店の名前は「ハートアタック・グリル」。そのまま訳せば「心臓発作グリル」である。店員はナース服を着て、客は病院用のガウンを羽織り、メニューには心臓手術の名前が並んでいた。全部ジョークのつもりで組み上げられていたはずのその店で、2012年2月11日、本当に心臓発作が起きた。
今日の知ってた?
📏 2012年2月11日、アメリカ・ラスベガスのハンバーガー店「ハートアタック・グリル」で、客が「トリプル・バイパス・バーガー」を食べている最中に心臓発作を起こしたと報じられた。このバーガーは1個9,983キロカロリー。さらに店の方針では、体重350ポンド(約159キロ)を超える客は食べ放題が無料になった。店は現在、閉店している。
背景:メニュー名も店員の服装も、全部本気だった
この店のコンセプトは「病院」である。客は患者、店員は看護師、注文はカルテ。入店した客には病院用のガウンが渡され、リストバンドが巻かれる。ナース服の店員が注文を取りに来て、食べ終わってふらついている客は車椅子で入口まで送られる。冗談としてやっているのだが、冗談のわりに設備が本格的すぎるところに、この店の異様さが詰まっていた。
看板メニューは「バイパス・バーガー」。心臓の血管が詰まったときに、詰まった箇所を迂回する別の血管をつなぐ手術——冠動脈バイパス術のことである。パティ1枚が「シングル・バイパス」、3枚重ねれば「トリプル・バイパス」。チャレンジメニューとして8枚重ねの「オクタプル・バイパス」まで用意されていた。名前の付け方から、店の側が何を売っているのか完全に自覚していたことがわかる。
※注:店があったフリーモント・ストリートは、ラスベガスでも古くからある繁華街。巨大カジノホテルが並ぶ「ストリップ」に対し、こちらは小ぶりで雑多な、昔ながらの観光エリアとして知られる。
9,983キロカロリーという数字は、日本の感覚に置き換えるとつかみにくい。成人が1日に必要とするエネルギーはおおよそ2,000〜2,500キロカロリーだから、1個で4〜5日分ということになる。朝昼晩と間食を4日ぶん積み上げて、それを1食で片づける計算だ。元スレッドのコメント欄でも、この換算をやってみせた人が「4日ぶんだぞ」と半ば呆れていた。
もう少し詳しく
無料になるには、まず体重計に乗る必要があった。「350ポンド超は無料」の判定は自己申告ではなく、店に置かれた大型の体重計で行われた。ただし元スレッドの指摘によれば、無料になるのはいちばん小さい「シングル・バイパス」だけで、しかも1個ごとにドリンクを注文する決まりだったという。無制限に食べ放題というより、「体重を公開する代わりにハンバーガーがついてくる」という交換条件に近い。
ビーガン向けのメニューも一応あった。紙のメニューには、菜食主義者向けの選択肢として「無濾過のラッキーストライク」と書かれていた。ラッキーストライクは実在するアメリカのタバコの銘柄で、無濾過(フィルターなし)はその中でもきつい部類にあたる。動物性の材料は確かに一切入っていない。店のブラックジョークの中でも、この一行がいちばん有名になった。
広報役を務めた男性は、29歳で亡くなっている。店の看板役として広告に出ていたブレア・リヴァーさんは、体重575ポンド(261キロ)。彼は心臓発作の一件より前、2011年3月1日に29歳で亡くなった。店のコンセプトを笑うにせよ批判するにせよ、この一行を素通りするのは難しい。掲示板でも、ここを引用したコメントに数千の支持が集まっていた。
そして21年目に、店は自分から幕を引いた。閉店は2026年5月。店がウェブサイトに掲げた声明は、最後まで店らしいものだった。曰く、大手カジノが「手頃な贅沢」というアメリカらしい体験から一般人を締め出してしまった。40ドルの「職人仕込みアボカドトースト」を売る街に、自分たちの「大きく食って大きく笑う」という価値観はもう合わない。そして——「開店した2005年に30%だったアメリカの肥満率は、今や45%近い。その先頭に立ってきたことを、我々は誇りに思う」。最後の一行まで、店は自分の役柄を降りなかった。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
「これが、”好きなだけ食べた”人間のすることに見えますか?」——食べ放題の店を訴えるアニメの法廷シーンの名台詞が、ここまでぴったりハマる実話があるとは思わなかった。しかもこの店の場合、訴える先が見当たらないのが厄介なところだ。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
その台詞、俺のことを言われている気がして正座で読んでしまった。心当たりがある人間ほど笑えないやつだ。というかこの店、最初から「訴えられない設計」で作られてるんだよな。看板に全部書いてあるんだから。
3. 海外の名無しさん
ここに引用しておく。「この店の広報担当だった575ポンド(261キロ)のブレア・リヴァーは、2011年3月1日、29歳で死去した」。ジョークとして消費する前に、この一文だけは読まれてほしい。
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
261キロというのは、健康な成人男性3人ぶんの体重だ。数字だけ見ると現実感がなくなるけど、体を運ぶための心臓は1つしかないわけで。そう考えると29歳という年齢のほうが重く響いてくる。
5. 海外の名無しさん(>>3への返信)
店のブラックジョークは全部本人たちのものだからいいとして、広告塔として起用された人が実際に29歳で亡くなっているという事実は、たぶんこの話でいちばん笑えない部分だと思う。ネタとして扱われるうちに、人の名前だけが記号になっていく。
6. 海外の名無しさん
歴史上でいちばん正直な商売だったと思う。名前で警告し、メニュー名で警告し、店員の服装でも警告している。ここまで自己申告してくる店を他に知らない。誠実さの方向がおかしいだけで、誠実ではあった。
7. 海外の名無しさん(>>6への返信)
皮肉なのは、オーナーがもともと健康志向の飲食店をやろうとして失敗しているという点だ。それで「もういい」と開き直って、思いつくかぎり最も不健康な店を作った。売れなかった正論の裏返しとして生まれた店なんだよ。
8. 海外の名無しさん
カロリーばかり話題になるけど、俺が気になるのはナトリウムの量だ。あの構成でどれだけ入っているのか想像もつかない。(追記)調べたら約6,500ミリグラムらしい。倒れた原因はたぶんこっちだ。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
検索しに行く人のために書いておくと、アメリカ心臓協会が推奨しているのは1日2,300ミリグラム以下だよ。つまり1食で3日ぶん近い。血圧の話をするなら、カロリーよりこっちの数字のほうがよほど直接的だ。
※注:ナトリウム6,500ミリグラムは、食塩に換算するとおよそ16.5グラム。日本の食事摂取基準が示す1日の目標量(成人男性7.5グラム未満、成人女性6.5グラム未満)の2倍以上にあたる。
10. 海外の名無しさん
一応言っておくと、1万キロカロリーのバーガー1個でこの人の心臓がどうにかなったわけじゃない。効いたのは、それまでの人生でかけ続けた1,000キロカロリーのハンバーガー数千個ぶんのほうだ。請求書がたまたまその日に届いただけ。
11. 海外の名無しさん(>>10への返信)
医学的にはそのとおりなんだけど、この店は「請求書が届く日を前倒しする装置」としてはかなりよく出来ていたと思う。1食で4日ぶん食べさせて、しかも太っているほど安くなる。自己責任という言葉だけで片づけるには、設計が意図的すぎる。
12. 海外の名無しさん
少なくとも誇大広告では訴えられない。ちゃんと心臓発作が起きたんだから、看板に偽りなしだ。……と書いてから、これを笑っていいのか3秒くらい迷った。迷ったけど笑った。
13. 海外の名無しさん
フリーモント街は何十回も歩いたけど、この店に入りたいと思ったことは一度もなかった。メニューだけの問題じゃなくて、客が全員病院着を羽織って、店員がナース服で歩き回っているのが、なんというか完全に別の時代の空気だったんだよ。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
しかも料理を残すと、店員に木のパドルで尻を叩かれる決まりだった。今それをやる店を新規に出そうとしたら、企画会議の最初の10分で止まると思う。よく21年もったな。
15. 海外の名無しさん
いちばん好きな豆知識は、この店のビーガン向けメニューが「無濾過のラッキーストライク」だったこと。たしかに動物性の材料はゼロだ。反論の余地がないのが腹立たしい。
16. 海外の名無しさん(>>15への返信)
アメリカ人じゃないので検索してしまった。他の国の人のために書いておくと、これはタバコの銘柄です。つまりこの店は、食べても吸っても客を同じ場所に連れていく気だったということになる。方法を選ばせてくれるだけ親切なのかもしれない。
17. 海外の名無しさん
オーナーがどれだけ振り切っていたかが記事に書かれていないのが惜しい。経済メディアの取材で「自分の店で広報担当が亡くなったことをどう思うか」と聞かれたとき、彼は火葬された遺灰の入った袋をテーブルに置いて、「うちは死ぬと最初から言っている。その正直さを誇りに思う」という趣旨のことを答えたそうだ。
18. 海外の名無しさん(>>17への返信)
実在の人物というより、悪役として描かれた漫画のキャラクターの行動だ。ただ、それを「正直さ」と呼んでしまえるかどうかは別の話で、遺灰を持ち歩いた時点で、正直さの話ではなく演出の話になっていると思う。
19. 海外の名無しさん
閉店の少し前に、日本のプロレスラーが来店して「オクタプル・バイパス・チャレンジ」を完食したらしい。相撲取りみたいな体格の人を想像していると、実際の映像を見てひっくり返ることになる。全然そんな体型じゃない。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
不思議なもので、世界の大食い競技のトップ層はほぼ全員が細身なんだよ。内臓脂肪が少ないほうが胃が広がる余地があるからだ、という説明を読んだことがある。つまり「350ポンド超は無料」という条件は、いちばん食べる層を最初から除外していたことになる。
21. 海外の名無しさん
太っている人ほど無料になる仕組み、経営として成立するのが本気で謎だ。原価を回収する気がないとしか思えない。これで21年続いたなら、飲食店の常識を疑ったほうがいいレベルだと思う。
22. 海外の名無しさん(>>21への返信)
無料になるのはいちばん小さい「シングル・バイパス」だけで、しかも1個につき飲み物を1杯注文する必要があった。つまり実質は「珍しい体験と引き換えにドリンクを売る」商売で、思ったよりずっと計算されている。
23. 海外の名無しさん
よし、俺はアルコール依存症の人が無料で飲めるバーを開くことにする。これで一儲けできるはずだ。……と書いてから、待てよ何かおかしいぞ、と自分でも思い始めている。
24. 海外の名無しさん(>>23への返信)
いいね。さらに、飲みながら遊べる機械を置こう。光って音が鳴って、隣の人と会話しなくて済むように間隔をあけて並べる。酒が入れば判断も鈍るし、退屈が苦手な人ほど長く座ってくれる。飲み物はタダで配ってもいい。運がよければ大金が手に入るという触れ込みにしておけば、大半の人は給料と引き換えに後悔を持って帰ってくれる。……というのを、この店があった街ではもう50年くらい前からやっていた。
25. 海外の名無しさん
閉店の告知文がすごい。「開店した2005年に30%だったアメリカの肥満率は、今や45%近い。その先頭に立ってきたことを我々は誇りに思う」と本気で書いてある。21年間ずっと同じ調子で、最後まで役を降りずに看板を下ろした。悪趣味な店だったし、笑って済ませていい話でもない。それでも、これ以上一貫した終わり方はちょっと思いつかない。
まとめ
2012年2月11日、ラスベガスの「ハートアタック・グリル」で、客が9,983キロカロリーの「トリプル・バイパス・バーガー」を食べている最中に心臓発作を起こしたと報じられた。体重350ポンド(約159キロ)超は食べ放題無料という方針を掲げ、店員はナース服、客は病院着という徹底ぶりで、2005年から21年間営業した。コメント欄は「名前で警告している時点で史上最も正直な商売」と笑う声が大半だったが、575ポンドの広報役が29歳で亡くなっていた事実が引用されると、途端に温度が下がる。「1食で倒れたのではなく、それまでの人生の請求書が届いただけ」という自己責任寄りの意見に対し、「請求書の到着を前倒しする装置としてよく出来すぎている」と返す人がいて、この店をどう評価すべきかは最後まで割れたままだった。閉店の告知文で肥満率の上昇を自らの功績として誇ってみせたのも含めて、笑いと後味の悪さがずっと同居し続けた話だった。

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