詩の感想を求められて、返ってきた言葉が「私を採石場に戻してくれ」。約2400年前のシチリア島で、絶大な権力を握る僭主に向かって放たれたこの一言は、古代でも屈指の痛烈なジョークとして、今もこうして語り継がれている。
※注:僭主(せんしゅ)とは、古代ギリシャで世襲や選挙によらず実力で権力を握った独裁者のこと。しばしば「暴君」とも訳される。採石場(さいせきじょ)は、シラクサで石材を切り出す現場であると同時に、囚人が酷使された過酷な刑場でもあった。
今日の知ってた?
📏 古代シラクサの僭主ディオニュシオス1世は、自作の詩を自慢していたが、人気詩人フィロクセノスに酷評され、腹を立てて彼を採石場(牢獄)に1日投獄した。翌日に釈放して別の詩を読み聞かせ、感想を求めると、フィロクセノスは王に一言も返さず、そばの衛兵に向かってこう言ったと伝わる——「私を採石場に戻してくれ」。
背景:ディオニュシオス1世とは
ディオニュシオス1世は、紀元前405年ごろから前367年までの約40年間、シチリア島の有力都市国家シラクサを支配した僭主だ。宿敵カルタゴと幾度も戦って領土を広げた軍事指導者として知られ、投石機(カタパルト)を地中海世界の攻城戦に本格的に持ち込んだ先駆者の一人とも言われる。
その一方で、彼は芸術家としての名声を強く渇望していた。宮廷には歴史家フィリストスや詩人フィロクセノス、さらには哲学者プラトンといった文化人を集め、自らも熱心に詩を書いた。とりわけ文芸大会で勝つことへの執着が強かったと伝わる。ただし詩の評判は芳しくなく、オリンピアの祭典に出した自作はブーイングを浴びた、という逸話まで残っている。
もう少し詳しく
「私を採石場に戻してくれ」の一部始終。この逸話を伝えるのは、紀元前1世紀の歴史家ディオドロス(ディオドロス・シクルス)だ。彼の『歴史叢書』によれば、ディオニュシオスは戦争のない平和な時期に詩作へ没頭し、自作を披露しては周囲の称賛を求めていた。詩人フィロクセノスが正直な感想を述べると王は激怒し、彼を採石場送りにする。翌日、友人たちの嘆願で釈放されたものの、王が再び新作を読んで感想を求めると、フィロクセノスは一言も返さず、衛兵にこう命じたという——「私を採石場へ連れ戻してくれ」。なお同じ話は、後世の伝記作家プルタルコスも別の著作で紹介している。
酷評した詩人は、当代きっての有名人だった。フィロクセノス(キュテラのフィロクセノス)は、ディテュランボスと呼ばれる合唱詩の名手として絶大な人気を誇った詩人だ。アテネの評議会から称賛の決議を受け、ある喜劇の登場人物には「人間界の神」とまで評されたと伝わる。これほどの大物だったからこそ、暴君を前にしても忖度せず本音を口にできたのだろう、と見る向きもある。
酷評され続けた王は、最後に念願を叶えていた。意外なことに、ディオニュシオスは晩年、アテネのレナイア祭という演劇コンクールで、『ヘクトルの身代金』という悲劇を上演して実際に優勝している。長年こきおろされてきた末の受賞によほど舞い上がったのか、祝いの宴で度を超して飲み、それがもとで命を落としたとする説もある。
「ダモクレスの剣」も、この宮廷の物語。頭上に細い糸で吊るした剣の下で食事をさせられる——権力者の地位がいかに危ういかを示す有名なたとえ「ダモクレスの剣」も、このディオニュシオスの宮廷で生まれた逸話とされる。猜疑心の強さでも知られ、寝台の周りに堀を巡らせた、ひげを剃るのを娘たちにしか許さなかった、といった真偽不明の伝承も数多く残っている。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
ここまで嫌味でしつこい人間が、2400年たっても語り継がれているという事実がすごい。ある意味、不滅の名声を勝ち取ってしまった皮肉。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
現代でいえば、上司に「俺の作った曲どう思う?」と聞かれて正直に答えられない部下の気持ちそのもの。時代が変わっても人間は変わらないな。
3. 海外の名無しさん
投獄といっても“1日だけ”というのが、なんだか妙にかわいい。古代の人々もちゃんとユーモアの感覚を持っていたんだな、と分かるエピソード。
4. 海外の名無しさん(>>3への返信)
しかも釈放のきっかけは、フィロクセノスの友人たちが王に嘆願したからだとか。王も意外と、人の頼みは聞いてくれるタイプだったらしい。
5. 海外の名無しさん
王に面と向かって言わず、くるっと背を向けて衛兵に「連れていけ」と命じたのが最高に効いている。古代ギリシャ史上、最強のディスかもしれない。
6. 海外の名無しさん
もう一度あの詩を聞かされるくらいなら、石切り場で重労働している方がマシ。そう言わせるほどの駄作だったというのが、逆にすごいことだと思う。
7. 海外の名無しさん
投石機を地中海の攻城戦に持ち込んだ軍事的な天才なのに、後世には“下手な詩を書いた暴君”として記憶される。歴史の残酷さよ……。
8. 海外の名無しさん(>>7への返信)
人は得意なことより、面白いエピソードのほうで覚えられてしまうんだよね。本人としては、さぞ不本意だろうけど。
9. 海外の名無しさん
フィロクセノスは当時の超有名詩人で、「人間界の神」とまで呼ばれた存在だったらしい。だからこそ王相手にも強気に出られたんだろうな。
10. 海外の名無しさん(>>9への返信)
結局どんな時代でも、確かな実力と名声があれば権力者にも本音をぶつけられる、ということか。うらやましいほどの度胸だ。
11. 海外の名無しさん
実はこの後、ディオニュシオス自身がこれをジョークとして笑って受け流した、という説もあるらしい。だとしたら意外と器が大きい。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
それが本当なら、暴君というより“批判もネタにできる人”では。少なくとも、逆ギレして処刑したわけじゃないしね。
13. 海外の名無しさん
しかも彼は後年、アテネの悲劇コンクールで本当に優勝している。念願の文学賞に喜びすぎて、宴会で羽目を外したのが命取りになったとも伝わる。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
あれだけ酷評されても諦めず、ついに賞を取ったというのは普通に立派。嬉しさのあまり飲みすぎたのも、人間味があっていい。
15. 海外の名無しさん
“ダモクレスの剣”の逸話も、このディオニュシオスの宮廷で生まれた話だよね。世界史の授業で名前だけ覚えさせられたやつだ。
16. 海外の名無しさん
批評を受け入れられず投獄したのに、翌日にはあっさり折れて釈放。怒ったり許したり、情緒が忙しくて、逆に人間くさい王様だな。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
自分のプライドを傷つけられた瞬間に過剰反応してしまうの、現代の我々にも身に覚えがありすぎて笑えない。
18. 海外の名無しさん
「採石場に戻してくれ」は、人類史上もっとも完成された“星1レビュー”の原型かもしれない。短くて、的確で、容赦がない。
19. 海外の名無しさん
なんだか『銀河ヒッチハイク・ガイド』に出てくるヴォゴン人(下手な詩を朗読して人を苦しめる宇宙人)を思い出した。元ネタは古代にあったのか。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
古代に実在したヴォゴン人、と考えると妙に納得感がある。下手な詩で人を苦しめる王様、確かに似ている。
21. 海外の名無しさん
歴史に名を残すというのは、必ずしも本人が望んだ形とは限らないんだな……。詩人として称えられたかった人が、悪い詩の代名詞になるとは。
22. 海外の名無しさん
そもそも彼の暴君イメージは、敵対していたプラトンやアカデメイアの人々が広めたものだ、という見方もあるらしい。記録は勝者が書く。
23. 海外の名無しさん
いやこれ、史実だと知って普通に笑ってしまった。古代ギリシャのコントみたいな完成度で、フリからオチまで完璧じゃないか。
まとめ
軍事的には有能だったのに、芸術家としての名声を渇望するあまり、率直な批評に耐えられなかったディオニュシオス1世。「私を採石場に戻してくれ」という一言は、権力でも人の本心まではねじ伏せられないと2400年越しに教えてくれる。コメント欄も、痛烈さに笑いつつ、最後は賞を取った王に妙な人間味を見いだす声でにぎわった。
元ソース: シラクサの僭主ディオニュシオス1世の詩は評判が悪く、酷評した詩人を採石場に投獄した話(r/todayilearned)

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