』などで知られる、視覚的な悪夢を作らせたら右に出る者がいないタイプの人である。
今日の知ってた?
🪞 2008年1月、『Dr.パルナサスの鏡』の撮影中にヒース・レジャーが急逝した。監督のテリー・ギリアムは脚本を書き直し、レジャーが演じる主人公トニーが「鏡をくぐるたびに別の顔になる」という設定に変更。空いた場面をジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が引き継ぎ、3人とも自分のギャラを全額、レジャーの娘マチルダに渡した。
背景:撮り残されていたのは「鏡の向こう」だけだった
ヒース・レジャーが亡くなったのは2008年1月、ニューヨークでのことだった。当時28歳。『ブロークバック・マウンテン』で高い評価を受け、この直前には『ダークナイト』の撮影を終えたばかりで、俳優としてはまさにこれからという時期にあたる。死は事故として結論づけられており、ここではそれ以上立ち入らない。この記事で追いたいのは、残された現場が何をしたか、のほうである。
ロンドンでの撮影分は終わっていたが、この時点で『Dr.パルナサスの鏡』はまだ完成していなかった。主演が抜けた映画に待っているのは、普通なら中止か、良くてお蔵入りである。ギリアムはもともと企画が難破することで有名な監督で、何年も頓挫し続けた別の企画を抱えていた人でもある。関係者が最悪の展開を思い浮かべたとしても、無理はなかった。
ところが、撮影スケジュールの組み方が偶然の味方をした。レジャーが撮り終えていたのは、ほぼすべてが「現実世界」の場面だったのである。逆に、まだ一度もカメラを回していなかったのが、鏡をくぐった先の「想像の世界」の場面だった。つまり残っていたのは、この映画のなかで唯一、常識が通用しないことになっている領域だけだった。
もう少し詳しく
鏡は、もともと人を作り変える装置だった。ギリアムが出した答えは、代役を1人立てて誤魔化すことではなかった。鏡の向こうはくぐった人間の想像がそのまま形になる世界だ、という設定が最初から脚本にある。ならば、そこに入ったトニーの顔が変わっても、誰にも説明する必要がない。撮影の事故を、物語の内側で処理できる形に変換したわけである。最初に鏡をくぐった先に現れるのがジョニー・デップ、続いてジュード・ロウ、最後にコリン・ファレルという並びになった。
3人は全員、ギャラを受け取らなかった。3人ともレジャーと親しい間柄だった。デップはギリアム作品の常連でもある。そして彼らは自分の出演料を全額、レジャーの娘マチルダに渡すことにした。背景には、レジャーが残していた遺言が娘の生まれる前に作られたもので、彼女の名前がどこにも入っていなかったという事情がある。俳優が決断した時点では、遺産をどう扱うかはまだ何も片付いていなかった。
周りを固めているのも濃い面々である。パルナサス博士を演じたのはクリストファー・プラマー、博士と賭けを続ける悪魔役はミュージシャンとしても知られるトム・ウェイツ、娘バレンティナ役はモデル出身のリリー・コール。さらに、のちに大きな役を掴むアンドリュー・ガーフィールドが若手として出ている。完成した映画は、賛否がきれいに割れる作品になった。海外の掲示板でも、その割れ方がそのまま出ている。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
まだ観てないけどそろそろ観ないとな。ちなみにトム・クルーズも「自分がレジャーの役を継ごうか」と申し出たけど断られたらしい、という話がある。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
断られた理由は単純で、デップとロウとファレルはレジャーと親しかったけど、クルーズはそうじゃなかった、ということみたい。監督は「身内で固めたい」と考えていたそうだ。
3. 海外の名無しさん(>>2への返信)
まあギリアムとクルーズって、どっちも現場の舵を自分で握っていたいタイプだからね。噛み合ってる姿があまり想像できない。
4. 海外の名無しさん
賢いのは、代役を1人だけ立ててこっそり差し替える、という方向に行かなかったところだよ。鏡をくぐると顔が変わる、という作品自体の仕掛けに乗せてしまった。事故を物語の内側で処理してる。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
運が味方した部分も大きい。彼が撮り終えていたのはほぼ現実世界の場面で、まだ残っていたのが鏡の中の場面だった。順番が逆だったら、この解決策は使えなかった。
6. 海外の名無しさん
要するに『ドクター・フー』の再生を、シーズンをまたがずに一本の映画のなかで一気にやったようなものだな。あれも顔が変わっても誰も驚かない世界観だし。
7. 海外の名無しさん
ジョニー・デップがコリン・ファレルに変身する映画がこの世に2本ある。多いとは言えないけど、2回も起きてるという事実がちょっと面白い。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
もう一方(『ファンタスティック・ビースト』のほう)では逆に、コリン・ファレルがジョニー・デップに変わるんだよな。あれはこっちとしては残念な方向の変身だった。
9. 海外の名無しさん
公開当時に観てピンと来なかった人、もう一度観てみてほしい。自分は再見して普通に好きになった。話の運びも監督の演出も、初回より遥かに面白く感じた。合わない可能性はもちろんあるけど、試す価値はある。
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
ギリアムは自分の好きな監督のひとりだ。特に『12モンキーズ』が本当に好きで、あの人の頭の中がどうなってるのか一度覗いてみたい。
11. 海外の名無しさん
正直に言うと、自分にはそこそこの映画だった。良い場面はあるんだけど、途中で何度か退屈もした。俳優が入れ替わる仕掛けが物語に活きていた記憶もない。まあ公開当時に一度観たきりなんだけど。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
そう感じるのは当然かもしれない。物語自体はもう書き上がっていて、彼が亡くなったから「主人公の見た目が変わる」を後から足しただけなんだ。設定を先に思いついて作った話じゃない。
13. 海外の名無しさん
衣装と美術は最高だった。画づくりは本当に素晴らしい。ただ、こんなに絵を覚えているのに筋書きをまったく思い出せないというのも、それはそれで問題な気がする。
14. 海外の名無しさん
映画史上いちばん良い悪魔のキャスティングだと思ってる。意地の悪い、くたびれた年寄りの悪魔をやらせたら、トム・ウェイツを超える人はそういない。声からしてもう反則だよ。
15. 海外の名無しさん(>>14への返信)
同意する。あの映画のいちばん良いところはトム・ウェイツ、というのは言い過ぎでもなんでもない。彼が画面に出ている間だけ、作品の座標が定まる感じがある。
16. 海外の名無しさん
3人の行動が立派なのは間違いないんだけど、補足しておくと、娘さんは結局きちんと相続している。遺言が彼女の生まれる前のものだったので、両親ときょうだいが自分たちの取り分を放棄したんだ。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
ただ、3人が寄付を決めたのは遺産の話が片付くより前だからね。母親のミシェル・ウィリアムズは当時ほぼ休業状態で、これからひとりで育てるところだった。この手の話は遺族同士で長く揉めるほうが普通なので、全員が同じ方向を向いたのはかなり珍しい。
18. 海外の名無しさん
ところでリリー・コールって、最近まったく見かけないんだけど今なにをしてるんだろう。あの独特な顔立ちで一時期どこにでも出てた印象があるのに。
19. 海外の名無しさん(>>18への返信)
慈善活動をやったり、本を書いたり、自分で会社を回したりしている。演技も完全にやめたわけじゃなくて、たまに出ているよ。単に映画の主演をやらなくなっただけ。
20. 海外の名無しさん
この映画、過小評価されすぎだと思う。あとアンドリュー・ガーフィールドがすごく良い。まだ誰も彼を知らなかった頃の演技なので、いま観ると余計に面白い。
21. 海外の名無しさん
豆知識をひとつ。デップはこの時点ですでにギリアム組で、1998年の『ラスベガスをやっつけろ』で主演している。だから急に呼ばれた助っ人というより、勝手を知っている人が戻ってきた形だった。
22. 海外の名無しさん
自分が観た映画館では、鏡の向こうにデップが出てきた瞬間、客席全体から「あー…」という声が漏れた。悪意はないんだけど、当時の彼はどこにでも出ていたので、みんな一瞬で現実に引き戻された感じ。
23. 海外の名無しさん
寄付の話が美しいのは本当にそのとおりとして、作品としては「主演が撮影中に亡くなった映画」に見える、というのも正直なところだと思う。継ぎ目は隠しきれていない。
24. 海外の名無しさん(>>23への返信)
それはある。だからこそ、当初の構想のまま完成した版も観てみたかったんだよな。世界の作り込みがあれだけ良かったから、本来の形だったらどこまで行っていたのか気になる。
まとめ
撮影中に主演を失った映画が、その空白を「鏡をくぐると顔が変わる」という設定に変換して完成し、穴を埋めた3人がそろってギャラを娘に渡した——という一件。海外のコメント欄は感動一色にはならず、「この解決策は構造的に賢い」という称賛と、「映画そのものは正直とっ散らかっている」という辛口が同じ数だけ並んでいた。そのうえで「当初の形も観たかった」という声が両側から出てくるあたりに、この作品の立ち位置がよく出ている。
元ソース: 『Dr.パルナサスの鏡』の撮影中にヒース・レジャーが亡くなったとき、テリー・ギリアムは主人公が鏡をくぐると姿が変わるよう脚本を書き直し、3人の俳優が役を引き継いでギャラを娘に贈った

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