アメコミの金字塔『ダーク・フェニックス・サーガ』。ヒロインのジーン・グレイが宇宙的な力に飲み込まれ、星をひとつ食い尽くしてしまう壮絶な物語だ。じつはこの結末、当初は「ジーンが力を失い、ふつうの生活に戻る」というハッピーエンドで終わる予定だった——のだが、当時のマーベル編集長が「彼女のやったことは赦されない」と断固反対し、ジーンは命で償うことになった。
※注:『X-MEN』はマーベル・コミックスの人気シリーズ。ジーン・グレイは超能力を持つ初期メンバーの女性ヒーローで、宇宙的存在「フェニックス・フォース」に憑依されて暴走するのが『ダーク・フェニックス・サーガ』(1980年)。
今日の知ってた?
📚 『ダーク・フェニックス・サーガ』の原案では、ジーン・グレイは“死ぬ”はずではなかった。作家クリス・クレアモントの当初プランは「能力を奪われて日常に戻す」ハッピーエンドだったが、当時のマーベル編集長ジム・シューターが「星を一つ滅ぼした人間が幸せに戻るのはおかしい」と却下。結果、ジーンは自ら命を絶つラストに書き直された。
背景:『ダーク・フェニックス・サーガ』とは
『ダーク・フェニックス・サーガ』は、1980年に『アンキャニィ・X-メン』誌で連載されたクロスオーバー作品。作家クリス・クレアモント、作画ジョン・バーンのコンビが手がけ、アメコミ史でも屈指の名作として知られる。
主人公はテレパシーとサイコキネシスを操る女性ヒーロー、ジーン・グレイ。宇宙的存在「フェニックス・フォース」と一体化したことで彼女は神に近い力を手にするが、悪役マスターマインドの精神操作で“ダーク・フェニックス”として暴走。そして連載中のあるエピソードで、彼女は文字通り恒星をひとつ“食べて”しまう。
当初、作画担当バーンが「ただ星を食べるだけでは弱い」と判断し、その星には居住惑星があった——という設定を独断で追加。結果として、ジーンは間接的に何十億もの生命を奪った大量殺戮者になってしまった。
もう少し詳しく
クレアモントの当初プラン:「能力を失ってカップルで引退」。クレアモントは旧メンバーのサイクロップスとジーンの物語を、新生X-MEN(ウルヴァリン、ストーム、コロッサス等)にバトンタッチさせる形で終わらせたかった。最終決戦でジーンは力を失い、サイクロップスと一緒にチームを去って静かに暮らす——これが原案だった。
編集長ジム・シューターの介入。しかし当時のマーベル編集長ジム・シューターが「居住惑星まで滅ぼした人物に幸せな引退エンドは認められない。ヒトラーは赦されないし、ジーンも赦されない」と強硬に主張。クレアモントは渋々、ジーンが自ら命を絶つラスト(『アンキャニィ・X-メン』第137号)に書き直すことになった。
“クローン双子”ですり替える離れ業。それでもクレアモントは諦めず、サイクロップスにはジーンとうり二つの女性「マデリーン・プライアー」(後にクローンと判明)を出会わせ、二人を引退・結婚させるという形で“当初のハッピーエンド”を別人で実現した。アメコミ史でも屈指の屈折した妥協劇である。
そして数年後、結局ジーンは復活。編集部はその後『X-ファクター』誌で旧メンバーを再起させる際、「実はあれはジーン本人ではなく、彼女のコピーを作った宇宙的存在だった」とレトコン(後付け設定変更)。本人は海底のコクーンで眠っていたことに。シューターの「死は重い」という主張は、わずか数年で骨抜きにされた。
海外の反応
1. 海外の名無しさん
ちなみにマーベルは「もしフェニックスが死ななかったら?」というIFストーリーを2本描いてる。『What If』v01 27号と v02 32号。一本目は容赦なくて、それでいて傑作。二本目は……これも良いんだけど、X-MENらしく悲劇の連続を通過しないと辿り着けない出来。
2. 海外の名無しさん(>>1への返信)
二本目読んだ!物語の方向性が好きだったな。やっぱりX-MENは悲劇を経由しないと幸せに辿り着けない構造なんだよね。
3. 海外の名無しさん(>>1への返信)
一本目、ジーンが仲間のキティを一瞬の躊躇もなく殺すシーンがあるんだよな。あれが効くんだ。「もしも」のはずなのに本物の悲劇に見える。
4. 海外の名無しさん
でもさ、あの暴走って“彼女自身の行為”って言えるのか?フェニックス・フォースという外部存在に憑依されてた状態だぞ。本人の意思とは別の何かに体を乗っ取られて、強制的にやらされたことの責任を100%本人に負わせるのは、ちょっと厳しすぎる気がする。
5. 海外の名無しさん(>>4への返信)
原案だとジーン本人の責任だったらしい。でも後の作家たちが「フェニックスは独立した宇宙的存在で、ジーンを乗っ取っただけ」というレトコンを入れて、ジーンを“被害者”の側に寄せ直した。
6. 海外の名無しさん(>>4への返信)
「フェニックスは元々その人の中にあるものを増幅させただけ」って解釈もある。じゃあ自分の意思に反する外部の力で、抑えていた最悪の衝動が解き放たれたら——それは責任を取るべきなのか?という哲学問題になっちゃう。
7. 海外の名無しさん
これはアメコミ全体の宿命だよね。スケールを上げ続けないと読者が飽きる。世界の危機が当たり前になって、次は太陽系、次は銀河、次は宇宙——その分、責任も大きくなる。「ジーンは星を一つ滅ぼしただけ」って言葉が普通に出てくる時点でもう感覚バグってる。
8. 海外の名無しさん
ジム・シューターの「ヒトラーは赦されない、ジーンも同じ」って論法、極端だけど筋は通ってる。フィクションでも倫理の重みは保ちたかったんだろう。問題はその数年後にあっさり生き返らせてしまった編集部にある。
9. 海外の名無しさん(>>8への返信)
シューター自身は本気で「死は重い」と思って判断してた。けど商売の論理は別。人気キャラを永遠に消すのは経営的に無理なんだよね。
10. 海外の名無しさん
誰かが言ってた——「アメコミでは誰も死なない。ベン伯父さんを除いては」。スパイダーマンの伯父さんだけは復活させちゃダメ、というのがほぼ全社共通の不文律。
11. 海外の名無しさん
1990年代のアニメ版X-MENでは原案通り「能力を失う」エンドが採用されてる。原案を見たかった人はあのアニメを観るといい。
12. 海外の名無しさん(>>11への返信)
アニメ版の静かなエンディング、子供の頃に観てジーン可哀想って泣いた記憶がある。あれが原作の元プランだったのか。
13. 海外の名無しさん
作画のジョン・バーンが独断で「ジーンが食べた星には文明があった」って描き足したのがすべての元凶。クレアモントが書いてた“ハングリーで星を一つ食べる”だけなら、ここまで重い話にならなかった。
14. 海外の名無しさん(>>13への返信)
バーンは作家じゃなくて作画なのに物語の根幹を変えたんだよな。当時のクレアモント&バーンは黄金タッグだから許されてた感はあるけど、ジーンの運命を決めたのは編集長ではなく作画担当の一コマ、というのが面白すぎる。
15. 海外の名無しさん
クローン双子で代用、っていうクレアモントの執念がすごい。「編集長に殺せと言われたから殺した。でも俺の構想は通す。だからそっくりな女を出す」って、もはや子供のいたずら。
16. 海外の名無しさん
マデリーン・プライアーのその後がまた悲惨でね。サイクロップスは結局ジーン本人が復活すると妻子を捨てて元カノに走る。お前は何をしてるんだ、と。
17. 海外の名無しさん(>>16への返信)
クレアモント自身も後年「あのサイクロップスは女たらしすぎる、ジーンはもっといい男(ウルヴァリン)と組ませるべき」と言い出して、有名な三角関係の伏線を張ったらしい。脚本家の私怨がそのまま物語になっていくの草。
18. 海外の名無しさん
リード・リチャーズが宇宙喰らいのギャラクタスを救った件もあるよね。ギャラクタスは無数の居住惑星を滅ぼしてきたのに、ジーンが一つ滅ぼした件より罪が軽い扱い。あの矛盾を突いた「リード・リチャーズの裁判」エピソードは秀逸だった。
19. 海外の名無しさん
ジーン本人と憑依された彼女を別人と捉えるか同一人物と捉えるか、で評価が真逆になる。シューターは“同一人物派”、後の作家は“別人派”。読者は今もこの論争の中にいる。
20. 海外の名無しさん(>>19への返信)
これってフィクション特有の話じゃなくて、心神喪失の刑事責任とか、薬物影響下の犯罪をどう裁くかと地続きの議論だよね。アメコミがそういう問いを80年代に投げかけてた事実が普通にすごい。
21. 海外の名無しさん
クリス・クレアモントって17年間X-MENを書き続けて、一時期は世界一売れてる漫画家だったんだよ。ギネスにも単巻売上記録で載ってる。シューターと衝突しながらもあれだけ書き続けたって、それだけで伝説。
22. 海外の名無しさん
個人的にはこのレトコン騒動で、子供のころコミック収集をやめた。せっかく感動した死がひっくり返るなら、もう物語を信じられない——って当時思った。今でも絵だけ眺めて楽しんでる。
23. 海外の名無しさん(>>22への返信)
分かる。死の重みって読者との契約なんだよ。一度それを破ると、以降の犠牲シーンも全部「どうせ戻ってくるんでしょ」になる。
24. 海外の名無しさん
スーパーマンの死(1992年)が「アメコミの死を壊した」とよく言われるけど、その何年も前からこういう復活劇は普通に行われてた。スーパーマンは派手だっただけ。
25. 海外の名無しさん
編集長が物語の結末を変えさせて、作家がそれに抵抗してクローン双子で帳尻を合わせて、後の編集部がレトコンで台無しにして——気づけば物語の主役はキャラじゃなくて編集と作家のバトルになってる。アメコミ最大の悲喜劇はいつも舞台裏で起きてる。
まとめ
『ダーク・フェニックス・サーガ』の悲劇的な結末は、作家のプランではなく「居住惑星を滅ぼした人物を赦せない」という編集長ジム・シューターの倫理判断によって生まれた。コメ欄ではフェニックス・フォースの責任論、レトコンによる骨抜き、作画ジョン・バーンの一コマがすべてを決めた話など、半世紀近く前の編集現場の生々しい綱引きが今も語り継がれている。物語の運命は登場人物ではなく、机を挟んだ大人たちの議論で決まる——アメコミの宿命が詰まったエピソードだ。
元ソース: 『ダーク・フェニックス・サーガ』の結末は当初「ジーンが力を失い日常に戻る」予定だった。マーベル編集長ジム・シューターが「彼女の所業は赦されない」と反対した話


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